質問主意書

第185回国会(臨時会)

質問主意書


質問第八九号

東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故により放出された放射性セシウム以外の放射性核種に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十五年十二月五日

山本 太郎   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故により放出された放射性セシウム以外の放射性核種に関する質問主意書

 東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故(以下「原発事故」という。)により放出された、ヨウ素百三十一を主とする短半減期放射性核種(以下「短半減期放射性核種」という。)を含んだ放射性プルームは、福島県内に留まらず、広く東北、関東地方を始めとした周辺地域に及んだと推測される。これら短半減期放射性核種による内部被ばくは、既に原発事故後二年八か月以上経過してしまった現時点においては、住民の被ばく状況の測定をもってしても明らかにできず、その詳細を把握することは極めて困難である。
 一方、平成二十五年十月二十一日に私が提出した「放射線被曝防護に関する質問主意書」(第百八十五回国会質問第二一号)(以下「質問主意書」という。)に対する答弁書(内閣参質一八五第二一号)(以下「答弁書」という。)における、質問九への答弁においては、「体内に取り込んだ放射性物質の核種の違いによって人体への影響に差異はあると考えている」との政府公式見解が示されたものの、続く質問十への答弁においては、「セシウム百三十四及びセシウム百三十七(以下「放射性セシウム」という。)以外の核種は(中略)環境中の濃度が放射性セシウムに比べ少ないことから内部被ばくへの寄与は小さく」として、放射性セシウム以外の放射性核種については積極的に調査検討する意向のない旨の政府公式見解が示された。
 しかしながら、東京電力株式会社が平成二十五年十一月二十九日に発表した「福島第一港湾内、放水口付近、護岸の詳細分析結果」によれば、東京電力株式会社福島第一原子力発電所の海側敷地にある観測用井戸の水から、ベータ線を出す放射性物質が一リットルあたり百十万ベクレルの高濃度で検出されたとのことであり、放射性セシウム以外の放射性核種についても、もはや無視することができない状況であると言える。
 これらの事実を踏まえて、既に実測不能な放射性核種及び現時点において実測可能であるが、いまだ詳細に調査把握されていない放射性核種、すなわち放射性セシウム以外の放射性核種に対する、政府認識及び政府による今後の対策に関して、以下質問する。

一 原発事故後の緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)等による試算結果を含め、現時点において政府が把握している国内外の全てのデータから、原発事故により放出されたヨウ素百三十一が降下したことにより、住民が初期被ばくを受けたと政府が認識している地域は、我が国の国土に存在するか。存在する場合は、その具体的地域名、市区町村名及び都道府県名を全て示されたい。
 また、具体的な甲状腺の被曝等価線量について政府が把握している数値を、住民の年齢別に明確に示されたい。

二 前記一に関連して、ヨウ素百三十一は、放射線由来の小児甲状腺癌を誘発するとして、その放射性核種と発癌との因果関係が示されている。このことを鑑みれば、福島県外の地域においても原発事故により放出されたヨウ素百三十一が降下したと判断される地域においては、少なくとも小児の甲状腺超音波検査は行われる必要があると考えるが、政府の見解如何。

三 原発事故後に文部科学省により公表された「放射線量等分布マップ(ヨウ素百三十一の土壌濃度マップ)」の調査結果等、現時点で政府が把握している国内外の全てのデータを踏まえた場合、原発事故により放出されたヨウ素百三十一により、住民が初期被ばくを受けたと政府が認識している福島県内外の地域において、住民への避難指示計画、避難できずに残留せざるを得なかった住民へのヨウ化カリウム剤配布及び服用指示等、放射性ヨウ素による初期被ばく防護に関する対策は万全に行われたと言えるか、現時点における政府の認識を明確に示されたい。また、対策が万全に行われたと認識している当該地域名及び対策が万全とは言えなかったと認識している当該地域名を、具体的に示されたい。

四 前記三に関連して、放射性ヨウ素による初期被ばく防護に関する対策が万全でなかったと認識する場合、当該地域において放射線由来の発癌を早期発見するために甲状腺超音波検査等を行う等の対策を講ずる必要性について、政府の見解如何。
 加えて、放射性ヨウ素による初期被ばく防護に関する対策が万全でなかったと認識する場合で、当該地域において放射線由来の発癌を早期発見するために甲状腺超音波検査等を行う等の対策を講ずる必要性がないと認識する場合、それが「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」とする日本国憲法第二十五条に反するものではないと断言できるか、政府の見解如何。

五 平成二十五年十一月十八日に提出した「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故による被ばく者の健康調査に関する質問主意書」(第百八十五回国会質問第六四号)(以下「質問主意書第六四号」という。)に対する答弁書(内閣参質一八五第六四号)(以下「答弁書第六四号」という。)における、質問一及び二についての答弁によれば、「東京電力株式会社の福島第一原子力発電所の事故に係る福島県民の被ばく線量については、福島県が行った調査において、外部被ばく、内部被ばくともに、放射線による健康影響があるとは考えにくい数値であると評価されていると承知している。」との政府公式見解が示され、福島県民に一定の内部被ばくが存在することを政府も認識していることが明確にされた。この政府公式見解における「放射線による健康影響があるとは考えにくい数値」とは、具体的に何ミリシーベルト以下であると政府は認識しているのか。「何ミリシーベルト以下」と具体的数値を挙げて明確に示されたい。

