質問主意書

第183回国会(常会)

質問主意書


質問第一四六号

電磁波対策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十五年六月二十六日

紙 智子   


       参議院議長 平田 健二 殿



   電磁波対策に関する質問主意書

 携帯電話基地局建設をめぐって、建設中止や撤去をもとめる運動が全国各地で起こり、電磁波による健康被害を懸念する声が広がる中、日本環境学会は二〇一二年六月、携帯電話基地局問題をテーマにシンポジウムを開催した。これは国内の学会としては初めての取組であった。さらに同年九月には、日本弁護士連合会が「電磁波問題に関する意見書」(以下「意見書」という。)を初めて発表しており、政府に対策をもとめる動きが広がり始めている。
 これまで二度の質問主意書で政府に対策をもとめたが(第百六十六回国会質問第七七号及び第百七十三回国会質問第九九号)、政府はその後も新たな対策を講じていない。しかし、環境中の電磁波は携帯電話、基地局の増加のみならず、WiFi、WiMAXなどの新たなアンテナ機器の広範囲の設置、さらに、スマートメーターの拡販などにより増大し続けており、電磁波過敏症の人々にはいっそう苦痛を増す環境が広がっている。そこで、改めて政府の対策等について、以下質問する。

一 携帯電話基地局建設をめぐる現況について

1 携帯電話基地局の建設に対して、住民らから建設地変更、撤去等の要望が出された件数、及び総務省としてその内容を携帯電話事業者に連絡した件数について、二〇〇九年度以降の件数を年度別に示されたい。
2 携帯電話事業者が携帯電話基地局を建設するに当たり、住民からの要望で計画を変更し、別の場所に建設した件数、また、一度建設した携帯電話基地局を住民からの要望等で撤去又は移転などに至った件数を示されたい。
3 携帯電話基地局の設置に関し、携帯電話事業者と基地局周辺住民との間で係争中の事案は何件か。地方裁裁判所、高等裁判所、最高裁判所の別に示されたい。

二 携帯電話基地局建設に係る条例等の制定状況について

 政府による電磁波対策がすすまない中、より住民に近い地方自治体が条例を制定し、携帯電話事業者に対し住民に事前に説明することを定めるなどしている。鎌倉市ではこうした条例を二〇一〇年三月に制定した一方、福岡県篠栗町では二〇〇六年に制定された条例が二〇一二年十二月に住民に事前に周知されないまま廃止される事態も起きている。
 全国的に見て、携帯電話基地局建設に係る条例・環境基本計画等を制定している自治体を政府は承知しているか。自治体名及び条例等の内容を示されたい。

三 予防的対策及び住民への情報提供について

 意見書では、現在までのところ、ICNIRPガイドラインよりも低い強度の電磁波での健康被害について、科学的因果関係が証明されているとまではいえない状況であるとしながらも、電磁波による健康被害として懸念される疾患には、小児白血病、がん等、生命の危険も含まれており、厳密な科学的知見の確立を待っては取り返しのつかない大きな被害を発生させてしまう危険性もあると指摘している。したがって予防原則の観点に立ち、たとえ科学的な知見が確立していないとしても、将来の健康被害の発生、特に影響を受けやすいと思われる子どもたちや病人の健康被害の発生を防止するため、社会的弱者への予防的対応とそのための支援策に言及している。
1 宮崎県延岡市ではKDDI携帯電話基地局周辺の住民が、基地局設置後に耳鳴り、頭痛、肩こり、鼻血、めまいなど共通した健康被害が発生したとして三十名が基地局の撤去をもとめて同社を提訴した。住民の運動で延岡市が二〇〇七年十一月に健康相談会を開催し、基地局稼働後に四十五名が何らかの症状を持っていることが確認され、二〇一〇年には住民が基地局から三百メートル以内に住む住民を対象として行った調査で百六十二名以上が症状を訴えている(耳鳴り・聴力低下七十一名、肩こり・関節痛六十一名、睡眠障害四十九名、頭痛四十七名、目の痛み・かすみ三十六名、めまい・ふらつき三十五名)。
 政府は、裁判でのこうした住民の訴えを承知しているか。意見書及びこうした住民の調査を受け止め、予防的対策を検討すべきではないか。
2 意見書は、現在の我が国では、自分が居住する地域のどこに電磁波施設が存在するのか、また、新たな電磁波施設の建設の予定があるのかについて、適切な情報が得られない状況にあり、このままでは住民にとって重要な意思決定をする前提としての情報がなく意思決定のしようがないと指摘するとともに、住民に対して電磁波施設に関する情報公開の制度を設けるべき、ともとめている。
 政府としてこの意見書を受け止め、電磁波施設に関する住民への情報提供のあり方について検討を開始すべきではないか。
3 意見書は、電磁波の健康被害に関する研究がいまだに不十分であることを踏まえ、国に対し、関連企業からの利益供与の有無及び内容が公開された研究者により公正に構成された調査・研究機関を設置して、高圧電線の近くに居住する住民や携帯電話中継基地局周辺に居住する住民の健康被害についての実態調査、電力会社や携帯電話事業会社等、強い電磁波の曝露を受けている企業に勤務する労働者の職業曝露と健康被害についての実態調査などももとめている。政府として調査を行うべきではないか。

