質問主意書

第180回国会(常会)

質問主意書


質問第二一一号

今国会成立の著作権法の一部を改正する法律における違法ダウンロード刑事罰化に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十四年八月二日

森 ゆうこ   
はた ともこ   


       参議院議長 平田 健二 殿



   今国会成立の著作権法の一部を改正する法律における違法ダウンロード刑事罰化に関する質問主意書

 今国会で内閣が提出した「著作権法の一部を改正する法律案」について、衆議院文部科学委員会で自由民主党と公明党の議員から所謂「違法ダウンロードの刑事罰化」(以下「本法律修正部分」という。)を含む修正案が提出され、同法案は修正議決の後、六月二十日に参議院で可決、成立した。
 本質問主意書の提出者・参議院議員森ゆうこは、今回の「著作権法の一部を改正する法律案」の内閣提出部分について、文部科学副大臣(当時)として法案の立法作業を行った者であるが、議員提出の本法律修正部分については強く反対し、六月二十日の参議院本会議では法案に反対した。
 本質問主意書の提出者・参議院議員はたともこは、本法律修正部分については強い危惧を持ちつつも、民主党参議院国会対策副委員長(文教科学委員会担当)(当時)として党議決定に従い、本会議において賛成した。
 私たちは本法律修正部分について、その正当性、背景となる立法事実、日本国憲法に定められた罪刑法定主義のほか、可罰的違法性、青少年への重大な悪影響、国会審議の形骸化、業界団体の利益に偏った議論、立法過程のデュープロセスの軽視等、重大な数々の疑問を持っている。
 よって、本法律修正部分について、一般社団法人インターネットユーザー協会、文筆家・音楽制作者高橋健太郎氏、情報学者・国際日本文化研究センター教授山田奨治氏の協力を得て協議し、それを踏まえて、ここに質問主意書を提出することとした。
 本法律修正部分については、参議院文教科学委員会での附帯決議にあるように、「著作権法の運用に当たっては、犯罪構成要件に該当しない者が不当な不利益を被らないようにすることが肝要であり、とりわけ第百十九条第三項の規定の運用に当たっては、警察の捜査権の濫用やインターネットを利用した行為の不当な制限につながらないよう配慮すること」が、政府及び関係者には求められている。
 私たちは、今回の質問主意書提出を機に、政府及び関係者に対し、参議院での附帯決議の趣旨を実現することを強く求めるとともに、今後とも施行状況等を勘案して、検討を加え、必要な見直しを行うよう引き続き努力していく決意である。
 本質問主意書は小・中・高生など未成年の青少年にとっても重大な内容となるものであるから、項目ごとにできるだけ分かりやすく、具体的にかつ平易な文章で答弁されたい。

一 参議院文教科学委員会での附帯決議について

 参議院文教科学委員会では、本法律修正部分に関し、以下の三点について、政府及び関係者に特段の配慮を求める附帯決議が行われた。
1 「違法なインターネット配信等による音楽・映像を違法と知りながら録音・録画することの防止の重要性に対する理解を深めるための啓発等の措置を講ずるに当たって、国及び地方公共団体は、有償著作物等を公衆に提供し、又は提示する事業者と連携協力を図り、より効果的な方法により啓発等を進めること。」
 この附帯決議について、政府はどのような目標を持って、具体的にどのような措置をいつまでに行う方針か、明らかにされたい。
2 「有償著作物等を公衆に提供し、又は提示する事業者は、インターネット利用者が違法なインターネット配信等から音楽・映像を違法と知りながら録音・録画することを防止するための措置を講ずるように努めること。」
 この附帯決議について、政府は関係者に対し、どのように対処する方針か、具体的かつ詳細に明らかにされたい。
3 「著作権法の運用に当たっては、犯罪構成要件に該当しない者が不当な不利益を被らないようにすることが肝要であり、とりわけ第百十九条第三項の規定の運用に当たっては、警察の捜査権の濫用やインターネットを利用した行為の不当な制限につながらないよう配慮すること。」
 この附帯決議に対して、政府はどのような措置を行う方針か、具体的かつ詳細に示されたい。

