質問主意書

第185回国会(臨時会)

質問主意書


質問第八〇号

郵便事業会社における高年齢の期間雇用社員の雇止めと要員不足対策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十五年十二月二日

又市 征治   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   郵便事業会社における高年齢の期間雇用社員の雇止めと要員不足対策に関する質問主意書

 日本郵政グループは、かつては国営企業日本郵政公社であり、分割民営化後も政府の百パーセント出資会社で、二十万人以上の非正規社員を抱える日本有数の大企業である。このグループ各社が、平成二十三年九月三十日付けで、六十五歳超の期間雇用社員を原則として雇止めとする措置を採った。
 この件については、同年十二月五日付けで「高年齢の期間雇用社員の雇止めと要員不足対策に関する質問主意書」(第百七十九回国会質問第四五号)(以下「質問主意書」という。)を提出し、内閣総理大臣の答弁書(内閣参質一七九第四五号)によって、同グループ全体で一万二千七百六人もの大量の社員が雇止めとされたことが明らかになった。その後も、半年ごとに、期間六か月の期間雇用社員の契約期間満了に際して六十五歳超の期間雇用社員が原則として雇止めとされている。
 しかし、本格的な高齢社会の進展に伴い、高年齢者の雇用の機会の拡大は、高年齢者世帯の自立した経済・社会生活維持の観点からも、また、経験ある労働力の自然減に悩む企業からも望まれる社会政策となっており、厚生労働省も「雇用政策基本方針」において、七十歳まで働ける企業の普及促進を図っている。
 また、熟練した労働者を、六十五歳以上であるからとの理由で雇止めとしたことは、郵政の現場で深刻な人員不足をもたらし、大きな混乱が生じてきた。そのことは、マスコミなどでも報道されているとおりであり、郵政事業に対する利用者・国民の不信を増幅させている。
 よって、郵政三事業の監督官庁及び株主である政府に対して善処を求めるため、以下質問する。

一 参議院における附帯決議違反について

 参議院郵政民営化に関する特別委員会附帯決議(平成十七年十月十四日)の十一の1では、労働条件について「現行の労働条件及び処遇が将来的にも低下することなく職員の勤労意欲が高まるよう十分配慮すること」とある。ところが、二〇〇七年十月の郵政民営化に際して、郵政グループ各社においては、「会社の都合による特別な場合の他は、満六十五歳に達した日以後における最初の雇用契約期間の満了の日が到来したときは、それ以後、雇用契約を更新しない。」との期間雇用社員就業規則第十条二項が策定された。同条については、附則で経過措置が設けられ、二〇一一年四月一日更新の有期雇用契約から適用されて、九月末に大量の期間雇用社員が雇止めとされる事態が生じたのである。
 それ以前は、郵政公社の非常勤職員や日本郵政グループの期間雇用社員は、年齢を問わず、働ける限り雇用が継続されており、実際、七十歳を超える者も多数勤務しており、六十五歳を超えてから採用された人も少なくなかった。そのことからすると「労働条件及び処遇が将来的にも低下」した例であって前述の参議院における附帯決議の趣旨に反するのではないか。そのような場合については、立法府の決議が軽視されていることとなるが、政府の見解及び指導方針を明らかにされたい。

