質問主意書

第186回国会(常会)

質問主意書


質問第九九号

戸籍謄抄本等の不正請求事件並びに本人通知制度に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十六年五月十四日

尾立 源幸   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   戸籍謄抄本等の不正請求事件並びに本人通知制度に関する質問主意書

 二〇〇五年に行政書士が複数の興信所と結託して職務上請求書を用いて大量に戸籍謄抄本等を交付請求した事件や二〇〇六年に興信所が市販の印鑑を用いて委任状を偽造して大量に交付請求した事件が発覚したことなどを受け、二〇〇七年に戸籍法が改正された。この改正で不正取得行為を刑罰の対象とし罰則を強化するとともに、第三者・専門資格者(弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理人、行政書士の八士業)が請求する際の条件が厳格に制限されたが、「本人通知制度」及び交付請求者の個人情報の開示制度の導入は見送られた。
 しかしながら、戸籍法が改正されて以降も、二〇一一年に愛知県警捜査員の戸籍謄抄本等が不正取得された容疑で探偵事務所や法務事務所の経営者、司法書士等関係者が逮捕される事件が発生(プライム総合法務事務所事件)したほか、全国的に大量に個人情報を不正に取得した事件が発生している。これまで発覚しているだけでも約三万件を超える戸籍謄抄本・住民票等の不正取得が行われていること、また、逗子・ストーカー殺人事件においても役所から調査会社が巧妙な手口で被害者の住所を聞き出した事実が明らかになっている。
 これら不正取得事件を受け、事前に登録した者に対して、第三者による戸籍謄抄本等の取得があった場合に取得の事実を通知する「事前登録型本人通知制度」と、不正取得事件として確定した場合、被害者に対して不正取得の事実があったことを伝える「被害告知型本人通知制度」が、全国各地方自治体において導入・実施され始めている。
 しかしながら、地方自治体においては、制度のバラツキや法的リスクを懸念する声もあがっており、政府として個人情報の保護、身元調査等の人権侵害の防止、被害者の救済に向け、早急に適切な措置を講じるべきと考える。
 二〇〇七年の戸籍法改正に際して、衆議院法務委員会附帯決議(二〇〇七年三月二十三日)では「八 本法の施行状況及び他の関連制度における扱いに照らし、第三者が不正に戸籍の謄抄本を交付請求することを防止する更なる措置の導入の是非について検討を行うこと」、参議院法務委員会附帯決議(二〇〇七年四月二十六日)でも「七 本法の施行状況及び他の関連制度における扱いにも配慮し、戸籍謄抄本の不正請求・使用事案による被害に伴う諸問題についての対応策を幅広く検討すること」が全会一致で決議されていることを踏まえ、以下質問する。

一 全国における戸籍謄抄本等の不正請求の被害状況について、政府として実態を把握しているのか。把握している場合、戸籍法第百三十三条の具体的な適用事例を含めて、被害状況を示されたい。また、把握していない場合、調査等による把握予定はあるのか。調査等を行う予定がない場合は、調査等を行わない理由を示されたい。

二 戸籍謄抄本等の不正請求の防止や被害者救済のために、政府としてこれまで講じた措置を具体的に示されたい。措置を講じていない場合、講じていない理由を明らかにされたい。また、被害状況調査並びに不正請求事件の実態把握を実施した上で、その結果を地方自治体等へ情報提供をするなど、不正請求の防止に向けた必要な措置を早急に講じるべきと考えるが、このような措置を講じる予定はあるのか。措置を講じる予定がない場合、その理由を明らかにされたい。加えて、被害者に対応する相談窓口の設置を始めとした救済措置を早急に講じるべきと考えるが、このような措置を講じる予定はあるのか。措置を講じる予定がない場合、その理由を明らかにされたい。

三 プライム総合法務事務所事件の公判記録では、容疑者らは不正請求が発覚しないよう、本人通知制度が導入されている市町村に対する請求については、依頼を断っている事実が明らかとなっている。また、二〇一二年七月には、埼玉県桶川市の一市民が「事前登録型本人通知制度」に登録していたことから、不正取得が発覚し、東京都と鹿児島県の調査会社二人が逮捕され、行政書士が書類送検されている。
 このことからも「事前登録型本人通知制度」が不正請求の防止・抑止力になっていることは明らかであり、不当な目的に使用されたかどうかの判断を、記載された本人が適切、迅速に行うための作業として「本人通知制度」を法定化し、交付請求者の氏名等の情報を被交付請求者に開示する措置を講ずるべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

四 全国各地方自治体で導入され始めている「事前登録型本人通知制度」について、①事前登録の仕方、登録期間、②対象となる証明書、③本人への通知方法、④通知の内容、特に交付請求者の氏名の公表など、その対応に自治体間で違いが出てきているところである。自治体によっては登録数が増加するに伴って、事務負担等の対応・処理能力の限界を超えることを危惧しているところも出てきている。国として、「事前登録型本人通知制度」並びに「事後通告型本人通知制度」に関して、全国各地方自治体における実施状況について早急に調査し、各地方自治体任せにするのではなく、戸籍法を改正する等、国の制度としての導入と地方自治体における必要な経費を国として補助できるよう早急に取り組むべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。また、このような取組を行う予定がない場合、その理由を明らかにされたい。

