質問主意書

第186回国会(常会)

質問主意書


質問第五号

福島県鮫川村での農林業系副産物の仮設焼却炉による減容化実証事業等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十六年一月二十八日

山本 太郎   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   福島県鮫川村での農林業系副産物の仮設焼却炉による減容化実証事業等に関する質問主意書

 福島県東白川郡鮫川村で昨年来行われてきた指定廃棄物である農林業系副産物の仮設焼却炉による減容化実証事業の件と、環境省が進めている指定廃棄物の処理について、以下質問する。

一 鮫川村で行われてきた右減容化事業では、事業開始後十日も経過しない昨年八月二十九日に爆発事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

1 爆発事故の認定について
(1) 本件事故について、消防庁の「火災原因判定書」(平成二十五年十月三十日)では、「爆発による破損損壊が起きた」と判定している。この事実を環境省の担当者は、承知しているか。
(2) 環境省は、本件事故後、「環境省指定廃棄物対策チーム」による第一次報告(平成二十五年九月二日)、再発防止対策(平成二十五年十月二十五日)等を発表しているが、いずれも「爆発」とは認めず、「主灰コンベアの破損事故」と言い続けている。この主張は事実であるか。
(3) 平成二十五年十一月七日、本件事故に関し私の主催で行った環境省担当責任者との話合い(以下「話合い」という。)においても、「爆発」があったことについては認めず、「異音」があったなどという同様の説明に終始した。この説明は事実であるか。
(4) 本件事故が発生した昨年八月二十九日午後二時三十三分の直後である同五十分に鮫川村の現場運転事務所の日立造船株式会社関係者から環境省の担当者に事故の報告が行われている。その際、どのような報告があったのか、明らかにされたい。また、「異音がありました」という報告であったのか、「爆発事故がありました」という報告であったのかについても明らかにされたい。
(5) 前記一の1の(4)に関連し、業務委託業者である日立造船株式会社から事故の報告書は、環境省に提出されていないのか。NPO団体による情報開示請求に対し、環境省は、文書提出が行われていないと回答しているが事実であるか。事実である場合には、これだけの事故があったにもかかわらず、事故報告書が存在しない理由を示されたい。また、環境省は事故報告書は不要と判断しているのか。
(6) 「火災原因判定書」では、「主灰飛灰コンベアは、セメント固型化装置室へ炉から運ぶための設備で、建物と一体化したものと見なされ、詳細を後述するが、大きな爆発音が生じていること、煙のようなものを見たとの供述があること、コンベアの点検口からピンク色の光が見えたとの供述があること、コンベアの枠と点検口、コンベア軸受け部並びにコンベア内部の破損及びセメント固型化装置室内のコンベアとサイロの接続部に破損が見られること等から、爆発による破損損壊が起きたことによるものである。よって本火災は建物火災である。」との記載がある。
 この記載にみるように本件事故の現象面の本質的な捉え方は、爆発事故ということである。その点について、政府の見解を明らかにされたい。
(7) 環境省は、本件事故後一貫して「主灰コンベアに破損事故」との表現を行ってきた。通常、機械装置の事故の場合、「破損」や「破断」事故は、機械を使い続ける中で起きたり、操作手順に不慣れな作業者が、過重に負担を掛けるように操作を誤り、機械的な摩耗、負荷過重によって起きる。「破損」は、爆発事故の結果であり、一現象でしかない。「主灰コンベアに破損事故」と言い続ける限り、本件事故の本当の原因を究明することができず、事故を繰り返す恐れがあると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
(8) 「火災原因判定書」にも記載があるが、今回のような爆発事故は、「建物火災」にあたり、火災の通報は、消防法第二十四条に定められた国民及び事業者の義務である。環境省が、爆発事故と認めない理由は、この規定に違反した対応を咎められることを恐れているからか。
(9) 「誤りを認めない、これを誤りと言う」という言葉があるが、環境省は、本件事故を爆発事故と認めないのか。