二 「会社の都合による特別な場合」と六十五歳定年適用の問題点

 答弁書からは、六十五歳超の期間雇用社員を最も多く雇止めしたのは郵便事業会社であることが明らかになった。しかも、同社は、雇止めをなす一方で、四百五十五名について雇用更新、百七名について再雇用をなしたことが明らかになった。それらは、前記一で述べた期間雇用社員就業規則第十条二項の「会社の都合による特別な場合」のためと考えられる。
 現在、東京地方裁判所に係属している雇止めとされた者が地位確認を求めた裁判において、「会社の都合による特別な場合」は、人員確保の必要性及び後補充の困難性により判断したと説明された。
 しかし、それは六十五歳超でも業務遂行が可能であることを前提としたものであり、実際に、前述のとおり、五百六十二名もの雇用更新・再雇用者がいるのであるから、六十五歳超が業務に堪えない、などという郵便事業会社による六十五歳定年制の説明と整合しない。
 また、厚生労働省も「雇用政策基本方針」において、七十歳まで働ける企業の普及促進を図っていることからすれば、六十五歳超を原則として雇止めとしたこと自体に合理性が認められないことを示していると考えられる。
 日本郵政グループの期間雇用社員は、賃金は正社員の三分の一以下で、退職金もなく、年金水準も低く、雇止めとされた後の生活の保障もない状態である。現に、六十五歳超として雇止めとされた者の中には、生活保護受給を余儀なくされた者、生活不可能な状態に陥った者等が存在する。最も、採用時には、体の続く限り働ける、と言われて、低い労働条件の下でも、集配や内務等といった郵政の基幹的業務を担って働いてきたのである。
1 そのような状況下に置かれてきた期間雇用社員に、実質的な定年制を適用して、雇止めとすることが妥当であるかとの点につき、政府の見解を明らかにされたい。
2 妥当でないと判断する場合には、今後は日本郵政グループ各社に対して、六十五歳超雇止めを行わないよう指導するべきと考えるが、いかがか。

三 「会社の都合による特別な場合」の運用の問題点

 「会社の都合による特別な場合」の運用については、当方が前述の訴訟の原告らから入手した郵便事業会社近畿支社資料と会社が裁判で提出した関東支社の資料によれば、六十五歳雇止めをなした後、「後補充必要数」に「確保数」が足りず、人員不足が生じている支店が少なくなかったことが数字上も明らかになっている。とりわけ、郵便物が配達できない、長時間残業が発生しているなどで問題となった船橋支店や越谷支店での人員不足(船橋支店に至っては二十四名と大量である)を認めていることは、そうした問題が六十五歳超の職員の雇止めのためであったことを示している。
 熟練の職員が退職する場合、それよりも多くの職員でなければ業務をこなせないという現場の実態に反して、「後補充必要数」自体、雇止め対象社員者数よりも相当少ないものにしているが、それでも人員不足を認めているのである。そのことは、「会社の都合による特別な場合」による契約更新の運用が不当に限定され、かつ恣意にわたっていることを示している。「人員確保が必要であり、後補充が困難な場合」というのは、郵便事業会社が認めるよりもはるかに多いはずだが、それが不当に限定され、しかも、裁判の原告らなど特定の労働組合の組合員がいるところでは、後補充が困難であっても、六十五歳超の職員を雇止めとしているのである。
1 このような事態に対する政府の見解を明らかにされたい。
2 このような事態を是正するために、これまで雇止めされてきた者のうち希望者については再度雇用する措置等を検討するよう指導することなどが考えられるが、政府の指導方針を明らかにされたい。
3 東京支社については、近畿支社や関東支社同様の資料は明らかにされていないので、東京支社の各支店毎の雇止め対象者数、後補充必要数、不足数につき、政府の承知するところを明らかにされたい。

四 雇用対策法違反について

 平成二十五年四月二十四日より前の厚生労働省の「労働者の募集及び採用における年齢制限禁止の義務化に係るQ&A」では、「再雇用に際して年齢で募集を制限したり、可否の判断をすることは年齢制限に当たる」かどうかという点について、雇用対策法十条に基づいて「再雇用は新たな雇用契約の締結、すなわち労働者の募集・採用にあたるため、例外事由に当たらない年齢制限をすることは違法になる」となっていた(Q一-十五)。
 郵便事業会社における期間雇用社員の雇用の更新は、その都度、期間満了予告通知書及び期間雇用社員雇入労働条件通知書が支店長から発せられるのであり、法形式上は、それまでの雇用の終了と新たな雇用契約の締結を一体的に行うものである。よって、郵便事業会社における期間雇用社員の雇用の更新を年齢を理由に行わないことは、右の記載から見ても、雇用対策法で禁止している年齢制限にあたると考えるが、この点について、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。