質問主意書

第178回国会(臨時会)

質問主意書


質問第二九号

スマート社会形成に向けた基本的支援施策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十三年九月二十九日

加藤 修一   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   スマート社会形成に向けた基本的支援施策に関する質問主意書

 東京電力福島第一原子力発電所の事故に端を発した原発問題は、ベース電源であった原発の在り方が問われるなど、我が国の電力供給構造に大きな変化をもたらした。
 この夏の節電や省エネ意識の高まりとともに、再生可能エネルギーの急速な拡大を求める声は日々高まっており、第百七十七回通常国会において成立した「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(平成二十三年八月二十六日可決成立)により、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギーの急速な普及拡大が見込まれる。
 そこで、節電、省エネ及び再生可能エネルギーの電力系統への安定供給に欠かせないのが、電力の地産地消の推進やスマートグリッド技術の確立による電力供給システムの構築であり、高度な情報通信技術を持つスマートメーター等の普及による電力使用情報の見える化や、ビル・エネルギー・マネジメント・システム(BEMS)やホーム・エネルギー・マネジメント・システム(HEMS)と連携した家電等の制御技術の確立である。
 政府は平成二十三年七月二十九日にエネルギー・環境会議において決定された「当面のエネルギー需給安定策」において、スマートメーターを二〇二〇年代に原則全戸導入としていた目標を前倒し、今後五年以内に総需要の八割をスマートメーター化するとしている。
 そこで、以下質問する。

一 計画停電とスマートメーターの普及について

 我が国では、スマートメーターの導入件数が最も多い関西電力でも、平成二十三年度五月末時点で約七十九万戸と導入が遅れている。
 東京電力福島第一原子力発電所の事故による電力不足により、当初、計画停電が実施されたが、スマートメーターが普及していれば、需要者ごとに供給制限が可能となり、計画停電の混乱は回避されたとの指摘があるが、政府の見解を示されたい。

二 我が国のスマートグリッド技術及びスマートメーターの普及対策について

 スマートメーターについては、米国では全体の八・七パーセントに当たる約百二十万戸に設置し、イタリア(三千三百万戸)やスウェーデン(五百万戸)ではほぼ全戸に導入され、イギリス(全戸二千七百万戸)やフランス(全戸三千五百万戸の九十五パーセント以上)、韓国(全戸一千八百万戸)では二〇二〇年までに導入予定とのことである。
 それに対し、我が国はスマートメーターの導入状況が遅れているのではないかとの指摘があるが、普及促進のための支援策を含め、今後どのように取り組んでいくのか、政府の見解を示されたい。
 また、米国、EUなど諸外国の対策と計画について、政府の承知しているところを示されたい。さらに、スマートグリッド技術の世界標準化に向けた取組について、政府の見解を示されたい。

三 電力会社別のスマートメーターの導入状況及び今後の取組について

 電力会社別の導入状況及び今後の取組についてどうなっているのか、政府の承知しているところを明らかにされたい。
 従来から、オール電化などの過程で太陽光発電の導入等においてスマートメーターが必要な場合は、電力会社が経費を含めて自ら設置することになっている。スマート社会の形成を国の政策として主導的に展開する場合は、経費を含めて別の導入制度が必要になると考えるが、政府の見解を示されたい。

四 総需要の八割目標について

 エネルギー・環境会議の決定において、スマートメーターを二〇二〇年代に原則全戸導入としていた目標を前倒し、今後五年以内に総需要の八割をスマートメーター化するとしているが、大口需要家や小口需要家の事業所数に対して、それぞれ何割をカバーしようとしているのか、また、一般家庭の総戸数に対して何割をカバーしようとしているのか、ロードマップを明確にし、具体的に数字で示されたい。

五 電力消費のピークカット対策について

 電力消費のピークカット対策として、大口需要家や小口需要家への対策を具体的に明らかにされたい。また、一般家庭におけるピークカット対策として、一般家庭へのスマートメーターの普及拡大を併せて加速化することも重要と考えるが、政府の見解を示されたい。

六 IPPやPPS等と参入障壁について

 エネルギー・環境会議の決定において、自家発電やIPP(電力会社への電力の卸売事業者)、PPS(大口需要家に小売を行う電気事業者)などの参入を推進するために、送電・配電事業の中立性を高め、発送電の分離を促すとしているが、託送料の大幅引下げやその主体者を含め、具体的にどのような対策を想定しているのか示されたい。

