質問主意書

第183回国会(常会)

質問主意書


質問第一四七号

石綿健康被害者の救済に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十五年六月二十六日

川田 龍平   


       参議院議長 平田 健二 殿



   石綿健康被害者の救済に関する質問主意書

一 中皮腫と肺がんの発生比率に関して、平成二十五年四月三十日に政府から提出された答弁書(内閣参質一八三第八一号)では、「「日本において職業上、石綿を扱ったことが原因で肺がんを発症した患者数の中皮腫の発生数に対する比率」については、把握していない。」との答弁はあったが、ヘルシンキ・クライテリアが示した見解に対する評価については言及がなかった。しかし、労働者災害補償保険法や石綿による健康被害の救済に関する法律(以下「救済法」という。)に基づく石綿関連肺がんの認定基準や運用においてはヘルシンキ・クライテリアの示した診断方法が採用されている。政府はヘルシンキ・クライテリアに対してどの程度の信頼性があると考えているのか。日本における認定基準等の検討から運用に至るまでに、実際にそこで示されている考えが採用されている理由もあわせて明らかにされたい。

二 平成二十五年五月十七日に政府から提出された答弁書(内閣参質一八三第九四号。以下「答弁書」という。)では、石綿に十年以上ばく露したことにより肺がんを発症したとしてなされた労災保険給付の請求に対して、平成十八年二月九日から平成二十二年十一月三十日までの間において不支給の決定を行った件数、そのうち乾燥肺重量一グラム当たりの石綿小体の本数の計測結果が存在する件数、さらに当該計測結果を①一本以上千本未満の件数、②千本以上二千本未満の件数、③二千本以上三千本未満の件数、④三千本以上四千本未満の件数、⑤四千本以上五千本未満の件数、⑥五千本以上の件数に分けて十一の作業別に各件数が示された。救済法に基づく特別遺族給付金についても、答弁書の労災保険給付と同じ形式で各件数を示されたい。

三 平成十八年四月一日から平成二十四年三月二十八日までの労働者災害補償保険法及び特別遺族給付金の石綿関連肺がんの支給決定件数において、基発第〇二〇九〇〇一号平成十八年二月九日付厚生労働省労働基準局長発の「石綿による疾病の認定基準について」で、示されていた、「第二 石綿による疾病の取扱い」中「二 肺がん」の、(一)ア、(一)イ(ア)、(一)イ(イ)、(二)に基づくそれぞれの決定件数を示されたい。

四 石綿健康被害救済給付における石綿肺とびまん性胸膜肥厚の判定においては、基本的に「ばく露の確認」が求められている。この確認においては、「本人や遺族等から聴取するとともに、その内容を可能な限り各種の資料によって確認を行う」ことが示されている。平成二十五年四月十二日の中央環境審議会環境保健部会石綿健康被害救済小委員会(以下「石綿健康被害救済小委員会」という。)では、石綿健康被害救済給付における肺がんの判定においても、ばく露の確認を用いて救済の間口を広げるべきとの意見が一部の委員からあがった。一方、他の委員から、「患者さんからの職業歴、監督官に調べさせた職業歴、環境再生保全機構の方が調べられた職業歴で、実際に思われていることと、アスベストばく露があったということには大きな差がございます」との意見があった。これに関連して以下の点について政府の見解を示されたい。

1 労災制度に係る申請等で被災労働者本人や遺族からの職業歴の申告については、原則としては、信頼性が低いという立場で労働基準監督署職員等は業務にあたっているのか。
2 本人からの職業歴の申告は、事業主の証明や同僚の証言と比較して著しく信頼性の低いものと考えているのか。
3 じん肺やアスベスト関連の被災者で労災請求をする者の中には、数十年前に病気の由来となる物質にばく露している者が多数を占める。加えて、職業歴の証明にあたっては事業主の証明や同僚からの証明・証言が得られない場合もある。そういった場合は、本人の証言を基軸として、その他の比較的信頼性が低い客観的情報との組み合わせによるなどして信頼性を高め、支給の決定をした事案もこれまでにあったと考えられる(例えば、本人の申告にある工事現場のビル名やトンネル名と作業をした期間の情報が、実際の工事の事実と合致するなどした場合)。仮に、事業主の証明や同僚の証言がない場合でも、本人からの申告を中心に支給の決定をする場合もあると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

五 平成二十五年六月十八日付で公表されている、「「石綿健康被害救済制度における医学的判定に関する考え方の改正案」に対する意見の募集(パブリックコメント)の結果及び意見に対する考え方」の「③石綿ばく露作業を指標とする考え方について」では、「作業従事歴十年以上の胸膜プラーク」を採用しない理由が記されている。これに関連して以下の点について政府の見解を示されたい。

1 「救済制度は労災制度と趣旨が異なっている」とあるが、そのこと自体が、「作業従事歴十年以上の胸膜プラーク」の基準を採用しない理由とはならないと考える。むしろ「隙間のない救済」という救済法の趣旨からすれば、できる限り救済の間口を開いておくことが重要と考えるが、政府の見解を明らかにされたい。あわせて、それでも趣旨が異なることが前記基準を採用しない理由と繰り返す場合、その具体的な根拠を示されたい。
2 「調査体制が整っていない」ことも理由にされているが、予算・人員・その他の面で具体的にどのような体制が必要なのか、石綿健康被害救済基金の状況と環境再生保全機構の現状の人員体制にも触れつつ示されたい。
3 「作業従事歴十年以上の胸膜プラーク」の判定に限って、例えば、イタリアの中皮腫登録制度における中皮腫登録委員会が職歴及び環境ばく露歴調査に精通した職員を配置しているような体制を作ることは、予算・人員数において過大な負担はないと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
4 「従事歴の確認に必要となる客観的資料が乏しい」とあるが、なぜ救済法の申請者が提出するものはそうなるのか、また、なぜ客観的資料が乏しいと現時点で判断できるのか具体的に示されたい。
5 「客観的資料」の定義を具体的に示されたい。
6 「等の理由により」の「等」に含まれるものを全て示されたい。あわせて、それらが「作業従事歴十年以上の胸膜プラーク」を採用しない根拠にどのように結び付くのか具体的に示されたい。

六 前記五のパブリックコメントで「その他、パブリックコメントの対象外ですが、以下のような御意見・御要望がありました」に記載されている全ての意見に対して、政府の見解を明らかにされたい。

七 石綿健康被害救済小委員会の配布資料六「石綿繊維計測体制整備事業」では、認定申請における繊維計測について、審査の段階でそれが必要と判断されても本人が希望しなければそのまま不認定とする見直し案が示されている。現状では繊維計測には一定の期間を要するという問題があるが、審査側があたかも率先して救済の間口を閉ざす選択肢を提示するというのは、「隙間のない救済」を掲げている救済法の趣旨に反すると考えるが、政府としてこのような泣き寝入りを促す可能性の高い審査が運用される可能性のあることについて見解を明らかにされたい。

  右質問する。