質問主意書

第181回国会(臨時会)

質問主意書


質問第二八号

法曹養成制度に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十四年十一月六日

長谷川 岳   


       参議院議長 平田 健二 殿



   法曹養成制度に関する質問主意書

 先の通常国会において、司法修習費用に関する「裁判所法の一部を改正する法律案」(内閣提出)が、三党合意に基づき全面的に修正された上で成立した。同法案審議の過程においては、「法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律」の一部を改正する規定を同法案に盛り込むなど、司法修習を含む法曹養成制度全体に関わる重要な修正がなされた。すなわち、「学識経験を有する者等により構成される合議制の組織の意見等を踏まえつつ、一年以内に法曹養成制度について検討を加えて一定の結論を得た上、速やかに必要な措置を行う」、「法曹養成制度の検討においては、司法修習生に対する適切な経済的支援を行う観点から、法曹の養成における司法修習生の修習の位置付けを踏まえつつ、検討が行われるべきである」との内容である。
 また、衆議院法務委員会における同法案の採決に際しては、右記「合議制の組織」における検討に当たっての注意事項を盛り込んだ附帯決議が付されている。すなわち、国会は「我が国の司法を支える法曹の使命の重要性や公共性に鑑み、高度の専門的能力と職業倫理を備えた法曹を養成するために、法曹に多様かつ有意な人材を確保するという観点から、法曹を目指す者の経済的・時間的な負担を十分考慮し、経済的な事情によって法曹への道を断念する事態を招くことがないようにすること」及び「司法修習生に対する経済的支援については、司法修習生の修習専念義務の在り方等多様な観点から検討し、必要に応じて適切な措置を講じること」についての「特段の配慮」を求めたのである。
 右記のような立法過程における国会の意思は、昨年五月に設置された「法曹の養成に関するフォーラム」(以下「フォーラム」という。)が、司法修習生の修習費用について貸与制移行を是とする取りまとめをした背景にある立法事実への疑念からスタートしている。
 私の議員事務所には、ビギナーズ・ネットのメンバーが熱心に陳情に訪れる。ビギナーズ・ネットは、司法修習生の給費制を存続・復活するために活動している大学生、ロースクール生、ロースクール修了生、司法修習生、若手法律家からなる団体である。彼ら、彼女らは、貸与制の下で司法修習をしている新六十五期司法修習生の置かれている不安定な経済的状況により司法修習が充実したものにならないおそれがあること、そのような不十分な司法修習により国家統治機構の柱の一つである司法制度が国民の信頼に足るものにならなくなるおそれがあること、法曹を目指そうとする大学生及び法科大学院生が減っていること、などを訴えている。
 ビギナーズ・ネットの若者の主張を聞いていると、昨年、貸与制移行を是としたフォーラムの取りまとめが杜撰であったのではないか、貸与制移行の背景となる立法事実はもはや存在しないのではないかと思われる。
 そこで、以下、法曹養成制度について質問する。

一 昨年、フォーラムは、わずか六時間三十分程度の議論により、昭和二十二年から脈々と続いてきた給費制を廃止し、貸与制に移行するとの取りまとめを行った。このような不十分な議論により、取りまとめが行われたことについて、政府の認識を明らかにされたい。

二 フォーラムが依拠した立法事実については、「司法修習終了者等の経済的な状況に関する調査」なるアンケートの集計結果において、弁護士は登録五年目に年収二千万円になるというものが挙げられる。しかしながら、同アンケートの回収率はわずか十三・四パーセントであった。政府はこの回収率について、多いと考えるか、少ないと考えるか。また、この程度の回収率によるアンケート結果に基づいた立法事実について、現在も、貸与制という「タダ働き」を正当化する有効な理由であると考えるのか。それぞれ政府の認識を明らかにされたい。

三 フォーラムでの検討過程においては、当事者である司法修習生や法科大学院生、大学生、若手法曹の意見も、国民の声も聞かず、傍聴さえも許さなかった。このような手続で、当事者や国民に納得してもらったと考えるのか。政府の認識を明らかにされたい。

四 政府はフォーラムの取りまとめに基づいて貸与制を実施したが、貸与制導入の際に想定していなかった事象が発生していると思われる。
 すなわち、①給費を受けられないことを理由とする司法修習断念者の発生、②法曹志願者の激減、③格差の司法制度への浸食及びそれに伴う国民の不利益、④貸与制のもとで修習をする者の身分的・経済的不安定等という事象が発生していると考えるが、政府はこれらの事象を正確に認識しているか。
 認識しているとすれば、右記①~④につき、それぞれどのようなデータに基づき、どのような認識を持っているか。
 これらの従来想定していなかった事象の発生を受けて、フォーラムの取りまとめが依拠した立法事実が仮にあったとしても、それに対する重大な「事情変更」があったと理解することができないか。

五 「司法修習生に対する適切な経済的支援」について「特段の配慮」を求めた附帯決議について、政府はどのような意思表明であると理解しているか。
 また、政府は、法曹養成制度検討会議に対して、どのように「特段の配慮」をさせるのか。
 「特段の配慮」がなされない場合、国会の意思を無視することになるが、その理由は何か。

  右質問する。