質問主意書

第185回国会(臨時会)

質問主意書


質問第二一号

放射線被曝防護に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十五年十月二十一日

山本 太郎   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   放射線被曝防護に関する質問主意書

 平成二十三年三月十一日の東日本大震災と同時に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「原発事故」という。)から二年七か月が経過する今日、政府は原発事故は全体的にはコントロールされているとの見解のもと避難指示区域再編を進め、空間線量において年間二十ミリシーベルトを下回る地域については、早期に住民帰還を促す方向性を打ち出している。また、諸外国が輸入規制を続けている地域の農産物、海産物も、我が国国内においては全国市場に出回っている状況である。
 このように、徐々に形式上は「日常化」されていく一方で、現実は、東京電力株式会社廣瀬直己社長も自ら認めているように、原発事故現場からは今なお毎時一千万ベクレルもの放射性物質が大気中に放出され続けており、放射能汚染水の漏洩もコントロールされているとは言い難い、非常に厳しい状況が続いている。
 この我が国の国難とも言うべき厳しい現況において、国民を被曝から守る責務のある政府は、「放射線被曝防護」に関して如何なる基本的認識を有しているのか。以下、右の点を踏まえて政府の認識及び見解について質問する。各項目ごとに、簡潔かつ明確に回答されたい。

一 我が国の一般公衆の平常時における年間の被曝線量限度(以下「被曝限度」という。)は何ミリシーベルトか。国内法における法的根拠とともに示されたい。

二 被曝限度は、外部被曝のみの数値か、それとも外部被曝と内部被曝の合算値か、政府の認識を明確に示されたい。合算値の場合は、その比率についても併せて明示されたい。

三 政府が避難指示区域再編に当たり、その根拠としている「年間二十ミリシーベルト」は、国内法で定められた一般公衆の被曝限度の何倍に相当するか。また、原発作業員の白血病労災認定基準の年間被曝線量限度の何倍に相当するか。いずれも「何倍」と明確に示されたい。

四 前記三の「年間二十ミリシーベルト」は、国際放射線防護委員会(ICRP)勧告における基準を援用していると理解してよいか。また、その場合、現在の福島県内の状況は、ICRP勧告に定義されているところの「緊急時被曝状況」に相当するのか、「現存被曝状況」に相当するのか、あるいは「計画被曝状況」に相当するのか、政府の認識を明確に示されたい。

五 ICRP勧告と、我が国の一般公衆における被曝限度を定めた国内法は、どちらを上位として適用されるべきものか、政府の認識を明確に示されたい。

六 平成二十三年十二月十六日の記者会見において、野田佳彦首相(当時)により発せられた「事故収束宣言」について、安倍晋三首相は、平成二十五年二月十九日の参議院予算委員会において「もう既に私も何回か答弁をしておりますが、収束ということで前政権がそう判断をしたわけでありますが、とても収束と言える状況ではないというのが我々安倍政権の認識であります」との答弁をしている。これは「事故収束宣言の撤回」と同義であるか否か、政府の公式見解として、再度ここに明確に示されたい。

七 前記六において、この首相答弁が「事故収束宣言の撤回」と同義であるとするならば、改めて言うまでもなく、今なお事故は継続中ということである。東京電力社長さえも、今なお放射性物質が大気中に放出され続けている状況であると認めている現状で、政府は住民帰還に向けての避難指示区域再編を着々と進めているが、帰還する住民の安全を担保し得る「科学的根拠」を「放射線被曝防護」の観点から、明確に示されたい。

八 食品の暫定規制値の設定や福島県民健康管理調査等の先行調査において施行されたホールボディカウンタ検査結果の評価に用いられた実効線量には、ベクレルをシーベルトに換算する係数が用いられていると思われるが、これはICRP勧告において定められた換算係数を援用したものか否かを示されたい。また、ICRPの換算係数を援用している場合は、当該係数を選択した根拠を示されたい。
 また、その換算係数の妥当性について、政府において独自に検討された経緯はあるか、それとも独自の検討はなされずにそのまま援用されたものか、そのいずれであるかを明確に示されたい。

九 放射性物質を体内に取り込んだ場合、取り込んだ放射性核種の違いによって人体への影響に差異が生じるか否かについて、政府の見解を明確に示されたい。

十 内部被曝検査として用いられているホールボディカウンタで測定可能な放射線はガンマ線のみであり、セシウムなどによる内部被曝の検出にとどまる。また、農産物や海産物など、食品の放射性物質の検査においてはヨウ素及びセシウムの検査はある程度行われているものの、ストロンチウムをはじめとしたベータ核種、プルトニウムをはじめとしたアルファ核種等、他核種の検査はほとんど行われないまま出荷され全国に流通している。
 しかしながら、今回の原発事故では三十一種類にも及ぶ放射性核種が放出したとされ、現在重要な懸案事項となっている放射能汚染水には、トリチウムやストロンチウムなどのベータ核種が高濃度に含まれており、これらが外洋にも流出し続けている状況である。内部被曝調査、食品の放射性物質検査において、ヨウ素、セシウム以外の他核種の検討がされていないのは、如何なる理由によるものか。アルファ核種、ベータ核種の検査自体が不必要との判断によるものか、それともアルファ核種、ベータ核種の検査も本来は必要であるが、実際の運用上、困難との理由から行われていないのか、いずれの理由によるものか、政府の見解を明確に示されたい。

  右質問する。