質問主意書

第183回国会(常会)

質問主意書


質問第二六号

一般用医薬品のネット販売に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十五年二月十三日

又市 征治   


       参議院議長 平田 健二 殿



   一般用医薬品のネット販売に関する質問主意書

 一月十一日の最高裁判決で、一般用医薬品のネット販売について現行薬事法にはネット販売禁止の規定がないことなどから、「一律に禁止する施行規則の規定は法の委任の範囲を逸脱し違法、無効」とされた。停止していた一般用医薬品のネット販売が、この判決のわずか数時間後、原告らによって再開され、現在明確なルールがないまま、野放し状態にある。
 ネット販売は、気軽に売買できる反面、成りすましによる購入、誤用や乱用、悪用の潜在的なリスクは決して低くない。また、売る側が必ずしも生命に関わる者に求められる倫理観を持っているとは限らず、薬事法を理解しないまま参入する業者がでてくる可能性がある。
 厚生労働省によると二〇〇七年度から二〇一一年度の五年間で、一般用医薬品(大衆薬)に関わる副作用報告数は約千二百件あり、その中にはショック症状や死亡例もあるとのことである。
 ネット販売が普及した国々では、偽造薬の販売が社会問題化した例もあり、「個別の人的対応が必要な医薬品と、一律大量のネット販売とは矛盾する」との見解も強くある。
 ネット販売を、薬事法が趣旨とする安全の範囲に収めるため、すでに非ネット販売で認められたルールに準じて、「対面販売の原則」のネット販売への応用方法や、販売者の資格等について、広く国民の合意を作り上げる必要がある。このための「検討会」においては、生産・販売・利用にわたる各層・グループの意見が反映され、合意されて新ルールとならなければ実効性がない。
 薬害被害者は、今回の判決により、第一類医薬品と第二類医薬品のネット販売で消費者のリスクが増したと危惧を示し、「成りすましが可能なことなど、もともとネットが持つ危うさを考えると、医薬品の販売はなじまない。本当にネット販売で薬剤師が関与しているのか、メールの問い合わせに対する回答を消費者が正しく理解できているのか、不明な部分が多い。」、「このまま全面解禁なら目先の利便性は高まるが安全性は損なわれる。とりわけ大手以外のネット薬局がきちんとした販売方法を取れるのか疑問だ。」と懸念を示している(全国薬害被害者団体連絡協議会)。
 判決に到るまでの混乱は、現行薬事法の曖昧さに一因がある。最高裁判決を受け、厚生労働省や医療従事者・医薬品販売者(ネット販売業者を含む)・消費者(薬害被害者を含む)が十分に協議し、医薬品使用のリスクを改めて認識し、薬事法の曖昧な部分を是正・整備する作業と合意が求められる。
 厚生労働省は二月十四日に検討会を発足させ、半年程度で成案を得て、今次国会(六月まで)に改正法案を提出するとし、はや十八人の委員を発表したが、その決定は拙速の謗りを免れず、新法案が各界の合意を得るためには、今後いっそう幅広い各層の意見を採り入れる努力が欠かせない。
 この点から、以下質問する。

一 離島等の経過措置の延長

 最高裁判決後は、ネット販売業者で新たに医薬品を扱う者が急増し、ネットによる医薬品の販売が既成事実化されると言われる。厚生労働省は従来、これを防ぐため、離島居住者や継続使用者などへの提供に限り、ネットによる医薬品の販売を経過措置(二〇一三年五月末まで)として認めている。この経過措置を、新たなルールが示されるまで、延長するべきではないか。

二 検討会の人選に関する厚生労働大臣の方針

 田村厚生労働大臣は一月十一日、最高裁判決当日の談話で「(医薬品の使用は)一方で副作用の発生のリスクを伴うものであり、国民の健康・生命に関わる」、「今後、関係事業者などの関係者に広く御参画をいただき、法令などの郵便等販売に関する新たなルールを早急に検討する」と述べ、また一月十五日の大臣記者会見でも、「引き続き薬というものの危険性といいますか、適切な使用というものを皆さんに訴えをしていかなければならない」、「検討会を作って、参加いただく方の人選も含めて、これから色々と御意見をいただきながらやっていこう」と検討会の人選も、開かれたものとすることを強調している。
1 右検討会メンバーは二月一日に発表された。しかし前述の大臣の言葉に反し、この人々の選考過程や理由が全く説明されていない。「人選も含めて(中略)御意見をいただき」との発言を踏まえ、どのような「御意見」を聴いたのか、明らかにされたい。
2 右関係者のうち、販売者に限れば、薬局、店舗、配置、コンビニ、スーパー、そしてネット業者などがある。これら異なる各グループの意見が、発表された十八人のメンバーにより網羅されると考えているか、政府の見解を明らかにされたい。
3 ネットによる販売では、現在医薬品販売を行っている業者以外が今後、医薬品販売に参入することが想定される。その把握は今までどのように行っているか。また、今後参入が見込まれる業者等に対して検討会参加を呼びかけたのか。
4 医薬品の関連団体や有識者のうち、今回委員としなかった団体・個人からも広く意見を聴くため委員に追加し、または検討会の初期の時点で意見聴取の場を設けるべきではないか。