2 事故後の対応
(1) 本件事故のような事態が発生した際には、消防法第二十四条では消防署に通報し、労働安全衛生法第百条、労働安全衛生規則第九十六条及び電離放射線障害防止規則第四十三条では労働基準監督署長に報告を行う旨規定がある。
 以上の点について環境省は、本件事故前から認識していたか、明確に示されたい。
(2) 本件事故後、前記一の2の(1)で示した法令に基づき、所轄の消防署、労働基準監督署に報告した日時、報告者を明らかにされたい。
(3) 前記一の2の(2)の報告については、いずれも法に規定した措置が行われていなかったり、報告そのものが大幅に遅れていたことが確認されている。
 消防署へは、本件事故後すぐに通報せず、消防署は、当日午後八時頃にメディアの取材によって、本件事故を知った。そして、現場検証は翌日に行った。「火災原因判定書」でも「なお本火災は、消防への通報がなく、マスコミから鮫川分署に問い合わせがあり、村役場に照会後、覚知したもので事後聞知事案である」との記載がある。
 労働基準監督署長への報告については、NPOのメンバーと私の秘書が、厚生労働省に問い合わせたが、報告の有無に対し回答がなく、確認できなかった(平成二十五年九月十日時点)。しかし、その後の福島県労働局への情報開示請求で、九月五日付けで報告書が提出されていたことが分かった(ただし、提出主体については黒塗りであったため、分からなかった。)。
 電離放射線障害防止規則第四十三条では、「速やかに、その旨を所轄労働基準監督署長に報告しなければならない」とある。事故から七日経過した九月五日に報告したのが「速やか」な対応だったのか。また、九月五日に提出していたのなら、なぜ提出の有無を隠していたのか、明らかにされたい。
 加えて、このような事故後の措置について、事業主体であり、法令順守に率先して取り組まねばならない環境省の責任について、政府の見解を明らかにされたい。
(4) 労働基準監督署長への報告について、法令上は「事業者」が報告することになっているが、業務委託を受けた日立造船株式会社が行ったのか。日立造船株式会社が行った場合には、環境省は本件事業の責任官庁として、当該報告書の内容について了解していたのか、明らかにされたい。
(5) 福島県労働局に対し、前記一の2の(4)の報告書に関して、環境団体の代表に続いて私の事務所でも情報開示請求を行ったところ、百ページ以上にわたり全面黒塗りで開示がなされた。事故の情報を黒塗りで開示することの理由と法的根拠を明らかにされたい。
(6) 本件事故に関連する一切の情報という請求内容で、NPOが、環境省に情報開示請求したところ、労働基準監督署に提出されていた報告文書は開示されなかった。しかし、環境省による直轄事業の事故について、他省庁関連部局への報告を環境省が知らなかったということはありえないと考える。なぜ環境省が保持する文書の中に右報告文書が存在しなかったのか、明らかにされたい。
 一方では黒塗りで開示し、もう一方では、情報そのものを隠すとの意図があったのか。
3 本件事故の原因と使用した傾斜回転炉について
(1) 前記一の1の(2)の再発防止対策では、本件事故の主たる原因は、ゲートの閉め忘れによる「人為的ミス」となっている。しかし「Ⅱ 事故の再発を防ぐ多重の安全対策」には、焼却中に主灰がこぼれ落ちる構造であったことが「原因の根本」と書かれている。そして、その改良方法も記載されている。なぜ事故の原因を「構造的欠陥」と記載していないのか、その理由を明らかにされたい。
(2) 本件事故によって発生した損害額を示すとともにその損害賠償の責任は誰が負うのか、示されたい。
(3) 本件事故の原因が鮫川村で使用した仮設焼却炉の構造にあった場合には、そのような焼却炉で高濃度の放射性廃棄物である「指定廃棄物」を焼却しようとした環境省の責任問題に発展すると考えるが、いかがか。
(4) 今回使用した焼却炉は、傾斜型回転炉という形式のもので、本来重油等の廃棄物を焼却するものであり、今回のような固形の有機物(牧草・稲わら)を焼却するものではない。当然残渣の余剰分も異なり、運転稼動も難しくなると考えられる。
① このような点の点検は行ったのか、明らかにされたい。
② 具体的に一時間当たり約二百キログラムで、一日八時間稼働とすると一・六トンの処理が可能である。この一日の稼働で、排出される主灰の量は、何キログラムと予測していたか。事前の実験結果による排出量を、明らかにされたい。
