質問主意書

第179回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第五五号

内閣参質一七九第五五号
  平成二十三年十二月十六日
内閣総理大臣 野田 佳彦   


       参議院議長 平田 健二 殿

参議院議員田村智子君提出米原子力軍艦の横須賀配備に係る安全性に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員田村智子君提出米原子力軍艦の横須賀配備に係る安全性に関する質問に対する答弁書

一の1の(一)について

 お尋ねの水位低下の程度については承知していないが、米側より、原子力推進型の空母(以下「原子力空母」という。)ジョージ・ワシントンについては、平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震(以下「今回の地震」という。)の発生時、横須賀港に停泊していたが、今回の地震により船体に被害が発生することや停泊に影響を受けることはなかった旨の説明を受けている。

一の1の(二)について

 米側より、米海軍の原子力推進型の軍艦(以下「原子力軍艦」という。)については、引き波により船体が海底に接触する事態が発生した場合でも、原子炉は船の中で最も安全である船の中心に置かれているため、原子炉の安全は維持される旨の説明を受けている。

一の1の(三)について

 お尋ねの米海軍の原子力軍艦の「高度のダメージ・コントロール能力及び重層的な安全システム」については、例えば、平成十八年四月十七日にシーファー駐日米国大使(当時)から麻生外務大臣(当時)に対して手交された、米海軍の原子力軍艦の安全性に関する事項が記載された文書(以下「ファクトシート」という。)において、「合衆国原子力軍艦は、極めて速やかに原子炉を停止させるフェイルセーフの原子炉停止システムを有するとともに、他にも多重的な原子炉の安全システム及び設計上の特色を有している。これらは各々が予備のシステムを備えている。一例として、崩壊熱除去システムがあるが、これは、電力に依存することなく、原子炉の物理的構造と水自身の特性(比重差によって生じる自然対流)のみによって、炉心を冷却するものである。また、海軍の原子炉は、無限の海水を即時に使用し得るため、もし究極的に必要となれば、緊急の冷却及び遮蔽のために海水を艦内に取り入れ、艦内にとどめておくことが可能である。合衆国原子力軍艦のすべての原子炉は、頑丈な格納容器の中に設置されており、また、原子炉を冷却するために水を加える多数の方法を有している。」と述べられている。いずれにせよ、政府としては、米国政府に対し、我が国に寄港する米海軍の原子力軍艦の安全性について、引き続き万全の対策をとるよう働きかけていく考えである。

一の2の(一)について

 御指摘の津波による影響について具体的に想定したものは承知していないが、米側より、今回の地震によって原子力空母ジョージ・ワシントンの船体に被害が生じたり、停泊に影響を受けたりすることはなかった旨の説明を受けている。

一の2の(二)から(四)までについて

 御指摘のような「外務省から「神奈川県が作成されるハザードマップ等に注意を払い、今回の震災に伴う改正がなされる場合には、米軍としても適切に対応していく考えである。」との回答」をしたとの事実はない。いずれにせよ、政府としては、横須賀海軍施設の津波対策等について、米側との間で必要な情報交換等を行ってまいりたい。

一の3について

 一般国際法上、駐留を認められた外国軍隊には、特別の取決めがない限り接受国の法令は適用されず、このことは、我が国に駐留する米軍についても同様である。したがって、御指摘の建築物の耐震設計基準等について、我が国の法令は適用されないが、接受国の法令を尊重しなくてはならないことは軍隊を派遣している国の一般国際法上の義務であり、米側からは、御指摘の建築物については日本国内の耐震設計基準に準じた米国の耐震設計基準に基づく厳重な審査が行われているとの説明を受けている。

一の4の(一)について

 平成二十三年三月十一日、十六隻の自衛隊の艦艇が横須賀港に停泊していたが、今回の地震の発生後、同日中にこれら全ての艦艇は同港を出港した。

一の4の(二)及び(三)について

 原子力空母ジョージ・ワシントンは、平成二十三年三月十一日には横須賀港で定期メンテナンスを行っており、同月二十一日に同港を出港したと承知しているが、その他のお尋ねについては、米軍の運用に関わる事柄であり、お答えを差し控えたい。

一の4の(四)について

 お尋ねについては、平成二十三年四月十八日付けの口上書による原子力空母ジョージ・ワシントン等の安全性に関する米国政府からの説明(以下「口上書による説明」という。)において、「合衆国原子力軍艦が移動可能であるという事実は、陸上の原子力関連施設にはない安全面での特色である。原子力軍艦は、艦船自体の推進力又はタグボートの補助を得て、陸から遠ざかることが可能である。」と述べられている。いずれにせよ、政府としては、米国政府に対し、我が国に寄港する米海軍の原子力軍艦の安全性について、引き続き万全の対策をとるよう働きかけていく考えである。

