質問主意書

第185回国会(臨時会)

質問主意書


質問第七九号

放射線被ばく環境下における居住に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十五年十二月二日

山本 太郎   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   放射線被ばく環境下における居住に関する質問主意書

 平成二十五年十月二十一日に提出した「放射線被曝防護に関する質問主意書」(第百八十五回国会質問第二一号)(以下「質問主意書」という。)に対する答弁書(内閣参質一八五第二一号)(以下「答弁書」という。)によれば、現在の福島県内の状況は、国際放射線防護委員会(以下「ICRP」という。)勧告において定義された「現存被ばく状況におおむね移行しているもの」との政府見解が明らかにされ、これにより、現在福島県に居住する住民の相当数が被ばく環境下に置かれている現状を、政府も認めていることが明らかとなった。
 答弁書に明記された放射線被曝防護に関する政府公式見解を踏まえて、被ばく環境下における居住に関する政府の認識を確認すべく、以下質問する。なお、答弁はまとめず、各質問項目ごとに個別に回答されたい。

一 東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故(以下「原発事故」という。)により放出された放射性物質が降下した都道府県名を、現時点で政府が把握している範囲において、具体的に全て列挙されたい。

二 質問主意書における質問一に対し、答弁書において「一般公衆の被ばく線量限度の規制は設けられていない」としつつも、「なお、ICRPの勧告等を参考に、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六十六号)や放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(昭和三十二年法律第百六十七号)等において、内部被ばく及び外部被ばくを考慮して、原子炉施設の周辺監視区域外等における線量限度を年間一ミリシーベルトと規定している」との政府見解が示された。原発事故以降、東京電力株式会社福島第一原子力発電所の「周辺監視区域外等における線量限度年間一ミリシーベルト」を超える地域は、我が国の国土に存在するか。存在する場合には、その場所、広さ及びその地域の在住人口を、根拠とともに具体的に明示されたい。
 また、福島県内で、避難指示が出されず原発事故以降も住民が居住を続けている地域又は避難指示が解かれ居住が認められている地域は、答弁書により提示されたこれらの法律で規定されている「原子炉施設の周辺監視区域外等」に該当するか否かも併せて、政府の見解を明確に示されたい。

三 前記二に関連して、「原子炉施設の周辺監視区域外等における線量限度」として規定された「年間一ミリシーベルト」とは、外部被ばく線量と内部被ばく線量を合算した数値か。あるいは外部被ばく線量、内部被ばく線量各々で「一ミリシーベルト」か。合算して「一ミリシーベルト」である場合には、外部被ばく線量と内部被ばく線量の比率を、科学的根拠とともに「何対何」と具体的数値を挙げて明確に示されたい。

四 住民の被ばく線量を評価する際には、実測値からバックグラウンド放射線量を減じた数値が用いられると思われるが、原発事故後、現在の福島県内で住民の被ばく線量を算出、評価する際に用いるバックグラウンド放射線量の数値は、いかなる数値が用いられているのか、具体的数値を示されたい。また、算出する際にどのような考え方が適用されているのか、科学的根拠とともに明確に示されたい。

五 成人、小児、妊婦及び胎児といった年齢差、性差によって、放射線被ばくによる人体への影響に差異が生じるか否か、政府の認識を明確に示されたい。

六 放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(以下「放射線障害防止法」という。)、医療法、労働安全衛生法、人事院規則などの法令等によって設定されている「放射線管理区域」とは、放射線の不必要な被ばくを防ぐため、放射線量が一定以上ある場所を明確に区分することで、人の不必要な立入りを防止するために設けられている区域であるが、その設定基準に相当する環境下において、成人、小児、妊婦及び胎児を含めた一般住民が就業、飲食など日常生活を営みつつ居住することは、右法令等に照らして違法であるか否か、政府の認識を明確に示されたい。

七 答弁書によれば、現在の福島県の置かれている状況は、ICRP勧告において定義された「現存被ばく状況におおむね移行したもの」とのことであるが、福島県内において住民が日常生活を営みつつ居住している区域又は地域で、「現存被ばく状況」に相当し「放射線管理区域」の設定基準にも相当する区域又は地域が存在するか否か、明確に示されたい。また、当該区域又は地域が存在する場合には、その区域名、地域名、市町村名全てを、具体的に明確に示されたい。

八 原子力規制委員会により報告書として提出された「帰還に向けた安全・安心対策に関する基本的考え方」にも示されたように、住民の被ばく線量を個人線量計を元に評価するという方針を運用する動きが加速している。しかし、そもそも個人線量計は、放射線源や核種が特定されている環境で放射線作業従事者が、適切な指導の下、装着使用することが前提とされている測定器であって、今回の原発事故により放出された放射性物質による環境汚染のように、どこに放射線源があるのか、どのような核種があるのかといった点も特定できないような状況下において、一般住民が使用することは前提とされていない。
 電離放射線障害防止規則第八条第二項によれば、放射線業務従事者については「外部被ばくによる線量の測定は、一センチメートル線量当量及び七十マイクロメートル線量当量について行うものとする」と規定されており、個人線量測定に用いられている蛍光ガラス線量計測装置も日本工業規格に基づき一センチメートル線量当量で校正されている。住民の個人線量計による被ばく線量管理も右規則に則り、一センチメートル線量当量で実施されることになると考えてよいか、政府の見解を明らかにされたい。
 また、放射線障害防止法施行規則第二十条第二項第一号イ・ロ・ハ等からも明らかなように、我が国では外部被ばくによる線量測定についてきめ細かく規定されている。したがって、不均等被ばくを受ける不均一な放射能汚染環境下において、単一の個人線量計のみによって個人の外部被ばく線量を評価することは、右規則等への違反となるのではないか。
 加えて、住民の被ばく線量を個人線量計による数値を基に評価する方針と、我が国における放射線障害防止法との法的整合性につき、政府の見解如何。

九 前記八に関連して、個人線量計を常時複数個携帯せねばならない不均等被ばくを受ける環境下において、子ども及び妊婦を居住させ続けることにより、子ども及び妊婦が感じる精神的ストレスは問題ないと言えるか。
 また、従来我が国において予防原則のもと運用されてきた放射線被ばく防護に関する法令を反故にし、なし崩し的に国民の被ばく基準を緩和することは、国民の政府に対する不信感を増長し、こと放射能汚染地域においては産み控えなど、深刻な少子化に直面する我が国にとって重大な副作用をもたらしかねないと懸念されるが、政府の見解如何。

  右質問する。