二 文化庁の改正法Q&Aについて

1 文化庁のホームページに掲載されている「平成二十四年通常国会著作権法改正等について」中の「改正法Q&A」問七-二~問七-八では、犯罪構成要件に該当するかどうかの判断基準例が示されているが、実際の運用において、条文を恣意的に判断し、当該Q&Aに示した見解と齟齬をきたすことはないか。警察庁や検察庁も含め、政府の統一見解を示されたい。
2 特に、改正法Q&A問七-八において、「関係者である権利者団体は、仮に告訴を行うのであれば、事前に然るべき警告を行うなどの配慮が求められると考えられます」と文化庁は回答している。
 この回答内容の実効性はどのように担保されるのか。政府としての見解を示されたい。

三 本法律修正部分の立法経緯と運用等について

1 本年六月十九日の参議院文教科学委員会において、神本美恵子文部科学大臣政務官は、平成二十一年著作権法改正で違法ダウンロードが刑事罰化されなかった理由について「一つは、個々人の違法ダウンロード自体は軽微であること、二つ目に、家庭内で行われる行為についての規制の実効性の確保が困難であることなどから、刑事罰の対象とされなかった」と答弁した。
 ①「個々人の違法ダウンロード自体は軽微である」とは、具体的にどの程度までの数量のダウンロード行為を言っているのか。軽微と判断できる一人あたりのダウンロードの数量を示されたい。また、②三年後の現在、一人あたりの違法ダウンロードの数量に変化はあるか、政府の把握するところを示されたい。さらに、③「家庭内で行われる行為についての規制の実効性の確保が困難である」とはどういうことか、具体的かつ詳細に示されたい。加えて、④三年後の現在、その「困難である」との状況に変化はあるか、政府の把握するところを示されたい。最後に、⑤前述の二つの理由以外に、刑事罰化されなかった理由があれば、具体的に示されたい。以上五点について政府の見解を求める。
2 ①無料放送番組、広告付きあるいはプロモーション用などで無料配布されている音楽・映像は、今回の改正法上の有償著作物とされるのか。また、②当初は有償でなくとも、後のCD販売に合わせて同じコンテンツが有償で提供されるように変化した場合、その後は有償著作物に変化すると解釈するのか。③有償著作物に変化するなら、無償の時点で違法アップロードされた著作物のダウンロードは、どの時点から刑事罰対象に変化するのか。④有償となった後に違法アップロードされた著作物のみが、刑事罰を負う違法ダウンロードの対象となるのか。以上四点について政府の見解を求める。
3 ①有償で公衆に提供・提示されていたとしても、現在にあっては、有償での入手あるいは聴取の方法がない場合(例えば古いレコードなど)は、今回の改正法上の有償著作物とされるのか。②対象とされる場合、過去の文化遺産である音源を研究等のために入手する手段もなくなってしまうが、それは文化研究や文化振興上、好ましいと言えるか。以上二点について、政府の見解を求める。
4 著作物のダウンロードに際し、違法・合法を区別することが法律のプロでも困難である場合が存在する。①違法・合法を明確に区別することがほぼあらゆる者にとって実質不可能な中で、私的違法ダウンロード行為を処罰化することに罪刑法定主義上の問題はないのか。②刑罰法規に求められる明確性の原則は担保されているのか。以上二点について政府の見解を求める。
5 前記1の参議院文教科学委員会において、水落敏栄委員の「警告なく処罰されるのではないか」、「事前の警告もなくすぐに処罰するというのは問題ではないか」という懸念の質問に対して、修正案提出者である河村建夫衆議院議員は「親告罪でもございますから、権利者団体は告訴を行うに当たってはやっぱり事前に御指摘のようなしかるべき警告を発するということは、こういうことは当然なければならない、そのように私は考えます」と答弁した。この河村建夫議員の見解を踏まえて、岸博幸参考人及び津田大介参考人も言及したフランス及び韓国における「スリーストライク制」について、本法律修正部分の運用に当たって、我が国に導入する考えはあるのか、政府の見解を示されたい。
6 違法ダウンロードを未然に防ぐ努力をすべきであるが、まず何よりも違法アップロード対策を強化すべきである。今後の具体的な違法アップロード対策について、政府の見解を示されたい。
7 本法律修正部分による委縮効果で、かえってレコード産業等の衰退につながるという指摘がある。インターネット利用の委縮効果を防ぐために、具体的にどのような対策をとるのか、政府の見解を示されたい。

  右質問する。