質問主意書

第186回国会(常会)

質問主意書


質問第二二号

臨床研究における医師と製薬会社による患者の権利侵害に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十六年二月二十日

川田 龍平   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   臨床研究における医師と製薬会社による患者の権利侵害に関する質問主意書

 高血圧症治療薬「ディオバン」(一般名バルサルタン)の臨床研究に製薬会社社員が関与していた問題(以下「ディオバン問題」という。)を受け、大手製薬会社のノバルティスファーマ株式会社(以下「ノ社」という。)は昨年七月、今後社員は臨床研究に一切関与しないと公表したばかりであるが、その後も同社社員が、慢性骨髄性白血病治療薬を用いた医師主導臨床研究(以下「SIGN研究」という。)において不当な関与をしていたことが明らかになった。
 そこで以下、質問するので、質問項目毎に丁寧に答弁されたい。答弁に当たっては「調査中」などとせず、現時点までに明らかになったことについて、誠実に答弁されたい。また、調査中であるために答弁ができない場合には、厚生労働省のどの部署の責任でいかなる調査を実施し、いつまでに調査結果を明らかにするのか示されたい。

一 まず、ディオバン問題やSIGN研究問題に限ることなく、法令解釈及び運用についての一般論として質問する。医師主導の医薬品臨床試験において、当該医薬品の製造販売事業者の社員が、研究の実施計画書に名前を記載されずに関与し、労務提供を行い、データの不正操作やバイアスのかかった論文結果の誘導等を行い、それによって得られた製品情報を広告に使った場合、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律が規制する「欺まん的顧客誘引」に該当する可能性はあり得ると考えてよいか。
 また、医療用医薬品製造販売業公正取引協議会の規約に違反する可能性はあり得ると考えてよいか。
 加えて、それぞれについて、データの不正操作等が立証されない場合でも、当該医薬品の製造販売事業者の社員が関与を隠していた場合はどうか。
 さらに、それぞれに関し法令解釈及び運用について、政府の見解を明らかにされたい。

二 昨年十月、医療用医薬品製造販売業公正取引協議会の寺川祐一専務理事は、ディオバン問題における奨学寄附金の提供などを含むノ社側と大学との関係について、寄附に関する基準などを定めた公正競争規約上、明らかな違反とは考えていないとの認識を示しているが、公正取引委員会も同じ見解であるか、明らかにされたい。
 また、薬事法に基づく調査は刑事告発による調査に委ねた形だが、公正取引委員会としての調査は行っているのか。行っていない場合にはその理由について、明らかにされたい。

三 SIGN研究において、ノ社の複数の社員が上司の了承を得た上で、医療機関から研究データを回収するなどの労務提供を行い、契約に基づかずに研究に関与していた問題が露見したが、これも前記二で述べた規約違反ではないか。公正取引委員会の、法令解釈及び運用についての見解を、明らかにされたい。
 また、公正取引委員会として調査に着手しているのか。着手していない場合にはその理由について、明らかにされたい。

四 SIGN研究では、服用薬を新製品に切り替える患者に試験概要を示し、利益相反がないと断言する「説明文書・同意書」の作成・更新に、その新薬を販売するノ社が関与していた疑いが報道されている。この「説明文書・同意書」の電子データは二〇一二年春に作成され、文書属性を示すプロパティにはなんと「Novartis(ノバルティス)」の会社名が記されていたとのことだが、厚生労働省はこの事実を把握しているか。

五 前記四の「説明文書・同意書」にはまた、患者の個人情報について「本臨床研究関係者以外の外部に流出したり目的外に利用されたりしないよう適切に保護する」と記載されているとのことだが、事実か。

六 前記五に関して、患者アンケートのコピーを東京大学医学部附属病院側がノ社社員に渡し、データ解析さえさせていた疑惑も伝えられている。これが事実とすれば「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」に違反し、プライバシーの侵害に当たるのではないかと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

七 医薬品の切替えは本来医師の裁量によるべきだが、SIGN研究においては製薬会社がその名前を隠した形で臨床研究実施計画書の作成に関与し、医師は患者がこれに従うように誘導した疑いがある。もしこれが事実とすると、医師が患者に最善の治療を提供する機会を奪った可能性が高い。このような可能性が考えられる研究計画であれば、被験者保護の点から極めて深刻な事件と考える。厚生労働省はこの観点から臨床研究実施計画書の内容を調査しているか、明らかにされたい。

  右質問する。