二について

 大正十二年九月一日に発生した関東大震災による横須賀軍港(当時。以下同じ。)の被害については、政府として網羅的に把握しているわけではないが、防衛研究所戦史研究センター史料室に保管されている旧海軍史料「横須賀鎮守府被害調書」及び「大正十二年九月各部震災被害状況調 横須賀鎮守府」によれば、その大略は次のとおりである。
 艦船の被害については、入渠中の潜水艦二隻が倒壊し、建造中の軍艦「天城」は、キールが波状に屈曲したが、それ以外の被害はほとんどなく、軍艦「三笠」は、原因は不明であるが、震災後から艦底の浸水の量が増加したとされている。
 建築物の被害については、箱崎重油タンクは、亀裂のため重油が流出して発火し、付近に堆積されていた石炭に類焼し、海軍工廠は、その約半数の建築物が倒壊した等とされている。
 人的被害については、同月三日時点で、横須賀軍港に在勤中の者のうち、死者が四十六名、重軽傷者が約七十名、行方不明者が五十六名であったとされている。
 政府としては、関東大震災による横須賀軍港の被害について、現時点において、特段の調査が必要とは認識していない。

三の1について

 政府としては、ファクトシートや口上書による説明等により、米海軍の原子力軍艦の安全性についての説明を受けている。

三の2について

 お尋ねの「崩壊熱除去能力」については、これのみによってどのくらいの時間所要の冷却効果を果たすかについては現時点では承知していないが、口上書による説明において、「電力に依存することなく、原子炉の物理的構造と水自身の特性(比重差によって生じる自然対流)のみによって、炉心を冷却できる」ものであり、また、「これは、多数の故障が発生するという可能性の低い事態においても、海軍の原子炉はオーバーヒートせず、炉心で発生する熱により燃料が破損されないことを確保するという、多数の原子力軍艦安全システムの一例である。」と述べられている。

三の3について

 東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故発生時において、御指摘の「非常用復水器」がどのように機能したかについては、現在も調査及び検証を続けているところであり、現時点において、お尋ねについてお答えすることは困難である。

三の4について

 お尋ねの原子力空母ジョージ・ワシントンの原子炉における核分裂生成物の蓄積量については、米側は、軍事上の理由により、これを公開しない方針であり、我が国として承知していない。

三の5について

 政府は、米海軍の原子力軍艦が我が国に寄港する際には、主体的かつ厳格に放射能の監視・調査を実施している。具体的には、文部科学省等の関係機関が、モニタリングポストにより二十四時間体制で寄港地周辺の放射線監視を行うとともに、米海軍の原子力軍艦が我が国に寄港する際にはモニタリングボート等による放射能調査を実施しており、これらの結果は全て公表している。この監視・調査は、人体及び環境に影響を与えるような放射能のレベルを検出することが可能であるが、横須賀におけるものを含め、米海軍の原子力軍艦に起因して放射能の異常値が確認されたことは、これまでにない。

四の1について

 原子力軍艦に係る原子力災害対策の見直しについては、現在行っている東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故を踏まえた原子力安全規制の見直しの検討結果等を踏まえ、適切に対処してまいりたい。

四の2について

 ファクトシートにおいて、原子力軍艦に想定し得る最大の事故が発生した場合の影響について、「軍艦の至近、及び在日米海軍基地内に十分とどまることとなる。」とされているのは、米海軍の原子力軍艦に搭載されている原子炉の実態に即して、米国政府において試算した結果によるものと承知している。

四の3及び4について

 一般国際法上、駐留を認められた外国軍隊には、特別の取決めがない限り接受国の法令は適用されず、このことは、我が国に駐留する米軍についても同様である。したがって、米海軍の原子力軍艦について、原子力災害対策特別措置法(平成十一年法律第百五十六号)は適用されない。いずれにせよ、政府としては、米国政府に対し、我が国に寄港する米海軍の原子力軍艦の安全性について、引き続き万全の対策をとるよう働きかけていく考えである。

四の5について

 横須賀港における原子力軍艦の寄港地周辺のモニタリングについては、原子力空母ジョージ・ワシントンの同港への配備に伴い平成二十年度に横須賀原子力艦モニタリングセンターを設置し、その際、放射能調査のための常駐職員を配置するほか、同港におけるモニタリングポストの数を四局から十局へと増設するなど、その体制強化を図ってきている。横須賀原子力艦モニタリングセンター及び同港におけるモニタリングポストの津波対策も含め、今後とも、放射能調査体制の充実・強化に努めてまいりたい。

四の6について

 外務省は、米海軍の原子力軍艦に係る原子力災害が発生した又は発生のおそれがあるとの通報を米側から受けた場合には、関係省庁で申し合わせた連絡体制に従って、官邸を含む関係省庁及び関係地方公共団体に遅滞なく連絡を行うこととしている。また、米海軍の原子力軍艦に係る原子力災害が発生していない場合や発生のおそれがない場合でも、米側から外務省に対し、我が国における米海軍の原子力軍艦の安全性に関する通報があった場合には、事案の軽重にかかわらずいかなる場合であっても、外務省として、遅滞なく官邸を含む関係省庁及び関係地方公共団体に連絡することとしている。

四の7について

 政府としては、これまで、災害発生時における災害情報の収集及び連絡の重要性に鑑み、横須賀市、国、米海軍等で実施する日米合同原子力防災訓練に参加してきたところであり、今後とも同訓練への参加を通じて、原子力軍艦に係る原子力災害に対する備えに遺漏なきを期してまいりたい。