質問主意書

第186回国会(常会)

質問主意書


質問第一五一号

漢方生薬製剤に用いる原料生薬の放射性物質汚染対策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十六年六月十八日

山本 太郎   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   漢方生薬製剤に用いる原料生薬の放射性物質汚染対策に関する質問主意書

 東日本大震災により引き起こされた東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故(以下「原発事故」という。)により放出された放射性物質は、東日本を中心とした我が国の国土を広範囲に汚染した。これらの放射性物質による汚染は、食材となる農作物のみならず、漢方生薬製剤に用いる原料生薬からも検出されたことが、平成二十四年九月十三日に日本製薬団体連合会(以下「日薬連」という。)により報告された「生薬の放射性物質検査結果の調査報告について」(以下「調査報告」という。)によってすでに明らかにされている。調査報告によれば、平成二十三年十二月十三日付け薬食監麻発一二一三第二号厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課長通知「漢方生薬製剤原料生薬の放射性物質の検査に係る適切な方法について」に準じてサンプリング及び検査が行われた三十五生薬・二百七十七検体のうち、六生薬・十検体(コウボク四検体、ジュウヤク一検体、ソヨウ一検体、トウキ二検体、ドクカツ一検体、ワキョウカツ一検体)から、定量下限値である一キログラム当たり二十ベクレルを超える放射性セシウムが検出されたとのことである。
 薬事法(昭和三十五年法律第百四十五号)においては、第五十六条第六号及び第七号に該当する「異物が混入し、又は付着している医薬品」及び「病原微生物その他疾病の原因となるものにより汚染され、又は汚染されているおそれがある医薬品」は、「販売し、授与し、又は販売若しくは授与の目的で製造し、輸入し、貯蔵し、若しくは陳列してはならない」とされている。すなわち放射性物質に汚染された原料生薬は、薬事法上はもちろん、漢方生薬製剤という病める者の治療に用いられる医薬品の原料であるがゆえに、倫理上の観点からも、決して市場に流通するようなことがあってはならず、厳格な管理が必要とされることは言うまでもない。
 現在、漢方生薬製剤に用いる原料生薬の放射性物質汚染対策については、漢方生薬製剤に係る各製造業者又は製造販売業者によって、平成二十三年十二月に日薬連により公表された「生薬等の放射性物質測定ガイドライン」(以下「検査ガイドライン」という。)に則った検査体制のもとで運用されているものと理解しているが、未曾有の原子力災害による医薬品の放射性物質汚染という、今まで人類が経験したことのない過酷な事態にあって、そもそも製造業者や製造販売業者の自主的な対策に任せて行われている現行の漢方生薬製剤に用いる原料生薬の放射性物質汚染対策は、国民の健康を守るために執り行われるべき薬事行政として、適切であると言えるのか。政府の認識と見解を確認すべく、以下質問する。なお、答弁書においては、各質問項目ごと個別に答弁されたい。

一 検査ガイドラインは、厚生労働省から、平成二十三年十月十四日付け薬食監麻発一〇一四第一号厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課長通知「放射性物質に係る漢方生薬製剤の取扱いについて」(以下「監・麻課長通知」という。)が発出されたことを受けて、日薬連によって策定されたものと理解しているが、この検査ガイドラインの公表、運用開始以前に、厚生労働省は薬事行政を所管する責任省庁として、その内容の妥当性につき科学的検証及び評価は行ったのか。行った場合には、いかなる組織によっていかなる検証及び評価が行われたのか、具体的に示されたい。

二 平成二十三年十一月二十一日に藤井基之参議院議員より提出された「放射性物質に係る漢方生薬製剤等の取扱いに関する質問主意書」(第百七十九回国会質問第三二号)に対する答弁書(内閣参質一七九第三二号)の一についてで、「現在、日本製薬団体連合会において、厚生労働省の指導の下で、国立医薬品食品衛生研究所等の研究者に内容の確認を受けながら漢方生薬製剤及びその原料生薬(以下「漢方生薬製剤等」という。)に関する放射性物質の検査方法に係るガイドラインの早急な策定に向けて検討を進めているところである。」と答弁している。この答弁中にある、検査ガイドラインの内容の確認を担当したとされる「国立医薬品食品衛生研究所等の研究者」とはいかなる者であるのか。また、国立医薬品食品衛生研究所以外の機関で、この検査ガイドライン策定に関与した機関は存在するのか、具体的に示されたい。

