質問主意書

第180回国会(常会)

答弁書


答弁書第二〇一号

内閣参質一八〇第二〇一号
  平成二十四年七月三十一日
内閣総理大臣 野田 佳彦   


       参議院議長 平田 健二 殿

参議院議員佐藤正久君提出シリアの治安情勢に関する第三回質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員佐藤正久君提出シリアの治安情勢に関する第三回質問に対する答弁書

一について

 「内戦」については、国際法上その具体的な意味について確立された定義があるとは承知しておらず、国際社会における個々の紛争がこれに該当するかどうかについて判断することは困難である。これまで政府が国会答弁等において、御指摘のレバノン共和国やカンボジア王国の状況を含め、国際社会における紛争について「内戦」と表現した場合は存在するが、この場合の「内戦」の用語は、一国の領域内において統治権力の獲得等をめぐって行われる実力を用いた争いという一般的な意味で用いたものである。

二について

 シリア・アラブ共和国(以下「シリア」という。)においては、十六か月にわたり弾圧と暴力が続き、ダマスカスを含む各地において連日多数の死傷者が発生しており、平成二十四年七月十八日には、ダマスカスにおいて、ダーウード・ラージハ国防相を含む複数の政府高官が爆弾により死亡するなど、シリアの治安状況は、極めて深刻な状況にあると認識している。こうした状況を踏まえ、政府としては、アサド政権の現状や反政府勢力の動向は予断を許さない状況にあると考えており、引き続き、今後のシリアの情勢を注視していくこととしている。

三について

 最近のダマスカスの治安状況が、国際連合兵力引き離し監視隊(以下「UNDOF」という。)の活動に対する直接的な脅威となっているとは認識していないが、UNDOFは、二についてで述べたダマスカスを含む各地の治安状況等に鑑み、シリア等の情勢に関する情報収集等を強化し、要員の安全に十分配慮して活動を実施していると承知している。その一環として、UNDOFの司令官が本年六月下旬に指図の内容を変更したため、UNDOFの活動に必要な日常生活物資等の輸送を行っているUNDOFに派遣されている自衛隊部隊(以下「UNDOF派遣部隊」という。)は、現時点でダマスカスとUNDOFの宿営地との間の輸送を行っていない。

四について

 現在、UNDOF派遣部隊は、イスラエル国国内においてUNDOFの活動に必要な日常生活物資等の輸送を行っているが、レバノン共和国国内においては業務を行っていない。
 お尋ねの「シリア国内での国連業務」の意味するところが必ずしも明らかではないが、UNDOF派遣部隊は、現在、シリア国内においては、キャンプ・ファウアール以外でも、昭和四十九年(千九百七十四年)五月にイスラエル国とシリアとの間で締結された兵力引き離し協定に規定する兵力引き離し地帯及び兵力制限地帯内で、UNDOFの活動に必要な日常生活物資等の輸送及び道路等の補修等の業務を行っている。

五について

 お尋ねの地域の治安状況については、二についてで述べたダマスカスを含む各地の治安状況の影響はあるものの、おおむね落ち着いているものと認識している。「他の勢力がゴラン高原に流入してはいないか」との御指摘については、「他の勢力」が具体的に意味するところが必ずしも明らかではなく、一概にお答えすることは困難である。

六について

 UNDOF派遣部隊がイスラエル国及びシリアのいずれの国内において業務を行っているかにかかわらず、UNDOFは、ゴラン高原地域における両国間の停戦監視及び両国の軍隊の兵力引き離し等に関する合意の履行状況の監視を行っており、現時点においても、イスラエル国及びシリアのいずれの紛争当事者にも偏ることなく実施されており、問題はないものと考えている。

七について

 シリアにおける在留邦人数は、報道関係者等の短期渡航者を除くと、平成二十四年七月十九日現在で、UNDOFの要員十五人を含め、三十七人であると承知している。政府としては、当該在留邦人の安全確保のため、在ヨルダン日本国大使館内にある在シリア日本国大使館臨時事務所を通じて当該在留邦人と緊密に連絡を取り、その安全確認を行うとともに、シリアの治安状況に関する情報提供を行ってきている。また、当該在留邦人のうちUNDOFの要員等の国際機関職員を除く者に対しては、国外への退避を繰り返し勧告しているところである。
 在シリア日本国大使館を一時閉館した平成二十四年三月二十一日以降、国外に退避した在留邦人数は同年七月十九日現在で、十七人であると承知している。

八について

 我が国を含む国際社会は、これまでシリアにおける全ての暴力を断固として非難し、暴力の行使を即時停止するよう強く働きかけを行ってきているにもかかわらず、シリアにおいては、十六か月以上にわたり弾圧と暴力が続いている。国際連合安全保障理事会(以下「安保理」という。)において御指摘の決議案が否決され、このような非人道的な状況に対して、安保理が効果的な対応を決定できなかったことは、極めて遺憾である。バッシャール・アサド大統領については、同大統領が適切に国を統治することは困難であると考えていることから、平成二十三年八月十九日に「道を譲るべきものと考えます。」との外務大臣談話を公表したところである。このような我が国の立場については、ロシア連邦(以下「ロシア」という。)及び中華人民共和国(以下「中国」という。)にも伝えてきている。政府としては、ジュネーブにおいて平成二十四年六月三十日に開催されたシリア情勢に関する国際会議においてロシア及び中国を含む参加国が合意した共同声明に基づき、シリア人の主導による政権の移行が進むよう、引き続き国際連合を含む国際社会と連携しつつ、シリア情勢の改善に向けて取り組んでいく考えである。