質問主意書

第183回国会(常会)

質問主意書


質問第一三九号

環境基本法に基づく厳正な「放射性物質による環境汚染防止のための措置」と関連個別法の整備に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十五年六月二十四日

川田 龍平   


       参議院議長 平田 健二 殿



   環境基本法に基づく厳正な「放射性物質による環境汚染防止のための措置」と関連個別法の整備に関する質問主意書

 東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「原発事故」という。)から二年が経過した。国土が広く汚染され、様々な問題が浮上してきたが、法律はいまだに対応できず、以下のように後手後手のその場凌ぎのものになっている。
 昨年六月、原子力規制委員会設置法が成立したことに伴い、環境基本法第十三条が削除され、「放射性物質による環境の汚染の防止のための措置」(以下「汚染防止の措置」という。)については原子力関連法から環境関連法に移行されることになった。原子力関連法では周辺環境に放射性物質が大量に放出される事態は想定されていないなどの「法の空白」は第百七十七回国会における自民党の井上信治衆議院議員の質疑及び江田五月環境相の答弁においても改めて認識されていたところで、放射性物質の放出に関する規制が環境基本法に移行されたことの方向性自体は誤りではない。しかし、今国会における関連個別法(大気汚染防止法、水質汚濁防止法等)の改正法の審議内容を見ると、肝心の生活環境における「汚染防止の措置」についての法整備が抜けてしまっている。
 昨年九月、「原子力に対する確かな規制を通じて、人と環境を守ること」を使命とし、「中立公正な立場で独立して職権を行使する」機関である原子力規制委員会が環境省の外局として設置された。しかし、諸規制に関する環境省との役割分担について判然としない。
 原発事故により発生した放射能汚染廃棄物の処理について急遽定められた「措置法」などと、各放射性物質関連法律との間の整合性がなく、法体系が不備のまま処理が進められ、全国各地で地方行政に対する住民の抗議行動が相次いでいる。
 原発事故を引き起こし、放射性物質で広く国土を汚染させた東京電力は刑事責任を問われて然るべきであるのに、民事責任さえ果たしたとは到底言えない状況である。「国民の生活と環境の場を放射性物質で汚染させない、汚染させたら罰せられる」とする当然な法整備が今求められている。
 侵害されている人権を一刻も早く救済し、この豊かで美しかった国土をこれ以上汚染させることなく、私たちや子孫がこの地で安心して生活し、末永く生き続けられるよう、国民が信頼できる厳しく、また、きめ細かい環境汚染防止のための法整備を求める観点から、以下質問する。

一 環境基本法と関連個別法による放射性物質の規制について

 昨年六月、原子力規制委員会設置法が成立したことに伴い、環境基本法第十三条「放射性物質による大気の汚染、水質の汚濁(中略)の防止のための措置については、原子力基本法(中略)その他の関係法律で定めるところによる。」が削除された。しかし、大気汚染防止法、水質汚濁防止法等の関連個別法において放射性物質に係る適用除外がなされてきた。今国会において適用除外規定を削除するとともに、放射性物質による大気汚染及び水質汚濁に係る常時監視の規定を設ける法律が成立した。しかし、同法律を見ると、改正前の環境基本法第十三条における汚染防止の措置について触れられていない。
 汚染防止の措置とはどのような項目が挙げられるのか。また、汚染防止の措置は今年度から具体的に施行されるのか。特に環境基本法第十六条(環境基準)は具体的な汚染防止の措置として規制に欠かせない項目であると思われる。放射性物質による汚染が拡大し続けている現況においては、緊急に行われるべきであるが、策定及び施行の時期はいつなのか。さらに、その基準は核種ごと、汚染対象等によって具体的に設定されるべきものと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

二 省庁による役割分担の明確化について

 原子力施設内(敷地境界を含む)における放射性物質による汚染の監視については原子力規制委員会、原子力施設外の人々の生活の場及び環境における放射性物質による汚染の監視については環境省という役割分担になっているという理解で良いか。放射性物質による汚染防止に係る業務の所管及び責任の分担を明確に示されたい。

三 人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律(以下「公害罪法」という。)の適用について

 私が提出した「東海再処理工場、六ヶ所再処理工場の安全規制等に関する質問主意書」(第百八十三回国会質問第三一号)に対する答弁書(内閣参質一八三第三一号)三の2において「人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律(中略)においては、人の健康を害する物質(身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質を含む。)を規制対象としており、放射性物質も同法の規制対象となり得ると考えている。」と政府は答弁しているが、原発事故における放射性物質排出行為は公害罪法の構成要件に該当すると考えられるところ、この点につき政府の見解を示されたい。厳しい罰則の担保があってはじめて実効性を伴うが、公害罪法の罰則をもっと厳しいものにし、事故を未然に防ぐべきと思料するところ、政府の見解を示されたい。

四 核燃料再処理工場の放射性物質放出規制の問題について

 同一国内において、原子力発電所には放射性物質の排水濃度規制があり、原子力発電所と同じく原子力施設である核燃料再処理工場には同規制がないという齟齬は環境保全上の見地からも許されることではない。排水濃度規制は原子力施設の種類により差異をつけず、全ての原子力施設で一律に行うべきではないか、政府の見解を明らかにされたい。
 六ヶ所再処理工場のアクティブ試験において、二〇〇七年度には原子力発電所のトリチウム排水濃度規制値を平均で五百五十八倍上回る排水を海洋へ七十四回放出している。最大値を記録したのは、規制値を二千八百倍上回る排水五百八十五トンを海洋へ放出した二〇〇七年十月二日であった。このまま本格操業を許しては、取り返しのつかない海洋汚染が必至であり世界的に見ても環境(食料資源を含む)保全上大きな問題ではないか、政府の見解を示されたい。

