質問主意書

第186回国会(常会)

質問主意書


質問第一一一号

会社法改正案における「特別支配株主による株式等売渡請求手続き」に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十六年五月二十八日

前川 清成   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   会社法改正案における「特別支配株主による株式等売渡請求手続き」に関する質問主意書

 会社法の一部を改正する法律案(第百八十五回国会閣法第二二号)に関して参議院法務委員会における審議を通じて、衆議院では明らかにならなかった様々な問題点、とりわけ「特別支配株主の株式等売渡請求」(第百七十九条以下)については、①原則十分の九以上の株式を有する株主(特別支配株主)は、その他の株主の意向にかかわらず、一方的に全株式を取得することができるものの(第百七十九条第一項)、②特別支配株主から未だその対価を支払われていなくても、特別支配株主が一方的に定めた「取得日」に株式が移転してしまうこと(第百七十九条の九第一項)、③特別支配株主が対価を支払わない場合において売渡株主の権利を擁護する規定が欠落していること、④「対価」も特別支配株主が一方的に決定することができ(第百七十九条の二第一項第二号、第三号)、これに対して、売渡株主はその価格が「著しく不当」な場合だけ差し止めを求めることができるに過ぎない(第百七十九条の七第一項第三号)などの問題点が明らかになった。
 このように売渡株主の権利を大きく制限する制度を創設するにもかかわらず、その必要性に関して、谷垣法務大臣は法務委員会における審議において、「今回こういう、例えば十分の九の大株主であれば少数株主に売り渡すように請求が、要求ができるということになりまして、その狙いの一つは、柔軟な企業統治ができるようにというようなことということ(中略)になっておりますが」、「先ほど申し上げましたいろいろな手続的な要件の取り方などもそういうものが表れて、その百パーセント子会社にして迅速な意思決定をしたいという実務上の要請が、今までこういうキャッシュアウトと申しますか、そういう制度が、元々は必ずしもキャッシュアウトを目的とした条項でないものを使ってまで行われてきたのは、かなりそういう実務上の要請があるのではないかと私は考えております」と答えるに過ぎず(平成二十六年五月二十日参議院法務委員会)、売渡株主の権利を大幅に制限する正当性や具体的必要性、合理性が明らかではない。
 そこで、質問する。

一 1 本件制度は、実務においてどのような役割を果たすのか。
 また、どのような事例を想定しているのか。単に「キャッシュアウト」とだけで片付けることなくいずれも具体的な事例に則して、本件制度の必要性を明らかにされたい。
2 他の先進諸国において同様の制度は採用されているか。
 採用されている場合、どこの国々か。また本件制度と相違点はあるか。あれば、その相違点を明らかにされたい。
 本件制度においては、前記の通り売渡株式は、特別支配株主が未だ対価を支払っていなかったとしても、特別支配株主が一方的に定めた「取得日」に移転する。
 売渡株主に対して希望しない売渡を強制するにもかかわらず、売渡株主から同時履行の抗弁権を奪う理由に関しても、谷垣法務大臣は「今まさに、先ほど私の答えを先取りしておっしゃたんですが、たくさんいらっしゃると、それはその履行地も様々。それから、株主名簿を見てやっても、場合によると、なかなかその所在地におられないというようなこともあろうかと思います。そういう大量の一律処理の必要性というものがあるというふうに私は考えます」(平成二十六年五月二十日参議院法務委員会)としか述べない。
 しかし、右理由のうち前者に関しては、売渡を強制する以上、特別支配株主は売渡株主の指定する銀行口座宛に対価を送金する程度の手間を負うことは当然である。仮に前記一において質した必要性等に照らして相当程度の合理性があるとしても特別支配株主の対価支払義務を持参債務から取立債務へ変更するなど「より制限的でない、他の選びうる方法」によって立法目的を達成することも可能である。
 後者に関しても供託等の制度は整っており、支払い前に売渡株式を移転させなければならない理由にはならない。
 そこで、質問する。

二 1 本件制度において、株式移転の効果が「取得日」に生ずることとした具体的な必要性は何か。
2 特別支配株主の対価支払い義務を持参債務とできない理由はあるか。
3 仮に持参債務とできないとしても、取立債務と変更すれば足りるのではないか。
4 何故同時履行の抗弁権を奪うのか。
5 特別支配株主が対価を支払わない場合における、売渡株主の救済手段は本案には書かれていない。
 何故手当てされないのか。
 本件制度においては、対価を定める基準は設けられておらず、ただ「著しく不相当」な場合に限り売渡株主は本件制度の差し止めを求めることができるに過ぎない。
 そこで、質問する。

三 1 売渡株主は株式譲渡を希望していないにもかかわらず、何故「時価」での売却ではないのか。
2 対象会社は何を基準にして「対価」を承認するのか。「著しく不相当」であるか、否かであれば、「著しく不相当」であるか、否かの判断基準は何か。仮に「著しく不相当」であるか、否かでない場合、その基準は何か。また何故法文に書かれていないのか。

  右質問する。