質問主意書

第183回国会(常会)

質問主意書


質問第八六号

原子力艦による原子力災害への対策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十五年四月二十六日

井上 哲士   
田村 智子   


       参議院議長 平田 健二 殿



   原子力艦による原子力災害への対策に関する質問主意書

 原子力艦の原子力災害対策については、一九九九年九月の東海村JCO臨界事故以来、横須賀市などの要望を受け、国土庁長官(当時)が二〇〇〇年三月に国会で「地域防災計画を策定し得る根拠等を規定することについて検討する」旨答弁し、同年五月の中央防災会議が、関係自治体が原子力艦の原子力災害対策を策定できる根拠を明確にした。さらに二〇〇二年四月、国の防災基本計画の中に、原子力艦の原子力災害対策が新たに追加された。
 そして今回、二〇一一年三月の東京電力福島第一原子力発電所の事故(以下「福島原発事故」という。)を受け、政府は昨年九月六日、原子力艦の原子力災害対策を定めた防災基本計画を改定するとともに、九月十九日、原子力規制委員会を新たに発足させた。
 福島原発事故を受け、原子力艦の母港となっている横須賀の市民をはじめとする神奈川県民の原子力災害対策に対する不安も高まっており、同原発の過酷事故を踏まえた対策強化が求められている。
 以下、具体的に質問する。

一 防災基本計画の改定に伴う原子力安全委員会の活動の削除について

1 従前の防災基本計画では、「第十一編 原子力災害対策編」の「第四章 原子力艦の原子力災害」、「第一節 情報の収集・連絡及び活動体制の確立」の中で、原子力安全委員会の活動が、「五 原子力安全委員会の活動」として明記されていた。このように、原子力艦の原子力災害対策の中で原子力安全委員会の活動が位置付けられていたのはどのような理由によるのか。
2 今回の改定では、従前の計画にあった「原子力安全委員会の活動」の項が削除されている。その理由は何か。
3 従前の計画にあった「原子力安全委員会の活動」は、どの機構に引き継がれるのか。
4 従前の計画では、外務省が原子力艦の原子力災害に関する通報を受けた場合、官邸、原子力安全委員会、関係指定行政機関、関係地方公共団体に連絡するものとなっていたが、今回の改定では原子力規制委員会が連絡先から欠落している。この変更はいかなる理由によるものか。また、政府は原子力規制委員会に連絡しなくても、事故による放射線被曝から住民の安全を守るために専門的、技術的な対応をとることが十分可能であると考えるのか。政府の見解をその理由を含め、具体的に明らかにされたい。
5 従前の計画では、「五 原子力安全委員会の活動」として、「原子力安全委員会は、外務省より原子力艦の原子力災害の発生の通報を受けた場合、直ちに原子力安全委員会を開催するとともに、放射線計測、放射線防護等の専門家を招集するものとする。また、必要に応じて原子力安全委員会委員及び当該専門家を現地へ派遣するものとする。」と明記していた。今回の改定により、原子力艦の原子力災害に関わる通報があった場合、原子力規制委員会は委員会を開催することとなるのか、当該専門家を招集することとなるのか、必要に応じて現地へ委員等を派遣することとなるのか。それぞれについて、政府の見解を明らかにされたい。
6 従前の計画では、現地に派遣された原子力安全委員会委員及び専門家は現地対策本部等に対し、あるいは原子力安全委員会委員及び専門家からの調査報告又は意見を踏まえ原子力安全委員会が非常災害対策本部長等に対し、それぞれ応急対策についての技術的助言を行うとしていたが、今回の改定によると、原子力規制委員会はこれらの技術的助言を行わないということか。行わないとすれば、その理由は何か。また、原子力艦による原子力災害発生時に、対策本部や関係自治体に対する技術的助言は、誰からどのようにして行われるのか。技術的助言による対応の責任は、どこが負うのかも含めて明らかにされたい。
7 旧原子力安全委員会では、二〇〇二年六月二十四日に、原子力艦災害対策緊急技術助言組織が設置され、災害発生時における対応体制の中に位置付けられ、様々な技術助言を行うこととなったが、この助言組織は新たな原子力規制委員会の中では、どのような形で引き継がれたのか。引き継がれていないとすれば、その理由を明らかにされたい。
8 原子力規制委員会は「国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全(中略)に資することを目的」に設置され(原子力規制委員会設置法第一条)、所掌事務の中にも、放射線による障害の防止に関すること、放射能水準の把握のための監視及び測定に関することなどが含まれていることから(同法第四条)、原子力規制委員会は原子力艦の原子力災害対策についても、国民の安全を守る責務を負っていると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。また、同委員会の所掌事務には原子力艦による原子力災害への対策が含まれるのかにつき、明確にされたい。
9 現在、原子力規制委員会が改定作業を進めている原子力災害対策指針(改定原案)では、「第一 原子力災害(三)原子力災害の特殊性」において「原子力に関する専門的知識を有する機関の役割、当該機関による指示、助言等が極めて重要である」としている。原子力艦の原子力災害対策において、従前の計画にあった原子力安全委員会が受け持っていた活動、すなわち事故発生の通報を受けること、委員会の開催と専門家の招集、現地への委員等の派遣、現地対策本部、非常災害対策本部等への助言等を原子力規制委員会において復活させることが、原子力災害対策を前進させるうえで不可欠と考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

