質問主意書

第180回国会(常会)

質問主意書


質問第二四八号

高レベル放射性廃棄物の地層処分の見直しに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十四年九月五日

紙 智子   


       参議院議長 平田 健二 殿



   高レベル放射性廃棄物の地層処分の見直しに関する質問主意書

 原子力発電(以下「原発」という。)は核分裂生成物として「核のゴミ」(プルトニウム、その他の放射性核種)、使用済み核燃料を排出する。我が国の原発が排出してきた使用済み核燃料は、二〇〇九年度までに約二万二千九百トンにのぼり、これらは再処理され、「核のゴミ」である核分裂生成物は高レベル放射性廃棄物として「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」(二〇〇〇年五月成立。以下「地層処分法」という。)に基づき、国土の深さ三百メートル~千メートルに埋設するとしている。
 政府の目指す地層処分とは、「人工バリア」と「天然バリア」からなる「多重バリアシステム」を構築して、これによって廃棄物からの放射能を何十万年という長期にわたり人間の生活環境から安全に隔離するというもので、その実施に向けて、独立行政法人日本原子力研究開発機構(以下「原子力機構」という。)は岐阜県の東濃地科学センター、北海道幌延町の深地層研究センターで各種研究をすすめている。
 しかしながら、地震国日本の地層処分については、原子力機構の前身である動力炉・核燃料開発事業団及び核燃料サイクル開発機構(以下「核燃」という。)が行った技術検討に対し、既に学識経験者が根本的な批判を行っている上、地層処分法案の審議においても日本共産党、社民党などが重大な危険性を指摘し、いくつもの疑問を提示した。
 政府はこれらに正面から答えることなく、自民、民主、公明などの賛成多数で地層処分法案を可決・成立させ、地層処分研究に固執してきた。しかし、東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故を経て、原発にまつわる数々の「安全神話」が事故の最大の原因だったことが明らかな今日、地震国日本での地層処分についてもあらゆる「安全神話」を排し、根本から見直す必要がある。
 よって、以下、質問する。

一 我が国の地震発生に関する政府の基本認識について

 地層処分法は、核燃作成の「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性-地層処分研究開発第2次取りまとめ-」(一九九九年十一月。以下「第2次取りまとめ」という。)に基づいているが、地震についての認識は、「わが国における主な地震・断層活動は、既存の活断層帯において、過去数十万年程度にわたり同様の活動様式で繰り返し起こっている」、「わが国においては、活断層の存在しない地域においては、将来十万年の間に新たな活断層が生じる可能性は小さい」というもので、当時から地震学者が「新たな安全神話をつくるもの」(藤井陽一郎茨城大学名誉教授)と厳しい批判を寄せていたものである。
1 地層処分法案審議の際、地震発生を活断層に限定する第2次取りまとめの見解に疑問を呈した我が党議員の質問に対し、政府は第2次取りまとめの内容を繰り返し、明確な答弁を回避する態度に終始した。
 しかしながら、二〇〇〇年鳥取県西部、二〇〇四年新潟県中越、二〇〇五年福岡県西方沖、二〇〇七年能登半島、二〇〇七年新潟県中越沖、二〇〇八年岩手・宮城内陸の六つの内陸・沿岸域の地震のうち、能登半島地震以外の五地震は活断層の地表分布が認められていなかった場所を震源域として発生している(杉山雄一「この十年の内陸・沿岸域地震を通して見た活断層調査の現状と課題」日本地震工学会誌二〇一一年七月)。こうした現実の地震発生状況は第2次取りまとめの論拠を覆すものではないか。政府の見解を示されたい。
2 前記の地震発生状況から、杉山雄一氏(産業技術総合研究所活断層・地震研究センター)は、「地質学的な調査結果に基づき推定されている地震の頻度は、少なくとも一部の活断層・地域では過小評価の可能性があることがわかってきた」と指摘し、「現在の活断層調査においてももっとも対応が難しいケース」など、活断層調査では被害地震を起こす可能性のある断層の把握が難しい事例があることを認めている。
 第2次取りまとめは「過去から現在までの断層活動の規則性や地域性などを見出すことにより、将来の活動性や、それらが及ぼす影響の範囲を推定することは可能である」としているが、これは不可能なのではないか。政府の見解を示されたい。
3 気象庁は、同庁ホームページ上に地震についての解説を掲載しており、「日本で地震が発生しないところはありません。ある場所で過去に大きな地震が発生していたとしても、地表に痕跡(活断層など)が残らないことがあります。このため「この場所は大きな地震が絶対ありません」と言えるところはありません」と説明している。
 この説明は活断層の有無によらない大地震発生の可能性を述べたものだが、第2次取りまとめは気象庁の同認識と異なり、地震発生の現実的可能性を著しく狭めているのではないか。また、あらかじめ地震を避けて地層処分地の「適地」を選定することは不可能ではないか。政府の見解を示されたい。
4 雑誌『科学』掲載の論文「高レベル放射性廃棄物の地層処分はできるかⅠ 変動帯日本の本質」(藤村陽、石橋克彦、高木仁三郎、雑誌『科学』二〇〇〇年十二月号。以下「前記論文」という。)は、「「第2次取りまとめ」は「地震=地表でみえる活断層の活動だけ」という認識で、地震に関してはほとんど活断層だけを検討し、現在知られている活断層を避ければ安全で、そういう場所は広く存在すると主張している。(中略)だがこれは真実ではない」として、「地表すれすれまでズレ破壊するM7クラスの大地震でも、明瞭な地表地震断層が出現しないものがある。そのような大地震が繰り返し発生しても、活断層として認識できる断層は現れない。したがって、活断層が認められない場所でも大地震がおこることがあり、顕著な地表地震断層が出現することさえある」、「このことは地震学では常識といってよい」としている。このように地層処分法成立後も学識経験者から更なる批判が出されている。
 我が国の地震発生の可能性を過小評価して地層処分研究や制度設計をすすめることは、将来的に致命的な危険性を持つものであり、学識経験者の批判や東日本大震災の教訓に学んで、第2次取りまとめの見解を根本から見直すべきではないか。政府の見解を示されたい。

