質問主意書

第183回国会(常会)

質問主意書


質問第一三四号

通所サービスの送迎のための駐車確保に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十五年六月二十四日

又市 征治   


       参議院議長 平田 健二 殿



   通所サービスの送迎のための駐車確保に関する質問主意書

 高齢者の生活機能回復と安全確保や心身の福祉向上を図る上で、介護保険サービスによる援助は欠かせないが、そのうち比較的軽度であって「通所介護」または「通所リハビリテーション」(以下「通所リハ」という。)のサービスを受けている人は各々百十五万人余及び三十九万人余で、この人たちの要介護度(両サービス合計)は、要介護一が五十一万人余、要介護二が四十八万人余と多くを占めている。
 これらのサービスを提供する事業所は通所介護が三万五千か所余(うち小規模事業所(通所介護のみ)が一万七千か所余)、通所リハ事業所が七千か所余(多くは通所介護も実施している)となっている。
 これら通所介護及び通所リハ(以下「通所サービス」という。)においては自宅との送迎が必須であるが、これには駐車の問題が伴う。つまり、二〇〇六年の道路交通法改正で渋滞解消・事故抑制のため駐車禁止が強化されたため、禁止場所の増加、駐車時間の制限、取締り強化(反則切符交付)などにより、通所サービスの送迎車両の駐車も規制されるようになった。
 この結果、通所サービスの利用者は介護事業者から、自宅から送迎車両までの自力歩行(または家族による介助)を条件とされたり、暗に解約を求められたり、また、新規利用希望者は契約に応じてもらえないなど、利用条件が悪化している。
 類似したサービスでも、訪問看護、訪問介護などは、利用者の居宅等に一定(長い)時間滞在しサービスを行うので、駐車禁止除外車両を使用したり、駐車許可を受けている例がほとんどである。しかし、通所サービスにあっては、朝に利用者を自己の事業所に迎え、夕方に送り返す。個々の利用者には、一人暮らし(あるいは日中に一人)、起居・歩行が遅い、体調が日によって不安定、居室から送迎車両の駐車場所までが路地裏または段差がある、エレベータ利用が必須など様々な事情があり、送迎に思わぬ時間・人手がかかるという。
 一巡回当たりの利用者(居宅送迎)数は、六人乗り車両であれば運転者と同乗介助者を除き最大四人となり、利用者一人一人の住所につき警察署に駐車許可の申請をする。しかし、利用者の身体状況が不安定なこともあり、時刻は一定しがたい。事業者としては、駐車違反になっては大赤字となるので、「リスクの高い利用者」を忌避したり解約するケースが見られる。利用者の中から「駐車場所まで自力歩行できる人」か「送迎時に家族・ヘルパーの介助のある人」を選別するのである。比較的軽度の要介護者が、駐車規制ゆえに事業者から忌避され、数少ない外出の機会を失っていることになる(なお、短時間の乗降のために別途の有料ヘルパーやボランティアを依頼することは非常に難しい)。
 札幌市内九十一施設で行われた通所介護施設の車両運行の調査(二〇〇七年十月実施、小野・森「高齢者通所介護施設による送迎サービスの実態と移動環境の課題」二〇〇八年北海道大学 著作権(社)日本都市計画学会)によれば、一運行当たりの送迎時間は四十五分から一時間が大半であり、一日当たりの定員規模は十一人から二十人が最も多くなっている。この調査では帰りの降車時間を計測しているが、利用者一人当たり五分から十二分である(利用者が車両を降りてから介助者が再乗車し発車するまで。なお、朝の迎えの時間は計測されていない)。利用者の身体状況や駐車場所・居住環境により、時間の幅が大きい。
 また、同調査では、乗降場所について「道が細すぎて利用者宅前まで送迎車両が入ってゆくことができない場所がある」と回答したのは九十一施設中三十六施設であり、また、「今年(二〇〇七年)からデイサービス等の福祉車両に対して駐車許可証の発行がなくなったので、何かあったときに職員が全て車を離れることになった場合には違反をとられる」、「福祉車両の駐車禁止道路での規制を緩和してもらいたい」、「ヘルパーが介助しドライバーが利用者の手荷物を運ぶ場合など、駐車違反通告を受けるケースがある。送迎車両の駐車許可を認めてほしい」との意見が述べられている。
 一方、福井市内十一施設での調査(辰巳「デイサービスにおける送迎サービスの問題について」福井工業大学研究紀要第三十四号二〇〇四年)によれば、利用者の利用回数は週二回が三十六・〇パーセントと最多で、以下週一回二十九・一パーセント、週三回十六・七パーセントである。要介護度は一が最も多く、次いで要介護二、次いで要介護三または要支援である。歩行・移動に関する日常生活動作レベルは、自立歩行が三十三・三パーセント、介助有りで歩行が十六・八パーセント、杖や歩行器使用が二十六・五パーセントである。送迎時の問題点として、駐車場所の困難のほか道の段差や凸凹、他の車両の無断駐車や無理な追い越し、降雪・積雪時の遅れ、利用者のトイレや身体状況の急変が挙げられている。
 警察庁によれば、「駐車禁止除外車両」の登録は、車椅子リフト等を装備した車両に限られる。通所サービスは「不自由ながら介助されて歩行可能」な利用者を送迎するので、一般の車両利用が通常であり、「駐車禁止除外車両」登録は受けられない。