七 製造業などの産業の空洞化と今後の電力需給動向の早急な提示について

 製造業などの海外移転が加速化していると言われている。エネルギー・環境会議の決定において、今冬及び来夏の需給動向や工程表と規制・制度改革リストの具体化と重点化を行うとしているが、産業の空洞化を防ぐためにも、スピード感を持って速やかに策定し公表すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

八 節電税の導入に関する一考察について

 スイスのバーゼル・スタット州では節電へのモチベーションを高めるため、一九九八年より節電税を導入して一定の効果を上げている。この節電税は課税により電気代を上げることで節電を促し、そこで得た税収入は節電に応じて家庭や企業に還付する制度である。経済へのショックを和らげるための段階的導入や大口消費者への特別措置も考慮されている制度であり、税制改正などで議論すべき価値があると考えるが、このような取組に対する政府の見解を示されたい。

九 「二千ワット社会」ビジョンに関する一考察について

 エネルギーの八十パーセントを輸入しているスイスにおいて、チューリッヒ市の住民投票で支持率七十六・四パーセントを獲得した市条例「二千ワット社会」は、生活の質の在り方を改めて問うものである。
 「二千ワット社会」は、スイスの年間一人当たりの生活に必要な一次エネルギー消費を二〇五〇年までに、現在の六千ワットから三分の一の二千ワットに減らし、省エネを実行するものである。連邦工科大学の分析によれば、二千ワット社会は現在の生活の質を下げなくとも実行できるという。
 「二千ワット社会」ビジョンの実現に向けて、スイス連邦機関、研究所、地方自治体、企業及び個人が四つの都市開発のプロジェクトを計画し、太陽光と雨水を用いて気温を一定に保ち、一年中冷暖房が不要なゼロエミッション建物が造られているという。エネルギー・環境会議におけるエネルギー戦略の優先事項として、省エネの促進及び再生可能エネルギーの導入拡大があるが、トッププライオリティである省エネについて、このような目標値を定め、ロードマップの策定による取組を進めることに対する政府の見解を示されたい。

十 節電支援サービス事業者に対する支援措置について

 省エネ及び節電の普及拡大には、ESCO事業者など節電支援サービス事業者に対する支援措置が必要と考えるが、政府の見解を示されたい。
 また、前記八とも関係するが、対前年同期比で節電や省エネに貢献した場合には、何らかのメリットを得る制度を考え、継続的にインセンティブが働くようにすべきである。公明党が本年の総合経済対策の中で提案している節電エコポイント制度などを工夫すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

十一 LEDのレンタルに対する支援措置について

 いまだ高額なLEDの普及促進を図るため、省エネ及び節電の普及拡大の切り札であるLEDのレンタルに対する支援措置を強化すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。また、LEDの普及拡大に向けたロードマップを示されたい。

十二 蓄電池の一般家庭への普及拡大について

 夜間電力利用や太陽光発電による電力の自産自消の促進とピークカットに寄与するため、災害対応型を含めた蓄電池の一般家庭への普及拡大を図ることは、節電を進める上でも重要な課題である。蓄電池の普及拡大のための支援措置の強化が必要と考えるが、政府の見解を示されたい。

十三 電気自動車(EV)から家庭への電力供給について

 夜間に充電したEVの電気を昼間に家庭において使用できるEVが、既に一部の自動車メーカーで開発され販売の段階に入っている。これは蓄電池を積んだ自動車、「動くバッテリー」でもあり、前記十二の内容を更に進化させたものになる。
 そうであるならば、EVに新しいメリットが加わったことになり、EV普及の一定のインセンティブにもなり得る。国際社会におけるEVのトップランナーたる我が国は、こうしたメリットの効果的な導入により、一層普及拡大が進む契機になる。更なる具体的な支援措置の強化を検討し内需拡大にも、節電社会の形成にも貢献すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

十四 以上の各質問において提案した取組は直ちに推進すべき内容であり、原子力政策大綱やエネルギー基本計画の見直しを経てなされるべきものではない。日本の成長戦略にとって極めて重要なものである。したがって、これらの取組は一層推進を図るべきものとして、原子力政策大綱やエネルギー基本計画の見直しと切り離して考えるべきものと考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。