五 戸籍等交付窓口における交付請求の不当性の判断基準については、当不当の判断、委任状交付の有無等を本人に確認することが確実であり、交付請求のあった事実を本人に通知する措置が最も有効と考える。戸籍等交付窓口で、交付請求が不当かどうかを何によって判断するのか、個人情報の保護、人権尊重の理念を踏まえ、明確な判断基準を明らかにされたい。また、偽造委任状による不正請求を防止するため、本人通知制度の導入を始めとした委任状の正当性を確認する方法を統一する等の有効な措置を講じるべきと考えるが、政府の見解を示されたい。措置を講じる予定のない場合、その理由を明らかにされたい。

六 八士業の職務上請求書の適正使用など、住民票の写し請求等の厳正な取扱について政府として関係団体に対しどのような対応・働きかけを実施しているのか、要請事例や処罰事例を含め具体的に明らかにされたい。働きかけを実施していない場合、早急に八士業団体等に働きかけ、各士業団体での対応策や処罰事例を把握し、明らかにすべきと考えるが、その予定はあるのか。併せて調査における密行性を理由に、依頼者の氏名や受任事件名等を明らかにすべきではないとの意見があるが、戸籍謄抄本等が差別的事象に利用されている現実を直視し、一定期間をおいて入手した戸籍謄抄本等について廃棄することや戸籍謄抄本等の交付を請求したことを本人に通知すること、流用されない安全策の周知徹底等など個人情報保護の原則を守るよう関係士業団体等に働きかけるべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
 また、戸籍謄抄本等の不正請求の再発防止に向けて、八士業による職務上請求時に疎明資料の添付や職務上請求書の様式の統一化、資格取得の厳格化や事件を引き起こした際の資格の剥奪等、関係省庁と連携した偽造防止策や啓発の強化等について有効な手立てを講じるべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
 さらに、戸籍謄抄本等を不正取得された被害者の取得請求理由について、地方自治体と連携して調査し、例えば、弁護士にのみ認められている仕事を行政書士が行っているケース等がないか実態調査を行うべきと考えるが、いかがか。また、このような調査を実施する予定がない場合、その理由を明らかにされたい。

七 法制審議会戸籍法部会「戸籍法の見直しに関する要綱案についての検討事項(二)(案)」(二〇〇六年十一月二十一日)の「八 交付すべき証明書」の(注三)では、①戸籍の抄本(個人事項)目的を達すると思われる場合に、市町村の窓口で抄本の請求にとどめるよう交付請求者に指導する扱いを正当化する通達等の発出は可能と考えられる、②国・地方公共団体の機関、民間企業等につき、抄本で足りる場合には、その限度で提出を求める扱いとすべきこと、及びあらかじめどのような事項が記載された戸籍の抄本を取得、提出すればよいかが提出者に分かるようにすることについて、啓蒙を行うものとするとして、必要な事項に限定した公証制度への展望が示され、具体例として③パスポート申請が取り上げられ、旅券事務所に対して啓蒙を行うとも記されている。①の通達の発出、②の啓蒙、③の旅券事務所等への啓蒙について、具体例を示されたい。また、行っていない場合、その理由を明らかにした上で、法務省の責任で、戸籍の謄抄本の提出を求めている国、地方自治体の機関、民間企業等の実態把握と、抄本(個人事項証明書)や住民票記載事項証明書で足りるかどうかの具体的検討・指針作りを行うべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

八 探偵業の業務の適正化に関する法律(探偵業法)について、戸籍謄抄本等を不正入手する等の情報収集行為が「実地の調査」に当たらないことから同法に定義された探偵業務とはならず、現行法では規制できない状況にある。ついては事件の再発防止、人権侵害の防止の観点から、熊本県、福岡県、香川県、徳島県、大阪府等で制定されている部落差別調査を規制する条例等を踏まえ、調査業者に対する実効性のある規制が可能となるよう、早急に法改正を行うべきと考えるが、政府の見解を示されたい。また、政府として関係団体等へ自主規制を行うよう働きかけ、指導するべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。さらに、これまで政府として関係団体等に対する働きかけ・指導等を行ったことがある場合は、どのような働きかけ等を行ったのか明らかにされたい。

九 本年二月、大阪市職員が戸籍情報システムを悪用して橋下市長や著名人・同僚職員の戸籍をのぞき見た問題が明らかとなり、現在、大阪市が全庁的な調査を実施しているが、戸籍謄抄本や住民票等を発行する窓口職員のモラルや人権意識の希薄化が懸念されている。政府として、再発防止策に向けて必要な措置を講じるとともに、地方自治体と連携して窓口職員の人権教育・モラルの向上に向けた具体的施策を講じるべきと考えるが、その予定はあるか。予定がない場合、その理由を明らかにされたい。

  右質問する。