質問主意書

第183回国会(常会)

質問主意書


質問第八三号

日本軍「慰安婦」問題の強制連行を示す文書に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十五年四月二十三日

紙 智子   


       参議院議長 平田 健二 殿



   日本軍「慰安婦」問題の強制連行を示す文書に関する質問主意書

 政府は、日本軍「慰安婦」問題に関し、一九九二年から二年に渡る調査を実施し、その結果を一九九三年八月四日に慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話(以下「河野官房長官談話」という。)として発表した。
 これに対し、第一次安倍内閣は、辻元清美衆議院議員が二〇〇七年三月八日に提出した「安倍首相の「慰安婦」問題への認識に関する質問主意書」に対して「慰安婦問題については、政府において、平成三年十二月から平成五年八月まで関係資料の調査及び関係者からの聞き取りを行い、これらを全体として判断した結果、同月四日の内閣官房長官談話のとおりとなったものである。また、同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである」との答弁書(内閣衆質一六六第一一〇号)を閣議決定したとしている。
 安倍首相は本年一月三十一日の衆議院本会議において、わが党の志位委員長の質問に対し、「いわゆる河野談話は、当時の河野官房長官によって表明されたものであり、総理である私からこれ以上申し上げることは差し控え、官房長官による対応が適当であると考えます」と答弁したが、その一方で、本年二月七日の衆議院予算委員会において前原誠司議員の質問に対し、「強制連行を示す証拠はなかったということです。つまり、人さらいのように、人の家に入っていってさらってきて、いわば慰安婦にしてしまったということは、それを示すものはなかったということを明らかにしたわけであります」と答弁している。
 安倍首相の河野官房長官談話に対する認識と立場があらためて問われる。よって、以下質問する。

一 政府の「慰安婦関係調査」は不十分な点も多く、関係省庁が保有する「慰安婦」関係文書、資料の全てが集められたものではない。政府は内閣官房外政審議室長から関係機関に対し、一九九六年七月二十四日、「いわゆる従軍慰安婦問題に関連する資料等について(依頼)」を通知し、河野官房長官談話発表後も資料収集を行っているが、歴史研究者や「強制動員真相究明ネットワーク」などの市民団体も国立公文書館等の資料調査に継続的に取り組んでいる。
 その中で、一九九九年度に法務省から国立公文書館に移管された東京裁判(極東国際軍事裁判)関係文書「A級極東国際軍事裁判記録(和文)(NO.一六)、(NO.五三)、(NO.五四)」の文書綴りに、軍や官憲が「慰安婦」被害女性を強制的に連行した証拠書類が残されていることが判明している。書証番号三五三の「桂林市民控訴 其ノ一」、書証番号一七二五の「訊問調書」、書証番号一七九四の「日本陸軍中尉ノ陳述書」である。
 ・ 書証番号三五三の文書には、中国桂林での事案として、「工場ノ設立ヲ宣伝シ四方ヨリ女工ヲ招致シ、麗澤門外ニ連レ行キ強迫シテ妓女トシテ獣ノ如キ軍隊ノ淫楽ニ供シタ。」との記述がある。
 ・ 書証番号一七二五の文書には、被害女性の証言として「私ヲ他ノ六人ノ婦人ヤ少女等ト一緒ニ連レテ収容所ノ外側ニアッタ警察署ヘ連レテ行ッタ。(中略)私等ヲ日本軍俘虜収容所事務所ヘ連レテ行キマシタ。此処デ私等ハ三人ノ日本人ニ引渡サレテ三台ノ私有自動車デ「マゲラン」ヘ輸送サレ、(中略)私達ハ再ビ日本人医師ニ依ッテ健康診断ヲ受ケマシタ。此囘ハ少女等モ含ンデ居マシタ。其処デ私達ハ日本人向キ娼楼ニ向ケラレルモノデアルト聞カサレマシタ。(中略)私ハ一憲兵将校ガ入ッテ来ルマデ反抗シマシタ。其憲兵ハ私達ハ日本人ヲ接待シナケレバナラナイ。何故カト云ヘバ若シ吾々ガ進ンデ応ジナイナラバ、居所ガ判ッテヰル吾々ノ夫ガ責任ヲ問ハレルト私ニ語リマシタ。」と記録されている。
 ・ 書証番号一七九四は日本陸軍中尉の宣誓陳述書であるが、次の一問一答が記録されている。
 問「或ル証人ハ貴方ガ婦女達ヲ強姦シソノ婦人達ハ兵営ヘ連レテ行カレ日本人達ノ用ニ供セラレタト言ヒマシタガソレハ本当デスカ」
 答「私ハ兵隊達ノ為ニ娼家ヲ一軒設ケ私自身モ之ヲ利用シマシタ」
 問「婦女達ハソノ娼家ニ行クコトヲ快諾シマシタカ」
 答「或者ハ快諾シ或ル者ハ快諾シマセンデシタ」
 問「幾人女ガソコニ居リマシタカ」
 答「六人デス」
 問「ソノ女達ノ中幾人ガ娼家ニ入ル様ニ強ヒラレマシタカ」
 答「五人デス」
 (中略)
 問「如何程ノ期間ソノ女達ハ娼家ニ入レラレテヰマシタカ」
 答「八ヶ月間デス」
 これらの文書には、軍の直接関与、「慰安婦」被害女性に対する強制、脅迫が具体的に記述されている。
1 政府は、これらの文書の存在を河野官房長官談話発表までに承知していたか。
2 河野官房長官談話の発表後も、政府は「慰安婦」問題の調査を継続しているが、今日まで政府はこれらの文書を内閣官房に保管しているか。
3 これらの文書は、安倍首相の答弁内容である「軍や官憲の強制連行」「人さらいのように、人の家に入っていってさらってきて、いわば慰安婦にしてしまったということ」を示す文書とみなせるのではないか。

二 河野官房長官談話は、直接作成に携わった石原信雄官房副長官の証言「通達とか指令とかいう文書的なもの、強制性を立証できるような物的証拠は見つけられなかったのですが、実際に慰安婦とされた人たち十六人のヒヤリングの結果は、どう考えても、これはつくり話じゃない、本人がその意思に反して慰安婦とされたことは間違いないということになって、河野談話にしたわけです」にあるように、仮に通達、通知が発見されなくても、「慰安婦」被害女性の直接の証言によって強制性を認定している。さらに数々の歴史的文書が「軍や官憲による強制」を示している。
 極東国際軍事裁判の評価は様々な立場があるとしても、提出された戦争犯罪の事実は重く受け止めなければならないと思料するが、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。