質問主意書

第183回国会(常会)

質問主意書


質問第一三八号

北海道外アイヌの民族認定と奨学金事業に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十五年六月二十四日

紙 智子   


       参議院議長 平田 健二 殿



   北海道外アイヌの民族認定と奨学金事業に関する質問主意書

 政府はアイヌ政策推進の一環である「北海道外アイヌの生活実態調査」(二〇一一年六月。以下「生活実態調査」という。)を踏まえた施策の実施に向け、内閣官房アイヌ政策推進会議「政策推進作業部会」(以下「作業部会」という。)が奨学金事業の対象者認定と実施機関の方向性を公表している。
 「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会報告書」(二〇〇九年七月)からほぼ四年が経過し、アイヌ民族の積極的差別是正措置は急務であり、施策の対象者を確定する民族の認定方法と実施・認定機関の明確化が今後の施策展開の根幹をなす重要課題となっている。
 かつて、同和事業のいわゆる「窓口一本化」によって一団体が施策の受給資格の決定権を持つ事態となり、数々の不正受給、運動の押し付け等、様々な問題が引き起こされたこと、合わせて各種給付が一団体に集中したため施策自体が組織的、構造的に団体の利権の温床となったことが判例でも確定している。
 今後、奨学金のみならず多角的に実施すべき積極的差別是正措置については、同和事業の轍を踏むことのない枠組みをつくる必要がある。
 よって以下質問する。

一 第十一回作業部会(本年四月十九日)の議事概要(以下「議事概要」という。)によると、施策の対象者の認定については、アイヌ民族への理解、民族みずからが構成員を決定する先進国事例、透明性・客観性、アイヌ民族政策に関する事務処理経験の四点をあげ、実施機関を北海道アイヌ協会(以下「協会」という。)とし、協会に第三者委員会を設けて最終的審査を行う方針が示されている。

1 議事概要では、「民族の構成員を民族みずからが決定することは、民族政策の先進国では一般的になっている」と指摘しているが、政府は、今回想定している実施機関(協会)及び協会に設置されるという第三者委員会を、いずれも「民族の構成員を民族みずからが決定する」機関とみなしているのか。
2 議事概要では、申請者は戸籍等の資料を添えて実施機関へ申請するとされているが、政府は施策の対象者の基準・範囲をどう設定するのか。政府が認定基準を設定するのならば、それは「民族みずからが決定する」認定とは意味合いが異なるのではないか。
3 協会が実施機関となり、また第三者委員会が設けられることは、特定の一団体に政府の施策の事務を全部委任するものであり、実質的には事務費用を伴う施策の「丸投げ」になると考えるが、政府の見解如何。また、特定の団体の内部に設置される第三者委員会であっても当該団体の意思及び運動方針等の影響を受けることはなく、透明性・客観性は担保されていると考えているのか。透明性・客観性があると判断した根拠を示されたい。

二 先住民族の権利に関する国際連合宣言は、第三十三条第一項において「先住民族は、その慣習及び伝統に従って、自己の帰属又は構成員を決定する権利を有する。」と規定しているが、アメリカ合衆国では民族による認定と合わせて、政府による認定を行い、教育、医療等の支援を行っている。

1 同国における政府による認定の効果については、アイヌ政策推進会議「北海道外アイヌの生活実態調査作業部会」(第七回。二〇一一年一月二十八日)において、北海道大学アイヌ・先住民研究センターの水谷博士研究員が「トライブ(部族)の認定のほかに、内務省インディアン局から血統の割合証明書が発行されている。トライブの構成員でなくても、祖先が先住民であれば申請でき、血統の割合が何パーセントでも発行可能。トライブによって認定されない人々の救済措置となっているのではないか。」と説明している。カナダにおいても、部族員認定がなくともインディアン法の規定による登録者が存在する。
 政府は、民族による認定以外の政府機関による認定の意義について、どう認識しているか。
2 政府による施策の対象者の認定を担う第三者委員会は、特定の団体にではなく、政府機関の下に直接設置するのが適切なあり方ではないか。
3 奨学金事業の対象者は北海道外の居住者であることから、第三者委員会委員の構成における民族代表は北海道に偏ることなく、北海道外アイヌの比重を高めるべきではないか。

三 北海道では、アイヌ生活向上関連施策として道内に居住するアイヌ民族子弟に対する奨学金などの事業を行い、国が支援している。この手続は、希望者が協会の各支部に申請書類を提出し、協会が一括して北海道に奨学金などを申請するものである。

1 協会の各支部が一括窓口になっている中で、協会の会員以外であっても申請することは規定上可能なのか。また、実際に協会の会員以外が受給申請し、実際に受給している事例はあるのか。
2 協会の会員ではないアイヌが、受給申請するために一時的に協会の会員となっている実態があるが、こうした状況について政府は適切だと認識しているのか。
3 協会の会員以外の受給希望者が協会の会員にならなくとも受給できるよう、北海道に独自の窓口を設ける必要があると考えるが、政府の認識を示されたい。
4 今後、奨学金制度が北海道外の居住者に広げられた場合、申請書類の受付窓口を、例えば生活実態調査の回答者が居住する自治体など、公的機関にする必要があるのではないか。

四 生活実態調査によると、世帯収入については二百万円以上三百万円未満の割合が最も多いが、収入ゼロから三百万円未満の割合で見ると四十四・八パーセントとなっており、国民生活基礎調査で示された全国の状況三十三・二パーセントと比べて明らかな差がある。また、生活保護を受けている割合は七・六パーセントとなっており、全国の状況二・三パーセントの三倍以上である。

1 議事概要では、想定される奨学金制度について、「アイヌの子弟の独自の奨学金制度ではなく、日本学生支援機構に北海道外のアイヌを取り入れることにしか見えない」との指摘がある。政府は積極的差別是正措置としての奨学金制度を設計する方針ではないのか。
2 日本学生支援機構の奨学金事業は、七割以上が有利子であり、無利子は三割以下である。この下で、大学生の奨学金の最高月額は十二万円、四年間で五百七十六万円にのぼり、就職先が決まらなくても大学卒業時にはこの高額の借金を背負うことになる。
 高校生に対しては、都道府県の基本的制度は、公立で自宅一万八千円、宅外二万三千円、私立で自宅三万円、宅外三万五千円となっており、三年間では合計六十四万八千円から百二十六万円の返済額を背負うことになる。
 生活実態調査を踏まえるならば、新たな奨学金制度は都道府県や日本学生支援機構と同様の事業としてではなく、積極的差別是正措置としての枠組みの下、給付制を基本とすべきではないか。
 また、幅広い返還免除規定を設けるべきではないか。仮に貸与制を採用することが適切であると判断する場合には、その理由を示されたい。

五 全国のアイヌ人口の調査は、奨学金のみならず、今後必要な施策展開の対象者数を明確にするものであり、きわめて重要な課題である。
 作業部会(本年二月二十二日)においても議論が行われているが、この重要性についての政府の認識、今後の論点、議論の結果を得る時期について、それぞれ明らかにされたい。

  右質問する。