四 バイオイニシアティブ報告書(二〇一二年補足。以下「増補版」という。)について

 バイオイニシアティブ・ワーキング・グループはすでに二〇〇七年に、現在の公衆安全限度値は公衆衛生を保護するには不適切であり、生物学的見地に基づいた新しい公衆安全限度値が必要だという結論を発表している。同年版では屋外での一平方センチメートル当たり〇・一マイクロワットとしていたが、増補版では「合理的で予防的な行動レベルとして一平方センチメートル当たり〇・三から〇・六ナノワット」としている。携帯電話で使用されている周波数と比較すると、この数値は総務省の電波防護指針値の一千万分の一レベルという厳しい値だが、政府はこうした増補版の数値を承知しているか。また、こうした「合理的で予防的な」数値につき、どのように評価しているか。

五 スマートメーターの各家庭への設置について

 政府は「エネルギー基本計画」(二〇一〇年六月)において「二〇二〇年代の可能な限り早い時期に、原則全ての需要家にスマートメーターの導入を目指す」としており、連動して電力事業者は各家庭の従来の電気計測メーターのスマートメーターへの切り替えに着手している。
1 携帯電話や基地局、無線LANなどと同様にスマートメーターが発する無線周波数電磁波は、WHOの下部機関であるIARC(国際がん研究機関)が二〇一一年に発がん性がある可能性のあるグループ2Bに分類している。そのためAAEM(アメリカ環境医学会)は二〇一二年一月に無線周波数電磁波を発生させるスマートメーターの設置中止を勧告しているが、こうした無線周波数電磁波発生源を各家庭に設置することに問題はないのか、政府の認識を示されたい。
2 北海道電力株式会社は二〇一五年度からの各家庭への導入に向け、モデル地域での電気計測器のスマートメーターへの切り替えを行っているが、対象家庭には「新しい電気計測器と交換します」との説明のみであり、無線周波数電磁波を発生させるなどの説明はされていない。政府は電力事業者に対し、スマートメーターへの切り替えに際し、IARCによりグループ2Bに分類された無線周波数電磁波発生源であるなどの情報を住民にかならず周知させるよう指導すべきではないか。
3 スマートメーターの被ばく量、アクセスポイント周辺での被ばく量は不明な点が多いが、電力事業者は「個人情報に関わる」として各家庭の無線周波数や出力などの問い合わせに回答しない。政府は電力事業者に対し、スマートメーターの周波数、出力、予測される被ばく量(スマートメーターからの距離ごとの電力密度)などを公表するよう指導すべきではないか。
4 スマートメーターの設置がすすめられたアメリカ合衆国カリフォルニア州では、設置後に体調不良を訴える人が多数現れたことから、有線スマートメーターという選択肢を設けるよう事業者に勧告した。政府は、各家庭へのスマートメーター設置を一律にすすめるのではなく、情報公開をして市民の意見を聞き、多様な選択肢を継続すべきではないか。
5 各家庭の電気計測器が切り替えられる場合、スマートメーターの代金、設置費用、送信用電力は消費者が負担するものなのか。または、すでに原価算入によって消費者が負担しているのか。

  右質問する。