質問主意書

第186回国会(常会)

質問主意書


質問第一〇号

がん登録等の推進に関する法律の施行に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十六年二月六日

川田 龍平   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   がん登録等の推進に関する法律の施行に関する質問主意書

 私が国会がん患者と家族の会の一員として、各会派の議員有志とともに、議員立法として昨秋の臨時国会に提出し、全会一致をもって可決・成立したがん登録等の推進に関する法律(以下「本法」という。)は、現在厚生労働省において三年以内の施行を目指し関係政省令の準備をしているところと承知している。
 がん対策基本法に基づくがん対策の一層の推進に不可欠な法制度として、初めての全数調査の仕組みには、全国のがん患者団体から大きな期待が寄せられている一方で、東京電力福島第一原子力発電所の事故(以下「原発事故」という。)に伴う放射性物質の拡散により、健康被害、とりわけ甲状腺がんや乳がんなどを心配する方々からは、収集された個人情報が生命保険会社などに流出してしまうのではないかといった、本法における情報の保護についての懸念が寄せられている。
 そこで本法の適切な施行を期して、以下質問する。

一 本法は、がん登録等の情報について、民間を含めがんに係る調査研究のために活用し、その成果を国民に還元する一方で、がん登録等に係る個人に関する情報を厳格に保護するとしているが、本法の施行により、原発事故に伴う被ばくと様々ながん発生の因果関係を解明するために必要な、甲状腺がんや白血病、乳がんなどさまざまな種類のがんの発生率、都道府県別、年齢別、年次といった基礎的データへの、研究者、マスコミのアクセスが制約されることはないと理解してよいか。

二 前記一で述べた基礎的データは、患者本人への開示はこれまでどおり、不可能とされている。理由としては、がんの病名告知を患者本人にしないでほしいという家族の声があるからと承知しているが、そもそも患者本人が病名告知を受けずに治療を受けることは、患者本人の自己決定権を阻害しているとの意見もある。患者本人の知る権利を守り、かつ、がん登録の透明性を高めるためにも、今後、患者本人からの開示請求に応えることも検討していくべきと考えるが、いかがか。

三 前記一で述べた基礎的データについて、個人情報に係る部分を除く匿名化された情報は、全数調査の実現によって確度が高まると考えられる。例えば、どこの地域で何人の甲状腺がん患者が出たなどの統計的な情報が、しっかりと公表されると理解してよいか。

四 前記一で述べた基礎的データは、原発事故後の人々の健康を保証するためにも、また、自身の治療選択に資するがんの情報を知りたいと考えるがん患者や家族のためにも十分に、かつ、分かりやすく開示され、地域住民、がん患者や家族、研究者と共有される必要があると考える。政省令の準備に当たっては、がん登録の適切な運用と透明性の確保の観点からも、がん登録の運用に関して第三者的な立場から検討する委員会等を設置し、研究者や有識者のみならず、市民やがん患者団体等の代表者も加えた場で国民の意見を十分聞いた上で検討するべきと考えるが、いかがか。

五 被ばくとがん発生の因果関係について、研究者やマスコミだけでなく、関心を持つ一般市民が検証するために、必要な「人口動態統計」や国立がん研究センターがん対策情報センター「がん情報サービス」のがんの統計などの情報へのアクセスを確保する必要がある。一方で、個人情報が生命保険会社や製薬企業などへ漏洩するのではないかとの懸念もあり、先日は全国がん登録を所管する国立がん研究センターにおいて、がん検診を受けた九千百二十六人の判定結果など個人情報を記録したUSBメモリーを紛失するという事例もあった。統計情報のアクセス確保と個人情報の漏洩防止を両立させるべく、綿密にケーススタディを積み重ねて政省令を検討すべきと考えるが、いかがか。

六 昨年末、岩手県のがん患者団体が、これからのがん対策について「がん予防」、「がん検診」、「がんの早期発見」、「がんの痛みを取る緩和ケア」など十九項目から興味のある事項についてアンケート調査を行った結果、がん患者及び一般市民における「がん登録」に関する関心は低いほうから数えて二番目であった。がん患者団体及びがん患者自身や一般市民へのがん登録の意義、必要性についての説明が現状ではかなり不足しており、対策が必要と思われるが、いかがか。

七 本法では、がん登録データベースを一元管理することにより、個人情報の漏洩が懸念されることから、公務員などが患者の個人情報を漏洩した場合に備え、罰則規定を設けているが、情報を取り扱う担当者が委縮して、本来公開すべき情報を出さなくなるような事態が起きぬよう、慎重で適切な運用をすべきと考えるが、いかがか。

八 本法の条文中、「がん医療の質の向上」のため、という文言が随所にあるが、これは「がん患者のためのがん医療の質の向上」という意味であると考える。従来の地域がん登録や院内がん登録では、しばしば研究者の視点に偏った調査と情報の公開が行われ、がん患者の治療選択にも資するような情報公開が十分ではなかったとの指摘があり、この趣旨を踏まえた運用がなされるべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。