二 原子力災害対策指針を「参考」にすることについて

1 改定された防災基本計画では、「非常災害対策本部等は、原子力災害対策指針を参考に、関係地方公共団体が行う屋内退避又は避難のための立ち退きの勧告又は指示、安定ヨウ素剤の予防服用等の実施について、指導・助言するものとする」とある。
(1) 従前の防災基本計画では、この引用部分について、原子力災害対策指針を「参考に」ではなく、「踏まえ」となっていた。変更した理由を明らかにされたい。
(2) 原子力艦の事故が発生した際、非常災害対策本部等が「参考」とする原子力災害対策指針は、福島原発事故の実態を踏まえ、防災対策を重点的に充実すべき地域を拡大するなど、従前の原子力災害対策をより強化したものであるとすれば、これを「参考」とする以上、従前の原子力艦の原子力災害対策をより強化したものにしていくと考えてよいか。
2 原子力災害対策指針(改定原案)によれば、防災対策を重点的に充実すべき地域として、原子力施設から五キロ圏(予防的防護措置を準備する区域PAZ)、五キロから三十キロ圏(緊急時防護措置を準備する区域UPZ)、それ以遠(プルーム通過時の被ばくを避けるための防護措置を実施する地域PPA)に区分して、それぞれ原子力災害事前対策、緊急事態応急対策が定められている。
(1) 原子力艦、とくに原子力空母の場合、米国政府のファクトシートによれば、一定の商業用原子炉に匹敵する出力能力を有する原子炉を搭載していることは明らかである。また、原子力艦の原子炉の構造がいくら不明であろうと、事故後の放射性物質の放出のあらゆる状況に応じた対応策がとられなければならない以上、原子力災害対策指針を参考に、繋留地点から五キロ圏(PAZ)、三十キロ圏(UPZ)、それ以遠(PPA)の場合についてそれぞれ対策を定める必要があると思料するが、政府の見解を明らかにされたい。また、その計画の有無につき、あわせて示されたい。
(2) 横須賀港における原子力空母の繋留地から、五キロ圏(PAZ)、三十キロ圏(UPZ)、それ以遠(PPA)の現在の人口について、それぞれ明らかにされたい。
(3) 屋内退避、避難、避難場所の確保、ヨウ素剤事前配布といった対策は実現可能なのか。また、実際にどのような手段で避難することができると考えているのか。
(4) 避難計画が立てられていなくても、原子力艦の寄港や配備を継続することに安全上問題はないと考えるのか。政府の見解を示されたい。