三 対面販売の原則の法定化

1 厚生科学審議会医薬品販売制度改正検討部会報告書(二〇〇五年十二月十五日)には、以下のように、医薬品の販売は対面販売の原則とすべきと提言している。対面販売の原則、「医薬品の販売時においては、販売者側からその医薬品に関する「適切な情報提供」が行われ、購入者に十分に理解してもらうことが重要である。また同時に、購入者の疑問や要望を受けた場合に「適切な相談応需」が行われることが必要である。」、「こうした「適切な情報提供」及び「適切な相談応需」が行われるためには、薬剤師等の専門家の関与を前提として、専門家において購入者側の状態を的確に把握できること、及び購入者と専門家の間で円滑な意思疎通が行われることが必要である。」、「これらが確実に行われることを担保するには、購入者と専門家がその場で直接やりとりを行うことができる「対面販売」が必要であり、これを医薬品販売に当たっての原則とすべきである。」
 また近くは、「医薬品の安全で円滑な提供方法を考える有識者会議報告書」(二〇一二年三月三十一日)では、「ネットによる販売も含めて、医薬品の郵送等販売を認められるとすれば、それが許容されるルール作りを明確化させる必要があり、薬事法の専門家による『対面販売の原則』を決して崩してはならない」とされている。「対面販売の原則」はこれ自体正しいものと考えるが、いかがか。
2 しかし法に明定されていないため、今回、省令による規制では違法だとの司法判断が確定した。そこで、いま改めて薬事法の本体に、一般用医薬品販売の共通ルールとして、「毎回必ず、専門家が関与する」旨の「対面販売の原則」を明文化すべきではないか。

四 「情報提供」規定の実効性

 医薬品は情報とともに流通しないと危険な商品である。しかし販売側は極力省力化を図っており、実際に店舗ではレジに持っていくだけで一般用医薬品が購入できる。他方、配置販売では、新法の配置販売業で、情報提供でない配置は許されると解釈して、専門家(薬剤師または登録販売者)でない配置員が単独で医薬品を配置販売しているほか、既存配置販売業で、専門家でない配置員が医薬品の配置販売をしている現状がある。
 日本医師会が「一般用医薬品のインターネット等販売規制の緩和」に対する見解として二〇一一年二月十六日の定例記者会見において、「薬剤師が責任をもって情報提供するとともに、必要に応じて医師への受診勧奨をすべきである。」と述べたのは妥当だと考える(ここでの「薬剤師」は法律上、登録販売者を含む専門家と解される)。
 しかし前述のように店舗や配置での販売においてすら、専門家の存在が希薄な現状なのに、より対面性のないネット販売において、薬剤師(専門家)が「情報提供し、医師への受診を勧奨する」ことが可能であり、また、遵守されうると考えるか、政府の見解を明らかにされたい。

五 ネット販売における専門家の関与規定

 ネット販売であっても、専門家が毎回、販売に携わる制度を確立させなければならない。このための専門家の関与の規定を、ネット販売についてどのように適用するのか。またその上で、医薬品の使用方法や副作用の説明方法など、ネット販売の在り方を具体的に定め、業者に義務付けるべきではないか。

六 消費者庁との連携

 ネット販売(購入、会員制などを含む)が盛んになったのは医薬品に限らず、現在では、あらゆる商品に共通の現象である。しかし、医薬品には健康・生命の危険性など、他の商品と大きく異なるリスクがある。したがって、医薬品のネット販売のルール作りについて厚生労働省は、消費者庁と連携して取り組むことが必要ではないか。

七 ネット販売の許認可の地域的範囲

 一般用医薬品販売においては、店舗販売は保健所の、また配置販売は販売エリアが広いため都道府県知事の許可が必要であるとされている。
 ところが、ネット販売はさらに都道府県の境を越え、果ては海外へ繋がる広い範囲(地域)にわたる。このため店舗販売の許可に加え、二次的に販売上の新たな許認可制をとる必要があるのではないか。

八 ネット販売の認証制

 販売する商品にかかわらずネット販売は、店舗が不要である点などから、消費者からみて定着性・信用性に不安がある。特にその扱う商品が健康・生命に関わる医薬品である場合は、消費者の不安を解消する格別の手法が求められる。
 このため、第三者機関による認証制度を導入し、これによりルールを守れない業者には医薬品のネット販売ができないこととすべきではないか。

  右質問する。