 また、「駐車許可」の集計を平成二十三年中の目的別で見ると、都道府県警察により差異があるが、全国では四十八万件余のうち宅配便など「貨物の積み卸し」(ただし、「引越し」は別の分類)が二十七万件余で五十八パーセントと圧倒的に多い。次いで、「訪問介護」が約十万件(二十一パーセント)、三位「その他」が約五万件(十パーセント)、四位「訪問看護」が約四万件(九パーセント)となっている。これに通所介護や通所リハという分類はなく、「その他」の中に含まれるという(なお、兵庫県が特異値で、総数で三十万件、うち「貨物の積み卸し」が二十六万件を占める。同県警は署長の許可を交番で行っているという)。
 ちなみに東京都で見ると「訪問看護・介護・入浴」での駐車許可は小計一万一千三百三十八件で、許可全体の五十四・五パーセントにのぼる。通所サービスの許可車両は全国と同様、分類上特記されず、「その他の許可」六千五百四十六件の中に含まれると警察庁は見ている。
 「駐車許可」の発行・運用について、警察庁は各都道府県警(各都道府県公安委員会)に委ねていると聞くが、その一例として提供された神奈川県の規定においては、駐車許可が必要な例として、「重量、長大で駐車場やパーキングメータを利用できないもの」などとあり、許可事例の数から見れば「宅配便」が圧倒的多数を占める。他方で、要介護者等の人間を運ぶケースが増大している現実についての認識が不足しており、道路交通規制行政全体として、もっと高齢社会への対応という視点を拡げる必要があるのではないかと考える。
 「駐車許可」の許可・不許可の扱いは、警察庁としては二〇〇六年の駐車禁止の強化のあと、二〇〇七年の局長通達により緩和し、警察署が個別事情を聞いて許可しているはずだという。ただ仄聞するに各警察署による差異があって、一部の警察署では通所介護の送迎車両の駐車を原則不許可としており、その理由として、「単なる送迎に駐車票は出せない」あるいは「通所介護は送迎するだけなのに駐車票を発行したら、どこもかしこも許可をしろと言ってくるので、出さない」、「路地の奥などへ迎えに行くなら、介助の人員を増やせばよいではないか」との説明をしていると聞く。
 利用者及び送迎の状況を都市部の某事業所の例で見ると、ここは車両が二台(八人乗りワゴン車と四人乗り軽車両)という一般的な構成であり、利用者は自力歩行は難しいが車両への乗降ができる(車椅子を使わない)程度であるため、駐車禁止除外車両(車椅子搭載)ではなく、送迎時にドアツードアの対応をするが、運転者と介助者が同時に車から少し離れただけで駐車違反として取締りを受けるので、利用者が住む四つの警察署で「駐車許可」を受けている。許可は利用者の住所ごとに、かつ期限付き(六か月)なので、事業所としては申請の事務量が多い。
 県警からは「今回はA警察署の誤解で許可を出したが、次回からは出さない」と言われ、不許可となれば、当該利用者の送迎は駐車を無許可で続けるか、撤退かの選択となる。
 (利用者Aさんの場合) 自宅で転倒して骨折し入院の後、退院している。要介護度は一で、住まいはマンションの八階である。転倒の危険が高いため、歩行能力を維持向上させようとデイサービスを希望している。デイサービスでは機能回復訓練を綿密に行うため、効果が期待できるが、八階の部屋までの送迎のためのヘルパー利用には介護保険の単位数が不足している。身体障害者手帳は持っていないため駐車票の申請もできない。歩行は遅く、送迎車両駐車開始から、エレベータに乗せて降りてくるのに五分以上かかる。
 (利用者Bさんの場合) 脳梗塞による左片麻痺があり、在宅で、機能回復訓練のため通所介護を利用している。要介護度は要支援二で、住まいは細い路地の奥にあり、路地も私道部分が多く凸凹である。麻痺があるため一人で歩いて送迎車両まで来るのは危険が高く、送迎担当者が自宅まで介助して送迎する必要がある。ヘルパー利用を申し込んだが、ケアマネージャーから「要支援者にはヘルパー送迎は不可」と断られた。自宅から送迎車両まで歩くのを一生懸命頑張っているが、五分以上かかる。
 (利用者Cさんの場合) 脳梗塞による麻痺があり、一人で歩行は困難、介助(肩につかまる)があれば歩行できる。通所介護にて機能回復訓練を行っている。要介護度は一で、住まいは細い路地の奥にあるため駐車場所まで送迎が必要である。また、かがんで靴を履くことが出来ないので、送迎者が靴を履かせたり、脱がせたりする。ヘルパー送迎は介護保険の単位数が足りないため出来ず、自宅から車の停めてある場所まで五分前後かかる。
 (利用者Dさんの場合) 幼少時に患った脊椎カリエスが原因で手足の長さが左右で違い、歩行が不安定である。通所介護を利用している。要介護度は要支援二であり、住まいが路地の奥にあるため、杖をついて歩行するが、転倒の危険が大きく職員が玄関まで送迎している。雨が降ると傘をさして杖をつくことができない(左手が短いので右手しか使えない)ため、職員の送迎は不可欠である。要支援者なのでヘルパーによる送迎は介護保険上認められない。
 東京都心部など古い市街地は、道が狭いところが多く、ドアツードアの送迎には駐車場所がなかったり、送迎時に家族が介助できない者は、事業者から選別され契約できない。ヘルパー利用は短時間過ぎて不可能である。こうした「軽度者の通所サービス」の送迎は、駐車禁止・許可の運用が細やかでないゆえにかえって重度・中度者より不利となる。
 福祉施策の面からの改善も考えなければならないが、交通法制や規制(警察行政)の面から、利用者及び利用希望者が通所サービスをより利用できるよう、改善を求める観点から、以下質問する。