③ 燃焼物である牧草や稲わらで、湿っているなどして燃えにくいものを焼却したとき、排出される主灰の量が増え、炉内に溜まり、新たに燃やすことができなくなるといったことはなかったか。
④ 通常は一日八時間稼働し、稼働を終了させた後、翌朝に主灰をゲートから排出させていると承知している。しかし、燃えにくくなったものを燃やした時、炉内が残渣物(主灰)で一杯になり、新たに燃焼物を燃やすために、途中で主灰を排出するということはなかったか。
⑤ 前記一の3の(3)の④の場合、主灰は火種を残していることがあり、それらをコンベアに移すと未燃分が燃焼し、爆発事故にもつながると考えられるが、いかがか。
(5) 傾斜型の回転炉については、過去に今回と同様の事故を起こしている。その点について、情報を入手しているか。入手していた場合には、そこでの事故が鮫川村で使用した炉で起こらない確証をどのように得たのか明らかにされたい。
(6) 本件事故において、爆発は二回あったと報告されている。しかしながら前記一の1の(2)の再発防止対策では、一回の爆発についての記載しかない。二回起きた経緯について明らかにされたい。
4 委託事業者の虚偽文書作成の件
(1) 鮫川村の実証事業所の所有地は、当該土地の地権者から借り受けているとのことであるが、事実か。
(2) 前記一の4の(1)に関連して、当該土地を所有する地権者と賃貸借契約を交わしたのは、事業主体である環境省か、それとも環境省から業務委託を受けた日立造船株式会社か、明らかにされたい。
(3) 前記一の4の(2)の賃貸借契約において、当該地権者が承認していないにもかかわらず、土地が勝手に使用されているという。このような事態について環境省は事実確認をしているか、明らかにされたい。
(4) 前記一の4の(3)に関して当該地権者は、私文書偽造及び行使の嫌疑で告訴している。この件につき、先に私が提出した「福島県鮫川村における農林業系副産物等処理実証事業及び仮設焼却施設の爆発事故等に関する質問主意書」(第百八十五回国会質問第一九号)で尋ねたが、答弁書(内閣参質一八五第一九号)では、「環境省において、お尋ねのような事実は承知していない。」とのことであった。
 しかし、話合いの中で、この件については、すでに井上信治環境副大臣に報告がなされていたことが発覚した。環境省が本契約の主体であれば、知らないはずはないと考えられる。契約主体が日立造船株式会社であったとしても、環境省はこのような重大な事実についてなぜ知らないと答弁したのか、その理由を示されたい。
(5) 環境省が業務委託していた実証事業が、犯罪行為の下に進められていたとすれば由々しきことである。この件について、その後、事実確認のためにどのような措置を採ったのか経過を追って明らかにし、今後の鮫川村における実証事業の推進の是非について、政府の見解を明らかにされたい。
5 その他の関連事項
(1) 鮫川村の実証事業所は、電離放射線障害防止規則の対象事業所であるが、当該事業所において事故が起きたときには、労働基準監督署長に届ける等の手続が必要である。当初の住民説明会用資料になぜその記載がなかったのか、明らかにされたい。
(2) 高濃度の放射性物質を取り扱う場所は、外界から遮蔽する必要があることから、セメント固化室が設けられている。
 ところが、本件事故が発生した主灰コンベアは、屋根のないところで作動していた。このこと自体違法ではないのか。また、なぜ屋根が付いていないのか。
6 本件事故の総まとめと指定廃棄物の処理
 本件事故について、環境省や厚生労働省の対応には、①「爆発」の事実を認めず、原因解明についての真摯な対応を欠いている、②法に定められた通報や報告を行わず、住民にも伝えなかった、③事故の真実について、黒塗りで情報開示した、④情報の存在自体を隠した、⑤結局原因について曖昧にしている、⑥その上で責任を業務委託した現場のせいにしているといった問題がある。
 省庁が直接行う事業において、今回のような事故を起こした時、当該省庁は、いわば事故を起こした責任を問われる被告の立場にある。当該省庁が事故の原因を調査し、その結果を判断するというのは、裁判で被告が裁判官を兼ねるようなものである。
 そこで本件事故を奇貨とし、第三者的な調査委員会を設け、今回の実証事業の是非を問い返す、重要な機会とするべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

