質問主意書

第180回国会(常会)

質問主意書


質問第七九号

野生動植物への放射線影響調査に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十四年四月九日

糸数 慶子   


       参議院議長 平田 健二 殿



   野生動植物への放射線影響調査に関する質問主意書

 環境省は、野生動植物への影響のモニタリングに向けた基礎調査として、東京電力福島第一原子力発電所の周辺地域において、野生動植物に対する放射線の影響を把握し、今後のモニタリング計画立案のための基礎情報を収集するとしている。しかし、同基礎調査の枠組み全体について多くの疑問があるので、以下質問する。

一 政府は、同基礎調査の対象区域を、警戒区域内の富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、南相馬市のほか、警戒区域外のいわき市及び広野町の計七市町としている。しかしながら、実際の放射線の影響は、少なくとも福島県以外の東北地方や関東地方に広く及んでいることから、これらの地方全域を調査すべきである。政府は、同基礎調査を踏まえた上で、本格的な調査をこれらの地方全域に拡大する方針はあるのか。拡大する方針である場合、その対象の地理的範囲及び選定理由を示されたい。

二 同基礎調査では、陸生植物五種類、陸生動物二種類、陸生・水生動物六種類(八種)、海生生物四種類、ツバメの巣などが対象になった。しかし、人間は複雑多様な生態系全体の中に存在しながら生かされている点に鑑みれば、こうした生態系の一部を調査するだけでは、全く不十分である。土壌、河川、湖沼、海域等を始め、それらの中に生息する微生物、菌糸類、コケ類や藻類、ミミズや昆虫類、哺乳類・鳥類・魚類などの野生生物などを幅広く対象とし、生態系と食物連鎖の構造に沿って、可能な限り包括的かつ詳細に調査すべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。また、こうした調査を検討しない場合、その理由も併せて示されたい。

三 前記一及び二のような広範囲にわたる調査を実施するためには、今回の同基礎調査で協力を得たとされる三機関だけでは到底不可能である。また、数十年から百年以上に及ぶ放射線の影響に鑑みれば、数カ月や数年の短期間で調査を終えるべきではない。このため、調査範囲全域における都県・市町村、大学その他の研究機関、地域で活動する市民グループ、その他域外や国外の研究機関やNGOなど、あらゆる主体の協力を呼びかけるべきである。また、その調査結果や情報の集約・分析・公開についても、これらの主体の協力を仰ぐとともに、調査活動の調整や調査結果や情報の集約・分析・公開を担う専門の第三者機関を設立すべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

四 広域かつ長期的で、多数の主体が参加・協力する野生生物への放射線影響調査の実施に当たっては、高等学校や小中学校の生徒達も関与することが望ましいと考える。このような調査を教育現場において課外活動として行うことは、子ども達が生態系と食物連鎖の仕組みや放射能についての認識を深め、環境保全や健康・安全の維持についての判断能力を培うことにもなりうるためである。教育現場において、このような調査活動への参加・協力を奨励・支援する必要性について、政府の見解を示されたい。

五 広島及び長崎での原爆の被害調査や、東京電力福島原発事故の発生以前に最悪とされたチェルノブイリ原発事故における被ばく調査には不十分な面があり、こうした問題が多くの被ばく者を放置し、差別を生むことになった。これらに対する深刻な反省を踏まえ、今回の東京電力福島原発事故後の一連の調査がそれらの轍を踏まないようにするためには、慎重な検討の下で十分かつ丁寧な対策を講じることが必要不可欠であると考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。