六 前記五に関連して、現在の福島県内外の地域において、原発事故により放出された放射性核種を人体が体内に取り込む経路、すなわち内部被ばくの経路としてどの様な経路が存在すると考えているか、政府の見解を明確に示されたい。

七 衆議院チェルノブイリ原子力発電所事故等調査議員団報告書によれば、チェルノブイリ原子力発電所事故後のウクライナ、ベラルーシにおいては、低濃度汚染地域においても、二十六年余り経た現在もなお、悪性腫瘍のみならず甲状腺疾患、心疾患、免疫力低下、造血器障害、未熟児や早産、周産期障害、易疲労性、体力の低下並びにセシウム、ストロンチウム及びプルトニウムの体内での蓄積が認められ問題となっているが、今回の我が国の原発事故に際し、この様な悪性腫瘍以外の健康影響についてモニタリングし、予防策を講じていく方針はあるか。
 質問主意書第六四号に対する答弁書第六四号に示されたように、世界保健機関(WHO)や原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)による「がんなどの健康影響の増加が認められる見込みはない」との評価や、福島県の調査結果より導き出された「放射線による健康影響があるとは考えにくい」との評価のみをもって、私が質問主意書第六四号にて必要と指摘した検査を無料で受診する体制を必要ないとし、これら予防策さえも今後講じないということであれば、憲法第二十五条に照らして、国の責務を全うしているとは決して言えないのではないかと考えるが、政府の認識を明確に示されたい。

八 放射線被ばくによる健康影響に関して、我が国は国際放射線防護委員会(以下「ICRP」という。)の勧告に準拠しているとのことだが、内部被ばくによる健康影響及び予防原則をより重視する観点から、今後、欧州放射線リスク委員会(ECRR)など、ICRP以外の組織により提唱された基準及び勧告についても、政策決定の参考とするべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

九 今なお原発事故現場から海洋への汚染水流出は続いており、汚染水に高濃度に含まれるストロンチウムによる海産物汚染の被害拡大は想定すらできない状況である。ストロンチウムは、魚介類の骨や貝殻に蓄積される傾向にあることは周知の事実であるが、現在我が国において食品中のストロンチウム調査はほとんどなされていない。
 その理由について、私の質問主意書の質問十に対する答弁書において「当該基準値は、放射性セシウム以外の核種の測定に時間を要することを踏まえ、放射性セシウム以外の核種からの線量を含め、食品を摂取することによる被ばく線量が、年間一ミリシーベルトを超えないように放射性セシウムの濃度を設定したものである。」として、放射性セシウム以外の放射性核種の調査を食品に対して行わない理由を「測定に時間を要するため」とする政府公式見解が示されたが、一方、平成二十五年十一月五日の参議院内閣委員会における私の質問に対しては、政府参考人の新村和哉氏より「食品中の放射性物質に関する検査につきましては、放射性セシウム、ストロンチウム九十、ルテニウム百六及びプルトニウムを考慮に入れて設定した基準値に従い実施されております。この基準値は、委員御指摘のとおりですが、放射性セシウム以外の核種からの線量も含め、食品を摂取することによる被曝線量が年間一ミリシーベルトを超えないように放射性セシウムの濃度を設定したものでございます。このため、放射性セシウムを検査対象とすることでストロンチウム等から受ける線量も含めた管理が可能でありますので、食品のモニタリング検査におきましてはストロンチウムの測定は必要のないものと考えております。」との答弁があった。食品の「ストロンチウムの測定は必要のないもの」という、質問主意書に対する答弁書で示された見解と齟齬があると考えられるが、政府の見解如何。
 答弁書において政府は「体内に取り込んだ放射性物質の核種の違いによって人体への影響に差異はあると考えている」と答弁しており、また、国内外へ「食の安全」を発信する意味においても、ストロンチウム測定が可能な品目に関しては、単にデータ等からの計算によるだけではなく、順次体制を整え、積極的に調査を行うべきではないかと考えるが、政府の見解如何。

十 現在、土壌や食材、飲料水に含まれる放射性物質に関して、放射性セシウムに限らずにその他の放射性核種についても測定し、その情報を保持又は相互に共有する個人及び団体が存在する。国会において審議中の特定秘密の保護に関する法律案が可決、成立し施行された場合、この様な情報が特定秘密として指定される可能性はあるか。
 また、医師の中にも自由診療において甲状腺超音波検査や採血検査等を行い、患者の同意を得た上でこれらの情報を保持し相互に共有するほか、個人情報保護に留意した上で公開している医師も存在するが、この様な医療情報についても特定秘密として指定され、それらの情報が公開されたことによって我が国の安全保障に影響を及ぼしたと判断された場合は、処罰の対象となる可能性はあり得るか、政府の見解を示されたい。

  右質問する。