二 指定廃棄物の処理について

 本件事故は、高濃度の放射性物質の中間処理施設での事故であり、規模の大小を問わず、原子力発電所における事故と同様の重大事故である。その後の事故対応を見たとき、消防法、労働安全衛生法、電離放射線障害防止規則などの観点から問題があったと考える。放射性物質について、これまで環境基本法を始めとして、東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故のような事例を想定してきておらず、「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(以下「放射性物質汚染対処特措法」という。)等の暫定措置で対策を進めてきた結果、本件事故にあって、現実的な対応力が備わっていないことが明らかになったと言える。
1 指定廃棄物の処理に関しては、指定廃棄物やその他の汚染廃棄物の処理を所管する環境省が、今後の進め方の検討に入ることが必要と考える。その際には、放射性物質は、DNAに影響を与える究極の毒性物質であり、その影響は低線量といえども閾値がないという考え方を基本とするべきと考えるが、いかがか。
2 放射性物質汚染対処特措法では、一つの指標として八千ベクレル毎キログラムを示し、それ以下は、市町村や産業廃棄物処理業者でも中間処理が可能とし、それ以上の指定廃棄物は、環境省が処理責任を負うとした。ところが、その指定廃棄物を減容化するという名目で、市町村の焼却施設における処理の実績すらない民間事業者の焼却炉で、放射性物質を焼却し始めている。
 放射性物質汚染対処特措法でいう国の責任とは、これまでの放射性物質の処理と同様に、指定廃棄物をドラム缶に封入し、環境への影響を遮断できる場所に保管することではないのか。
3 環境省の把握している指定廃棄物量は、約十三万トンと発表されている。その例として、焼却灰、下水汚泥、糞尿、堆肥、牧草、稲わらなどが挙げられている。それぞれどのように処理・処分する計画であるのか、日程も含めて明示されたい。
4 指定廃棄物の処理・処分について、現在計画している処分地(自治体名)、委託先事業者(自治体、民間)、それぞれの処分方法(中間処分・中間処分による排出物の処分についても)、期日そして中間保管計画を明らかにされたい。
5 廃棄物資源循環学会の高岡昌輝京都大学教授の論文によれば、放射性物質やその汚染物の焼却に際して、バグフィルターだけでなく、ヘパフィルターを併用することを示唆している。鮫川村の仮設焼却炉においてもヘパフィルターを併用している。環境省はバグフィルターだけで指定廃棄物を焼却した際に発生する排ガス中の放射性セシウムをほぼ完全に除去できるとの従来の主張を変えたのか。
6 前記二の5に関して、指定廃棄物の焼却処理にヘパフィルターの併用が必要であるのか、政府の見解を明らかにされたい。また、現在進めている指定廃棄物の焼却施設では、ヘパフィルターを併用するように推奨しているのか。

  右質問する。