二 大地震が及ぼす地層処分への影響に関する政府の認識について

 地震の地層処分への影響について、第2次取りまとめは「地震の揺れによる影響については、地表の施設と比較しても影響を受けにくく、工学的な対処が可能」、「地震により生じる地質環境の変化の影響については、地層処分の安全性に大きな影響を与えるものではない」などとしているが、前記論文は「検討はきわめて不十分で誤っている」、「地震の影響のうち、(中略)広範囲におよぶ岩盤の変形と応力の変化についてはふれていない」との評価を下している。
1 前記論文では、地震動の影響について、地下の揺れは同じ地点の地表と比べ一般論としては揺れが弱いが、大地震が近くで起こればかなり強い地震動を受けるのは確実と指摘し、「M8級の巨大地震であれば、百~二百キロメートル遠方で発生しても影響することがありうる」、「一般に大地震の震源断層面近傍では、かなり広い範囲で無数の余震や誘発地震が発生する。処分場から五十キロメートルくらい離れた場所の地下でM7級の地震のズレ破壊が開始した場合でも、震源断層面の広がり具合によって処分場直近で地震が続発し、地下環境を変えることがあると考えられる」としている。
 第2次取りまとめは、こうした「広範囲におよぶ岩盤の変形と応力の変化」を勘案した上での影響評価か。政府に「広範囲におよぶ岩盤の変形と応力の変化」の認識はあるか。
2 第2次取りまとめを解説した経済産業省ホームページの高レベル放射性廃棄物Q&Aにおける「地震による地層処分への影響はどうなっているのでしょうか」という項目(以下「Q&A」という。)では、「処分施設の地下部分は、地表施設より地震の揺れによる影響を受けにくく、想定される最大級の地震を考慮しても、工学的な対策を施すことは可能」としているが、「最大級の地震」とはどのレベルのいつの地震か。また、東日本大震災級の地震を考慮したのか。併せて、論拠となっている研究成果を示されたい。
3 Q&Aでは「過去に起こった大地震と地下水の関係に関する研究等から、地震の揺れによる地下深部の地質環境への影響は小さく、地層処分の安全性に大きな影響を与えるものではない」としているが、検討した大地震は具体的に何か。また、「影響は小さい」という評価の根拠となった研究成果を示されたい。
 さらに、このQ&Aの記述は前記論文が指摘した「広範囲におよぶ岩盤の変形と応力の変化」を勘案したのか。勘案しないのであれば、「影響は小さい」と結論づけることはできないのではないか。政府の見解を示されたい。
4 前記論文は、「今後十万年程度の超長期を考えれば、日本列島のほとんどの地点が、1のような影響を程度の違いはあっても何回も被ると予想される」、「一度で急激な放射能漏出がおこることはないにしても、地震の影響を受けるごとに多重バリアシステムの性能が徐々に変化することは十分に考えられる」、「仮に現在、日本列島で最良の地下環境特性の地点で選べたとしても、その特性は、何万年かの間には悪いほうに変化すると考えるべき」とし、「少なくとも百~二百年間の観測・調査を続けなければならない」としている。
 こうした長期にわたる観測・調査の必要性について、政府はどのように認識しているか。
5 前記論文は、第2次取りまとめについて「地震・断層活動の記録が残されている地質や地形を対象に調査するという立場に立っていて、地震現象を皮相的・静的に狭い範囲でしか見ていない。この点が地質環境の長期安定性の検討に関する致命的欠陥であり、「第2次取りまとめ」を拠り所にして真に適切な処分地を選定することは不可能である」、「基本姿勢は、どんな最悪の事態がおこりうるのかの徹底的な検討をおざなりにしている」と批判している。政府が想定する最悪の事態は何か。また、多重バリアシステムが機能しない事態を想定しているか。さらに、東日本大震災を経て、地震の地層処分への影響をすべて見直すべきではないか。政府の見解を示されたい。

  右質問する。