三 二〇〇四年八月の原子力艦の原子力災害対策マニュアルについて

1 二〇一一年十二月八日に田村智子参議院議員が提出した「米原子力軍艦の横須賀配備に係る安全性に関する質問主意書」(第百七十九回国会質問第五五号)において、政府が進めている原子力災害対策の見直しの動きと整合性を図り、原子力艦の原子力災害対策マニュアルについても抜本的に見直すよう求めたのに対し、「東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故を踏まえた原子力安全規制の見直しの検討結果等を踏まえ、適切に対処してまいりたい」との答弁があった。現在、当該マニュアルの見直し作業は行われているのか。行われているとすれば、政府のどの機関によって行われているのか、原子力安全規制の見直しの検討結果等のどのような点を踏まえて作業が行われているかについてもあわせて明らかにされたい。
 また、マニュアルの見直しを行わないとすれば、その理由を明らかにされたい。さらに、現行マニュアルが作成された際には、原子力安全委員会のタスクフォースを立ち上げ、そこでの検討結果について原子力安全委員会が了承した経緯があったものと承知しているが、マニュアルの見直しが必要ないと判断しているとすれば、それはどの機関の判断によるものか。
2 現行マニュアルは、原子力空母による原子力災害が発生した場合、放出源情報等が十分に得られない状況下でコンクリート屋内退避又は避難を実施する範囲として半径一キロメートル以内、屋内退避を実施する範囲として半径一キロメートルと三キロメートルで囲まれる範囲などを応急対応範囲と定めている。
(1) これらの応急対応範囲を定めるにあたって、現行マニュアルは、「海外における原子力艦事故影響評価の事例、原子力船「むつ」の安全評価結果、我が国の軽水炉の安全評価で用いられている手法や各パラメータの値も参考にしつつ、十分な安全裕度を考慮して各パラメータの値を決定している」としている。参考値が福島原発事故を受けて見直されるとすれば、マニュアルにも当然反映させる必要があるのではないか。
(2) 現行マニュアルは、「想定事故として、『発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針』(平成二年八月原子力安全委員会決定、平成十三年三月一部改訂)でも選定されている通常の運転時に冷却材喪失事故が起き、それに伴って燃料損傷が発生するという事象を用いている」としている。この想定は、福島原発事故を受けて見直しの対象となっているのではないのか。
(3) 政府は過酷事故を想定したマニュアルの見直しの必要性について、どのように認識しているか。現行マニュアルは、前記のとおり応急対応範囲を定めているが、これは国の原子力災害対策指針の改定を踏まえ、当然見直されなければならないと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。あわせて、マニュアルをどのように見直し、緊急時活動レベル(EAL)をどのように設定するのかについても明らかにされたい。
(4) モニタリング体制については、今後どのように充実・強化を図っていくのか。
3 原子力艦の原子力災害発生時には、災害対策基本法、防災基本計画、地域防災計画等に基づき、国、地方公共団体等の関係機関が連携して災害対応を行うとされている。
(1) 福島原発事故による放射能汚染が広範囲に及んでいることや原子力災害対策指針の改定により「防災対策を重点的に充実すべき地域」が広がったことなどからみて、「関係地方公共団体」の範囲は従前より広がることとなると考えられるが、政府の見解を明らかにされたい。
(2) 神奈川県内について、「関係地方公共団体」とは、どの市町村のことであるか。また、原子力艦の原子力災害対策に係る地域防災計画の見直しに関して、国は多くの市町村を抱える神奈川県に具体的にどのような対応、支援を行ってきているか。
(3) 従来、原子力艦の原子力災害について地域防災計画を作成していない神奈川県内の地方自治体が原子力艦の原子力災害対策を明記した地域防災計画を新たに作成することについて、国はどう対応していくのか明らかにされたい。
4 外務省北米局長は本年四月十六日、横須賀市長と面会し、原子力艦からの放射能被害があった場合の避難基準について要請を受けるとともに、これに関連して一部報道によれば、外務省から「国と市で実務者会議を設けることが提案され」たとされる。
(1) 「実務者会議」を設ける提案が行われたのは事実であるか。
(2) 「実務者会議」の目的は何か。とりわけ、前記三の1のマニュアルの改訂を目的とした協議を行うのか、明確にされたい。
(3) 「実務者会議」には外務省のほかに、どの省庁・政府機関が参加することとなるか。

  右質問する。