三 監・麻課長通知においては、対象原料生薬の使用及びこれを使用して製造された漢方生薬製剤を出荷する場合にあっては、「精密な方法を用いて検査した場合に放射性物質が検出限界以下であることを確認すること。」とされているが、この通知には検出限界について、具体的数値を挙げての指示が出されていない。しかしながら検査ガイドラインにおいては「監・麻課長通知に照らせば、現時点においては、ゲルマニウム半導体検出器を用いて検査し、放射性物質が定量下限値以下であることが必要である。なお、この場合の定量下限値は、ヨウ素百三十一、セシウム百三十四及びセシウム百三十七の三核種において各々二十ベクレル毎キログラム以下とする。」と定量下限値の具体的数値が明記されている。食品については、平成二十三年三月二十五日に開催された食品安全委員会において「「食品衛生法に基づき放射性物質について指標値を定めること」に関する食品健康影響評価について」という議事の下、食品中に含まれる放射性物質の暫定基準値(以下「規制値」という。)が議論され決定されたが、漢方生薬製剤において、今回の定量下限値を決定するに当たっては、食品安全委員会のような法的根拠を持った評価機関によることなく、日薬連という業界団体にその仔細の決定について一任したということであるのか。また、科学的知見に基づいた客観的かつ中立公正な評価機関による議論や審査は、漢方生薬製剤においては不要と考えているのか、政府の見解を誠意をもって示されたい。

四 私が平成二十五年十月二十一日に提出した「放射線被曝防護に関する質問主意書」(第百八十五回国会質問第二一号)に対する答弁書(内閣参質一八五第二一号)の十についてでは、原発事故後の食品中の放射性物質に関する検査については、「放射性セシウム、ストロンチウム九十、プルトニウム二百三十八、プルトニウム二百三十九、プルトニウム二百四十、プルトニウム二百四十一及びルテニウム百六を考慮に入れて設定した食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号)に基づく基準値に従い実施されている」とあるが、検査ガイドラインにおいては、前記三で示したように三核種しか考慮されていない。同じ経口摂取するものであっても、漢方生薬製剤は食品と異なり、病める者が治療のために服用するものであることは言うまでもなく、その三核種以外の放射性核種の検査が行われていない医薬品製剤は、薬事法第五十六条第七号に該当するのではないのか。加えて、この検査ガイドラインに則り三核種に対する検査しか行われていない医薬品製剤が市場に流通することは、薬事行政上適切であるか否か、政府の見解を示されたい。
 ただし、検査ガイドラインによる検査体制については、「あくまで日薬連が策定したものであって、政府として回答する立場にない。」との見解であれば、それは薬事行政上の責任を放棄していると言わざるを得ない。政府の立場を明確に示されたい。

五 前記四に関連して、食品は健康である者のみならず、病める者も毎日経口摂取するものである。従って漢方生薬製剤の規制値と食品の規制値、どちらが厳しくあるべきかという議論は適切とは言えず、どちらも同様に厳格な規制がなされるべきものであると考えられる。すなわち、どちらの規制値も国民の被ばく極小化のため一層厳格な数値に統一されるべきと考えられるが、漢方生薬製剤についてはヨウ素百三十一、セシウム百三十四及びセシウム百三十七の三核種において各々一キログラム当たり二十ベクレル以下を定量下限値とする一方、一般食品中の放射性セシウムについては一キログラム当たり百ベクレルを基準値とするなど、その現行の規制値には大きな差異が存在する。これらの規制値設定の整合性について、科学的根拠を伴った政府の見解を明確に示されたい。
 ただし、本質問においても検査ガイドラインについては「あくまで日薬連が策定したものであって、政府として回答する立場にない。」との見解であれば、それは薬事行政上の責任を放棄していると言わざるを得ない。政府の立場を明確に示されたい。

  右質問する。