五 人の健康や環境を守るための放出濃度規制について

 原子力施設から放出される放射性物質個々の放出濃度規制は、ICRP勧告等に基づき原子力関連法で決められていると聞くが、どれも人の健康・環境を守るための規制値としては緩く不十分である。どのような科学的見解によりこのような数値が設定されたのか、主な核種について情報を公開するべきではないか。また、その規制値の見直しを行い厳重な放出濃度規制値を定め、総量規制を行うべきと思料するが、政府の見解を明らかにされたい。
 原子力発電所などの原子力施設の現行放射性物質放出濃度規制値は、放射性物質と同様遺伝子を損傷させる化学物質の環境などへのリスクに基づく放出規制と比べあまりに緩く、環境や人々の健康を守るものになっていない。例えば、トリチウムの原発放出濃度規制値は六万ベクレル毎リットル、これは自然界の水中濃度の六万倍の値である。一般廃棄物最終処分場からの排出水の濃度規制値は原子力施設から放射性物質を排出する場合の規制値であるセシウム134の六十ベクレル毎リットル、セシウム137の九十ベクレル毎リットルを適用しているが、原子力施設ではない一般廃棄物最終処分場に原子力施設の規制値を適用させることは問題と考えるが、いかがか。
 ドイツ政府の調査によるとドイツの原子力発電所周辺では小児白血病が高率で発生していると報じられている(二〇〇七年十二月、ドイツ連邦環境省及び放射線防護庁により公表)。わが国の原子力発電所の周囲で綿密な疫学調査は行われているのか、また、わが国の原子力発電所の放射性物質の放出濃度規制値はドイツのそれと比較して厳格なものであり、周囲の子どもへの健康影響が確実に回避されうるものであるのか、政府の見解を明らかにされたい。

六 放射性物質の放出濃度規制値とモニタリング方法、その評価について

 原子力施設から放射性物質を大気に放出する場合に排気筒での濃度規制をせずに、周辺敷地境界で行っている。さらに、この測定頻度が少ない上、三か月の平均値で規制をかけている。これでは大事故があっても規制をクリアしてしまうような濃度規制方式であり納得できない。例えば、これと関連して、クリプトン85は敷地境界で一立方メートル当たり十万ベクレルが規制値とされているが、原発事故時三か月の平均値でこの規制値を超えたのか。大気放出された核種で規制値を超えた核種があったのか。過酷事故が起こっても規制値以内となるような規制では意味がないと思料するが、政府の見解を明らかにされたい。
 また、核燃料再処理工場から放射性廃液を海洋底へ放出しているにもかかわらず、工場周辺の実効線量を三か月で二百五十マイクロシーベルトとしているが、海に流して陸上で評価するのは誰が考えてもおかしな評価方法である。海洋放出管口で測定し評価すべきではないか。海がいくら汚染されても問題にならない規制では意味がないと思われるが、政府の見解を明らかにされたい。

七 放射性物質の陸上からの海洋投棄・放出を禁止することについて

 「千九百七十二年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」(ロンドン条約)第四条1の(a)では「附属書Ⅰに掲げる廃棄物その他の物の投棄は、禁止する。」とあり、その対象として「放射性廃棄物その他の放射性物質」が規定されている。これに対して、「放射性物質を船から捨てることが禁止されており、陸から捨てることは禁止されていない」という詭弁に等しい論理で核燃料再処理工場等から放射性物質が海洋へ放出されている。これは環境保全上の見地からも許されることではないのみならず、ロンドン条約に違反しているのではないか。前述の条項は放射性物質による海洋汚染防止を趣旨とするのであって、この趣旨からすれば「投棄」の概念をいたずらに狭く解することは、いわば罪刑法定主義の概念の誤用であると考えられる。この点について、政府の見解を明らかにされたい。

八 放射性物質による汚染物(がれき)の焼却処理・広域処理について

 平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法により放射性物質による汚染物を一般の清掃工場で焼却処理しているが、焼却処理の工程における放射性物質の除去率に係る科学的データが公開されないまま進められている。一般の清掃工場で一キログラム当たり百ベクレルを超える放射性廃棄物(焼却灰、汚泥)が取り扱われている。以上のことから、焼却処理は中止し処理について検討し直すべきではないか。また、清掃工場の従業員の被曝を防ぐため、放射性物質取扱いの教育を行うべきではないか。さらに、この暫定法はいつ見直す予定なのか、政府の見解を明らかにされたい。

九 「放射能汚染防止基本法」の制定及び関連個別法の整備について

 わが国は公害の深刻化により昭和四十五年に「公害国会」が開かれて、公害対策基本法等からいわゆる「経済調和条項」を削除し、環境優先のもと各種公害関連法を制定したことで、環境が著しく改善された。今回の原発事故は人類史に刻まれる深刻な被害をもたらし、諸外国からもわが国の対応が注目されている。
 そこで、「公害国会」にならい、「原子力公害国会」を開会し、核廃棄物による汚染から現在・未来世代の安全を守るため「放射能汚染防止基本法」を制定し、関連個別法を総合的かつ抜本的に見直すことが求められているのではないかと思料するが、政府としての見解を明らかにされたい。

  右質問する。