質問主意書

第186回国会(常会)

質問主意書


質問第一五六号

国際労働機関(ILO)の条約・勧告適用監視メカニズムに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十六年六月十九日

石橋 通宏   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   国際労働機関(ILO)の条約・勧告適用監視メカニズムに関する質問主意書

 国際労働機関(ILO)は、第一次世界大戦後の一九一九年に、社会正義を基礎とする世界の恒久平和を確立することを目的に創設され、現在、国連の専門機関として、加盟百八十五か国の政府代表、労働者代表、使用者代表の三者構成主義に基づき、基本的人権及び労働権の確立、労働諸条件の改善と生活水準の向上、安定的な雇用の創出と社会的保護の整備、そして社会対話を通じた公正・公平な国際社会づくり等に取り組んでいる。
 そしてその目標を実現するため、ILOはその最も重要な役割・任務として、国際労働総会(ILC)においてILO条約に代表される国際労働基準(ILS)を決定、採択し、加盟国によるその批准と、国内における適用促進を図っている。とりわけ適用促進については、各加盟国が、批准した条約及び憲章上の要請で批准の有無にかかわらず遵守する義務があるとされている中核八条約(第八十七号、第九十八号、第百号、第百十一号、第二十九号、第百五号、第百三十八号、第百八十二号)について、定期報告義務(憲章第二十二条等)や苦情・申立制度(憲章第二十四条、憲章第二十六条等)、さらには結社の自由委員会制度等からなる条約・勧告適用監視メカニズムを整備している。これはまさに、国際社会が連携・協力して、国際労働基準の適用確保と拡大を図り、もって社会正義と平和の実現を達成しようとするメカニズムであり、全てのILO加盟国がその手続を尊重することが求められている。
 我が国は、ILO創設時の原加盟国であり、一九四〇年に一度は脱退したものの、一九五一年に再加盟し、一九五四年以降は主要産業国の一つとして(政府側)常任理事国という名誉と責任ある立場を占めている。また、労使団体についても、長年にわたって選挙で選ばれる理事組織に選出され、政府代表と並んで重責を担っており、バンコクに本部を置くILOアジア太平洋地域総局の責任者である地域総局長もまた、日本人が多年にわたってその任を務めている。つまり、我が国がILOにおいて果たすべき役割と責任は名実ともに大変大きく、国際労働基準の批准促進や適用確保においても、世界やアジア太平洋諸国に率先して範を示していかなければならない。
 右の背景を踏まえ、以下質問する。

一 安倍政権として、ILOの存在意義と役割をいかに認識し、その諸活動への積極的な参加と支援、とりわけ、ILO条約の批准促進、中核八条約及び既批准の条約の適用確保について責任ある対応を行っていく方針か、見解を示されたい。

二 我が国は、中核八条約のうち、いまだに第百五号及び第百十一号条約を批准していない。これらの条約は、それぞれすでに百七十四加盟国、百七十二加盟国が批准を完了しており、我が国は残り数少ない未批准国の一つとなっている。安倍総理が国際会議等で繰り返し述べている「(国際)法の支配」の原則を自ら実践し、世界に範を示していく観点からも、一刻も早く両条約を批准してその適用を推進することが必要だと考えるが、政府の見解と今後の方針を示されたい。

三 平成二十六年四月十日の参議院厚生労働委員会で、社民党の福島みずほ委員が、日本の労働組合団体がILO結社の自由委員会(以下「委員会」という。)に提訴した案件(案件番号二八四四 日本)について質疑で取り上げ、委員会からの勧告に対して政府はどのように対処するのかを問うたところ、政府からはあたかもその勧告が当事者たる労使に向けられたもので、政府には対応を行う必要も責任もないかのような答弁がなされている。委員会への提訴は、結社の自由に関わる侵害行為について、労使団体が自国政府の作為・不作為を正すために追求できる国際的救済制度であり、当然、委員会からの勧告は、当該政府に対して行われるものである。この点で、政府の答弁は、この当たり前の原則を否定しかねず、日本がILOの適用監視メカニズムを尊重しない立場であるかのような誤ったメッセージをILO及び国際社会に対して送りかねないが、政府はいかなる趣旨をもってこのような答弁をしたのか、その真意を明らかにされたい。

四 前記三で指摘した答弁において、政府は「JALの問題につきましては、現在、司法の場で争われていることでございますから、その推移を見守りたい」と答弁しているが、本来、ILOの条約勧告適用監視メカニズムは、国内の司法手続からは独立して存在しており、提訴等について、国内の司法手続を完了していなくても(つまり並行して)追求が可能な制度になっている。まず、この点について政府の認識を明らかにされたい。その上で、当該案件について六月三日、五日に東京高等裁判所の控訴審判決が下された状況を踏まえ、今後、政府として委員会勧告を尊重し、いかなる具体的対応を行っていく予定か、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。