質問主意書

第180回国会(常会)

質問主意書


質問第一四八号

六十五歳までの継続雇用義務化と現場の実態に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十四年六月十九日

又市 征治   


       参議院議長 平田 健二 殿



   六十五歳までの継続雇用義務化と現場の実態に関する質問主意書

 年金支給開始年齢の引上げに伴い、定年と年金支給開始の間にすきまが生じることを防ぐことを目的として、高年齢者雇用安定法が制定され、二〇〇六年四月には同法の改正によって高年齢者の雇用確保措置が法的義務となった。
 さらに、二〇一一年、厚生労働省は働くことを希望する労働者全員について、六十五歳までの継続雇用を企業に義務付ける方針を示した。それを受けて、厚労省の労働政策審議会は二〇一二年二月二十三日、企業が六十歳定年に達した労働者から再雇用者を選ぶ基準を廃止し、希望者全員の六十五歳までの雇用確保を義務付けるとした高年齢者雇用安定法改正案について、小宮山厚生労働大臣へ「妥当」と答申した。かくて、政府は三月九日に同改正法案を提出し、来年四月施行を目指している。
 六十五歳までの継続雇用義務化は、年金支給開始年齢延長との見合いで必要となる高年齢者の生活防衛政策である。また、これは少子高齢化社会の中で高年齢労働者の経験や技術を活用していくことが社会的に必要となってきていることを裏付けるものであり、まさに時代の要請に応えるものと言える。
 しかし、これまでの改正高年齢者雇用安定法の運用をめぐって、とりわけ同法第九条第一項の高年齢者の雇用確保措置の一つである「継続雇用制度」の運用で少なからず問題が発生しており、裁判に発展したケースもある。
 政府が百パーセント出資する日本郵政グループの郵便事業株式会社においても、毎年実施される「高齢再雇用社員選考試験」において、その理由も一切明らかにされることなく「不合格者」が出ている。この行為は、「六十五歳までは無条件に再雇用すべき」という改正高年齢者雇用安定法の趣旨や、政府が進める六十五歳までの継続雇用義務化の流れに反するものである。
 よって、以下のとおり質問する。

一 改正高年齢者雇用安定法第九条第一項に基づく雇用確保措置(①当該定年の引上げ、②継続雇用制度、③当該定年の定めの廃止)のうち、それぞれどれだけの企業が採用したのか、それぞれの企業数及び割合について、企業規模別及び産業別に政府の承知するところを示されたい。

二 前記一のうち、②継続雇用制度を採用した企業において、労使協定及び就業規則によって選別基準を設けたなどの結果、実際には再雇用されなかった労働者の人数について、企業規模別及び産業別に政府の承知するところを示されたい。

三 前記一の②継続雇用制度の運用をめぐって、労使間の紛争となり、裁判として争われてきた訴訟件数及び主な争点の概略について、政府の承知するところを示されたい。
 また、判例は概ね労働者が特別な条件での申請ではなく、簡易な手続きや口頭の意思表示で継続雇用ないし再雇用の希望を表明すれば足りるとし、経営側が特定の労働者に対し、殊更、重い要件を設けて継続雇用・再雇用から排除することは、制度の趣旨に合わないとしていると理解される。よって、政府としても制度の趣旨及び判例に従い継続雇用制度の適切な運用を行うよう、すべての経営者に対して助言すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

四 郵便事業株式会社における二〇〇七年度から二〇一一年度の高齢者再雇用社員の応募者数と合格者数(それぞれ支社別)について、政府の承知するところを明らかにされたい。

五 郵便事業株式会社における今年度の高齢再雇用社員選考で、支社別の不合格となった人数及びその理由別の人数について、政府の承知するところを示されたい。

六 政府が国会に提出中の「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律案」の趣旨は、労使協定または就業規則において再雇用の基準を定めていれば、その基準を根拠に個別労働者の不採用を許すとの免責条項が、企業側の採用忌避の口実として悪用されている点を改め、この条件を廃止することを主眼としている。この改正案は事実上の個別解雇である「再雇用選考時の不合格」処分を許さないためである。この趣旨を徹底するために、同法案成立後に政府はどのような方策を採るのか、政府の方針を示されたい。

七 日本郵政グループにおいても、六十歳を超えた正社員については希望者全員を再雇用とするのを慣例としてきた。ところが本年二月に実施した高齢者再雇用社員選考では、少なくとも二名の希望者が不採用とされた。当該二名の実際の不採用理由は、十二月~一月期に職場における「三六協定」違反の実態を労組としての活動として指摘し、経営者側に是正させたことを、「上司に反抗的」等と非公式にみなした報復行為と解するほかなく、不当労働行為の疑いが強い。
 経営者側の当該行為は、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律案」の趣旨、すなわち選別基準の廃止、希望者全員採用に反することとなる。同法案は成立していないが、政府は同法案を閣議決定した経緯に鑑み、同法案の趣旨に則り、行政の立場・日本郵政の株主の立場から、同社に対し是正措置を求めるべきではないか。

八 私はかねてより、日本郵政グループ、とりわけ労働集約的体質を持つ郵便事業の職場においては、減収・赤字体質からの脱却・再建には、労使関係の改善を基礎とした円滑な業務運営が不可欠であると提唱してきた。労働組合の活動家を排除する前近代的で粗暴な職場運営は、事態を悪化させるばかりであり、公共サービス事業体にふさわしくないと考えるが、政府の見解を示されたい。
 今国会において「郵政民営化法等の一部を改正する等の法律」が成立し、政府と同社が協力して三事業の失地回復、経営向上に取り組んでいる現在、政府は行政の立場から郵政職場の実情を把握し、同社に対し労使関係を早期に改善するよう指導するとともに、株主の立場からも、郵政事業の公共的性格に鑑み、業務の円滑化に資する職場環境を醸成するよう、同社に要求すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。