質問主意書

第183回国会(常会)

質問主意書


質問第一一八号

日本軍「慰安婦」問題の強制連行を示す文書及び政府認識に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十五年六月十日

紙 智子   


       参議院議長 平田 健二 殿



   日本軍「慰安婦」問題の強制連行を示す文書及び政府認識に関する質問主意書

 今年四月に提出した「日本軍「慰安婦」問題の強制連行を示す文書に関する質問主意書」(第百八十三回国会質問第八三号)において、私は東京裁判(極東国際軍事裁判)関係文書(以下「証拠資料」という。)を提示し、軍や官憲による強制連行について政府認識をただしたが、答弁書(内閣参質一八三第八三号)は「新しい資料が発見される可能性」に言及したものの証拠資料については何らの評価を行わず、答弁回避に終始した。また法務省が二〇〇〇年三月に国立公文書館に移管した証拠資料は内閣官房には保管されていないことが明らかになった。
 安倍内閣は五月以降、いわゆる「村山談話」、「河野談話」について「歴代の内閣の立場を引き継ぐ」等と答弁しているが、核心部分を曖昧にし、女性を「戦争の道具」とみなして歴史を歪曲し被害女性を傷つける橋下大阪市長の度重なる暴言には断固たる姿勢を示していない。この根底には「侵略の定義は定まっていない」として、先の大戦を侵略戦争と認めようとしない安倍内閣の歴史認識がある。こうした姿勢に対し、国連諸機関からは「慰安婦」問題への真摯な対応を求める勧告が行われている。
 そこで歴史事実を示す各種文書に関する政府の収集保管についてただすとともに、国連機関の勧告への対応及び戦争犯罪に対する認識について、以下、質問する。

一 内閣官房における河野談話以降の文書収集・保管について

 政府は「河野談話」以降も、各省庁、関係機関から日本軍「慰安婦」問題に関する文書の提出を受け、内閣官房において保管している。アジア太平洋戦争下の戦争の実相を示す文書を政府が収集保管することは歴史認識の基盤となるものであり極めて重要である。
1 内閣官房が「河野談話」以降に各省庁、関係機関から提出され保管している文書の点数について、提出年度別に、また、警察庁、防衛庁(現防衛省)、厚生省(現厚生労働省)、国立公文書館、国立国会図書館、英国国立公文書館(外務省)など提出を受けた省庁・機関別に示されたい。加えて、各文書の提出の経過を明らかにされたい。
2 法務省は、すでに一九九六年七月、内閣官房外政審議室長(当時。以下「外政審議室」という。)から「いわゆる従軍慰安婦問題に関連する資料等について(依頼)」を通知されていたにもかかわらず、二〇〇〇年三月に証拠資料を国立公文書館に移管するまで内閣官房に提出しなかったのはなぜか。また、国立公文書館への移管とともに内閣官房へ通知を行わなかったのはなぜか。
3 国立公文書館は、一九九八年五月に「高級享楽停止ニ関スル具体策要綱(内閣参事官及内務、大蔵、農商、厚生各省関係官会議決定)」及び「同(閣議諒解)」の二点の文書を内閣官房に提出しているが、いかなる判断で提出したのか。それに対し、二〇〇〇年三月に証拠資料を法務省から移管されてから今日まで内閣官房に提出していないのはなぜか。
 内閣官房は、「慰安婦」被害女性の強制連行を証明するものとして東京裁判に提出された証拠資料を保管していないことが明らかになったので、ただちに国立公文書館に同資料(もしくはその写し)を提出させるべきではないか。提出させない場合は、その理由を明らかにされたい。
4 「河野談話」に先立つ政府調査において、外政審議室は米国に担当官を派遣し、米国の公文書を調査したほか、韓国政府が作成した調査報告書、太平洋戦争犠牲者遺族会など関係団体等が作成した元慰安婦の証言集等も収集した。それらの文書に「慰安婦」被害女性が本人の意思に反し、軍や官憲により連行、監禁、強姦された強制性を証明するものが存在するのではないかと思料するが、いかがか。

二 公人の発言及び国連機関の勧告に対する政府対応について

 橋下大阪市長が「慰安婦」制度を必要だったと発言したことは被害女性の尊厳と心情を著しく傷つけたばかりか、男性の尊厳をも侵害し、国内外に強い憤りを巻き起こした。しかし、安倍内閣は断固たる姿勢を示していない。これに対し、国連社会権規約委員会、同拷問禁止委員会が日本政府に対応を求める勧告を行っている。
1 国連拷問禁止委員会は、「政府当局者や公的な人物などによる事実を否定し、そのような反復的否定によって被害者に再び精神的外傷を与えるような動きには反駁すること」、「関連する資料を公開し、諸事実を徹底的に調査すること」等々と勧告している。
 政府は、これらの勧告を受け止め必要な措置を講ずるべきではないか。
2 橋下大阪市長は自らの発言の根拠は、第一次安倍内閣の二〇〇七年の閣議決定にあると公言しているが、この閣議決定は同時に「河野談話」の継承を明確に表明したものではないか。この重要な点について、安倍内閣がいまだに橋下大阪市長の誤った認識を解消しようとしないのはなぜか。
3 政府は、政府調査で収集した「太平洋戦争犠牲者遺族会など関係団体等が作成した元慰安婦の証言集」や、元従軍慰安婦、元軍人、元朝鮮総督府関係者、元慰安所経営者、慰安所付近の居住者、歴史研究家等に対する聞取り調査の記録を情報公開で不開示としているが、国連拷問禁止委員会勧告の「関連する資料の公開」への対応の一つとして、「河野談話」前に収集しこれまで公開されていないこれら文書の公開を検討すべきではないか。

三 戦争犯罪に関する政府見解について

 国際刑事裁判所(以下「ICC」という。)ローマ規程は、その管轄権を行使する対象犯罪を人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪等とし、個人に対する刑事訴追・処罰を目的とする常設国際刑事法廷を設立するため一九九八年に採択された。
 日本政府は、加入を閣議決定するまでにICCローマ規程採択から八年以上を費やしたが、二〇一〇年五月から六月に開催されたICCローマ規程検討会議において「侵略犯罪」の定義が確立された際、政府代表は「日本は東京裁判の経験を有する国として、ICCによる侵略犯罪についての管轄権の行使を重視する」と表明してコンセンサス形成に積極的に参加した。外務省は、「第二次大戦以降長らく議論されてきた侵略犯罪の法典化が達成されたことは歴史的意義を有する。」と評価している。
1 ICCローマ規程第八条(戦争犯罪)2(b)(ⅹⅹⅱ)に「強姦、性的な奴隷、強制売春、(中略)強いられた妊娠状態の継続、強制断種その他あらゆる形態の性的暴力であって、ジュネーヴ諸条約に対する重大な違反行為を構成するものを行うこと。」とあるが、「戦争犯罪」にこの定義が盛り込まれた意義について政府はどう認識しているか。
2 前記三の1の犯罪構成要件、「戦争犯罪」の定義に照らすならば、日本軍「慰安婦」は、軍によって居住、外出、性行為の拒否、廃業などの自由を剥奪された強制的性奴隷制そのものであり、「戦争犯罪」に該当することを政府は認識しているか。
3 国際社会が日本政府のICCへの今後の対応のみならず、過去の歴史的事実への対応にも注目していることを、政府はどう認識しているか。また、アジア諸国、オランダにまで存在する「慰安婦」被害女性への心からの謝罪と補償を行うべきと思料するが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。