質問主意書

第186回国会(常会)

質問主意書


質問第二一号

被験者保護の観点からの臨床研究の法制化に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十六年二月十九日

川田 龍平   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   被験者保護の観点からの臨床研究の法制化に関する質問主意書

 高血圧症治療薬「ディオバン」(一般名バルサルタン)の臨床研究に製薬会社社員が不当に関与していた問題(以下「ディオバン問題」という。)に続き、慢性骨髄性白血病治療薬の臨床研究(以下「SIGN研究」という。)においても製薬会社が不当な関与をしていた事実が明らかになった。
 他方、田村厚生労働大臣は昨秋の国会答弁で、臨床研究の法制化をこの秋までに検討すると約束したが、一向に進捗の様子が見られない。このままでは安倍政権の成長戦略の柱の一つであるライフサイエンス分野は、世界でまともに相手にされなくなり、国際共同研究にも支障を来し、イノベーションの名のもと開発される医薬品・医療機器の信頼性が揺らぎ、輸出拡大などおぼつかなくなってしまう。
 そこで以下、質問するので、政府においては非常な危機感を示すためにも、質問項目毎に丁寧に答弁されたい。

一 昨年十一月五日の参議院厚生労働委員会において私は、高血圧症治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会はインフォームドコンセントの観点からも検討すべきではないかと問うたところ、原徳壽医政局長は「被験者保護の観点からのインフォームドコンセントについては、この検討委員会の直接的なターゲットではない」と答弁し、田村厚生労働大臣も「ディオバンの話に関して言えば、これは今現在、被験者保護というよりかは実態解明という部分を進めさせていただいておる」、「被験者保護は被験者保護の方でまた別途しっかりと担保できるような、そういうような検討を進めさせていただきたい」と答弁している。研究倫理や被験者保護の観点は検討会の検討の対象外という趣旨の答弁に驚いたところだが、厚生労働省はなぜ研究倫理や被験者保護を検討対象から除いたのか、理由を明らかにされたい。

二 ディオバン問題を踏まえて臨床研究の法制化を検討するとのことであったが、そうであれば研究倫理、被験者の保護よりも臨床研究の不正防止という点に重点を置いた法制化の方向で検討することになるのか。また、疫学研究・臨床研究を統合する倫理指針についても、ディオバン問題を受けての研究倫理、被験者保護の見直しは検討されていないようだが、行う予定はないのか、政府の見解を明らかにされたい。

三 私が提出した「アルツハイマー病研究の国家プロジェクトに関する質問主意書」(第百八十六回国会質問第七号)で取り上げているアルツハイマー病の早期発見を目指す国家プロジェクト「J-ADNI(アドニ)」においても、主任研究者が独断で基準に合わない人を被験者として認めたり、手順書に違反する事例が相次いで記録されていることが報じられている。被験者から同意書を得ていたのか疑わしいとの情報さえある。そこで、被験者に対するインフォームドコンセント、倫理の観点から、この国の臨床研究における実態を徹底的に調査・把握し、世界に恥ずかしくない倫理レベルに引き上げるための改善策を検討する有識者会議を厚生労働大臣の下に設置するなどの施策を検討すべきと考えるが、いかがか。

四 「高血圧症治療薬の臨床研究事案を踏まえた対応及び再発防止策について(中間とりまとめ)」においては、主な臨床研究実施機関による自主点検の結果が示されているが、この点検方法により、SIGN研究に対する疑惑と関連するような問題を発見することができているのか。点検結果に関して、厚生労働省の見解を明らかにされたい。

五 今秋を目途に検討するとしている臨床研究の法制化について、現段階でどのような検討をどこの部署で行っているのか。現状及び今後のスケジュールを示されたい。

六 臨床研究の法制化については、私も「被験者保護」をメインテーマとして、議員連盟による議員立法での取組を進めているところだが、政府としては新たな立法を検討するのか、それとも医療法、薬事法、健康保険法など現行法令のいずれかの中に位置づけることを考えているのか。また、現在、治験(企業主導や医師主導によるもの)、再生医療で研究段階のもの、ヒト幹細胞を用いる臨床研究、それ以外の臨床研究、遺伝子解析など研究指針によるもの、先進医療A・Bなど様々な法令に基づくあるいは基づかない枠組みが乱立しているため、これらを統合する方向で法制化を検討するべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

七 臨床研究全般における倫理委員会の質の確保や認定の仕組みについても検討されているようだが、現時点でどのような具体的な検討が行われ、目標が定められているのか、明らかにされたい。

八 再生医療等の安全性の確保等に関する法律案の審議では、「特定認定再生医療等委員会」についての政府の見解が示されたところであるが、前記七で述べた倫理委員会の質の確保や認定の仕組みと、再生医療関連の委員会の質の確保や認定の仕組みは、どのような関係となるのか。現時点で考えている方向性につき、政府の見解を明らかにされたい。

九 日本版NIH構想の関連法案である「独立行政法人日本医療研究開発機構法案」が国会に提出されたところであるが、この機構は、米国NIHの中のどの組織に相当するものと考えているのか、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。