一 送迎の実態調査及び事業者への指導の必要性

 通所サービスに使用している送迎車両の数は、省庁間の所管の「すきま」になっていて把握されていないようである。厚生労働省は、全国の送迎車両の総数を把握するとともに、都市部での運行時間、うち送迎(=駐車)に要する時間、困難な事例、駐車違反や交通事故等について実態調査を行い、利用者処遇の改善及び警察署による駐車許可等の拡充の参考に供すべきではないか。
 また、事業者に対し、利用者の便宜と円滑な運営のため、必要な場合は駐車許可などを活用するよう指導すべきではないか。

二 駐車許可の件数及び通所サービスの送迎の件数

 警察署長の「駐車許可」を受けている車両は、全国で四十八万件余(平成二十三年中)と聞いているが、その目的(使途)別台数(件数)を都道府県別に示されたい。
 また、このうち通所サービスの送迎は、目的別の「その他」に一括されて数が特定できないが、介護の事業統計から見るなら、「訪問介護」等と同じ規模が実働している(駐車許可が不要なケースを除く)と思われるので、再集計し実数を明らかにされたい。

三 通所サービスの送迎車両の駐車許可状況

 通所サービスの送迎に使用されている一般型の車両(車椅子搭載ではない)について、警察は「駐車許可」を交付しているが、その許可の基準は、都道府県警察ごと、ないしは警察署ごとに若干異なる。その違いを、最も広く許可している例と、最も狭く許可している例について、当該都道府県警の示す許可・不許可の基準を付して示されたい。
 また、許可期限(月数)は、どのように分布しているか示されたい。さらに、通所サービスについては、利用者に短期の変動は少ないので、より長期とすべきではないか。

四 バリアフリーの介護福祉行政及びまちづくり行政の課題

 高齢社会は今後も進展する。厚生労働省が介護予防の強化・充実を図っていることからも、要支援者をはじめとする軽度の歩行困難者、すなわち通所サービスの利用者(及び希望者)の数も増大するであろう。
 少しでも活動能力のある高齢者に積極的な活動を促し、社会の活力を維持向上するために、様々な分野の施策が連携して発動されるべきで、前述した通所サービス利用の際の駐車禁止問題に限らず、介護福祉行政及びまちづくり(都市計画)行政の課題として改善すべき点があるのではないか。政府の見解を示されたい。

五 道路交通規制行政、駐車規制の面からのバリアフリー化

 道路交通規制行政においても、駐車禁止による安全の面は守りつつ、「駐車許可」等を人間尊重の介護福祉の視点から見直して、ソフト面でのバリアフリー化を進めるべきだと考える。駐車規制については、従来の交通円滑化や元気な歩行者の安全の確保という目的から一歩進めて、「軽度の歩行困難者が、自家所有車以外の送迎車両を日常的に利用する」場合の規制のあり方を検討し、提案すべきではないか。政府の見解を示されたい。
 この点で現在、一部の警察署で通所サービスの送迎時に駐車許可は出さないとしていることは、高齢者の生活行動の向上、介護保険で制度化されたサービスの社会的要請、要介護者の送迎の複雑な実態についての理解が不足したまま、現場の裁量権で不許可としていると見ざるをえない。
 駐車許可をもっと活用して、高齢者等の移動の安全・介護サービスと道路交通ルールを両立させる方向に誘導し、改善するべきではないか。

  右質問する。