質問主意書

第178回国会(臨時会)

質問主意書


質問第二〇号

六ヶ所及び東海再処理工場の高レベル放射性廃液の絶対的な安全管理に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十三年九月二十二日

川田 龍平   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   六ヶ所及び東海再処理工場の高レベル放射性廃液の絶対的な安全管理に関する質問主意書

 全国の二十三市民団体は東京電力福島第一原子力発電所事故を受け、二〇一一年四月二十六日に日本原燃株式会社・川井社長宛に「再処理工場における想定外大地震による放射能環境放出事故防止に関わる緊急要請・質問状」を提出し、六月三日に回答を得た。市民団体が最も心配していることは、再処理工場におけるアクティブ試験により発生し、現在貯蔵されている二百四十立方メートルもの高レベル放射性廃液(以下「高レベル廃液」という。)の一般環境への漏洩事故のおそれである。この質問に対して、同社はパイプ破断などによるセル内の漏洩を想定し、「放射能は適切に回収され外部に漏れ出ることはない」旨回答しており、三月十一日に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故があってもなお、未だに放射能の一般環境への放出を伴う過酷な事故を想定しようとしないものであった。
 原子力学会誌によれば、高レベル廃液は電源喪失等の事故により冷却できなくなると、自己崩壊熱により約十五時間で沸騰し始め一般環境へ放射性物質を放出すると言われている。再処理工場の事故による高レベル廃液の一般環境への漏洩に関しては、一九九七年にドイツ政府、二〇〇八年にノルウェー政府が専門機関に評価を依頼しており、最悪の場合には、放射性物質による高濃度汚染のため国の根底を揺るがす悲惨な事故になる、という評価結果であった。一方、地震大国の我が国ではこのような過酷な事故の評価がなされていないと承知しているが、これは危機管理の欠如ではないか。三月十一日に発生した東日本大震災によって東京電力福島第一原子力発電所は全電源が喪失する事態に陥り、同時多発的に原発事故が発生し、収束のめども立っていない状況である。大量の放射能量(六ヶ所再処理工場についてはセシウム137換算で東京電力福島第一原子力発電所事故における放出量の五十七・六倍と想定)が施設内に存在する再処理工場においても同様の危険性があり、東京電力福島第一原子力発電所事故にもまして過酷な事態に至ると思われる。
 なお、高レベル廃液は独立行政法人日本原子力研究開発機構東海研究開発センターの再処理施設においても三百九十四立方メートル貯蔵されており、ここで過酷な事故が発生した場合には、首都圏が壊滅する事態が想定される。液状では危険なため、ガラス固化し、数十万年の間、地下深く人間環境から隔離しなければならないと言われるほど危険な物質が、不安定な液状のまま国内二か所に貯蔵されている事実は重い。三月十一日に発生した東日本大震災以来、地震活動の活発化が予想される我が国において、これはあまりにも危険な状況であり、早急に安全対策を処置すべきと考える。
 政府は五月一日と六月七日に、東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえ、両再処理事業者に対して、「平成二十三年福島第一・第二原子力発電所等の事故を踏まえた再処理施設の緊急安全対策の実施について」、「平成二十三年福島第一原子力発電所事故を踏まえた他の原子力発電所におけるシビアアクシデントへの対応に関する措置の実施について」を指示し、その後これらの実施状況の報告を受け了解した。しかし、これらの指示・報告は、高レベル廃液の危険性を把握し、最悪の事態を想定した危機管理対策になっておらず、国民の不安を払拭する内容ではない。いったん過酷な事故が発生すると放射能汚染が北半球の広域に拡大する可能性がある再処理工場の安全性について、政府は徹底した予防原則の考え方の下、国民の不安を具体的かつ真摯に払拭する責務があるはずである。以下、両再処理工場について質問するので、政府において承知している状況及び政府の見解を示されたい。

一 高レベル廃液の放出事故の防止について

1 高レベル廃液は危険性が大きすぎるためガラス固化により貯蔵することとなっている。両再処理工場とも液体状態での貯蔵をやめて廃液を一刻も早くガラス固化すべきと考えるが、政府の見解を問う。また、廃液貯蔵限度量が定められるべきと考えるが、併せて政府の見解を問う。
2 現在貯蔵されている高レベル廃液について、大地震などによる全電源喪失、冷却材喪失などの事故時に放射性物質の一般環境への漏洩を防止するために、どのような防護対策を講じているのか、具体的に示されたい。また、その対策は、最悪の事態(東京電力福島第一原子力発電所事故を想定)が発生した場合においても沸騰状態を防げるものになっているのか。
 さらに、高レベル廃液貯槽で掃気できなくなった場合、放射線分解水素による爆発防護対策はなされているのか、また、その対策は、同様の最悪の事態が発生した場合においても爆発を防げるものになっているのか。
3 高レベル廃液は、濃縮蒸発缶、不溶解性残渣、プルトニウム濃縮液を内蔵する貯槽、ガラス固化前の廃液調整貯槽などにも存在するが、これらの事故対策を具体的に示されたい。
4 再処理工場は原発と異なり化学工場であるため、多くの種類の事故が想定される。TBP、ノルマルドデカンなどの有機溶媒、レッドオイル発生などによる火災や爆発などの事故対策を具体的に示されたい。
5 事故発生時において、マニュアルにある手段を講じても高レベル廃液貯槽で電源喪失や冷却水パイプの破断などにより沸騰や爆発を止める見込みがなくなった場合、被害を小さくするための「最後の手段」として考えられる方策があれば、具体的に示されたい。原発には緊急炉心冷却装置(ECCS)があるが、東京電力福島第一原子力発電所事故の際には機能しなかった。この国や国民の存続のため、また世界各国に迷惑をかけないために必要な「全ての電源が停止、もしくは冷却材が喪失した際の最後の備え」を示されたい。
6 両再処理工場が保有する高レベル廃液の安全管理について、経済産業省総合資源エネルギー調査会で審議されたことがあれば、部会・委員会名、開催年月日、審議内容を示されたい。審議されていなかったのならば、その理由を示されたい。
7 三月十一日に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえ、経済産業大臣から両再処理事業者に対して、「平成二十三年福島第一・第二原子力発電所等の事故を踏まえた再処理施設の緊急安全対策の実施について」(五月一日)、「平成二十三年福島第一原子力発電所事故を踏まえた他の原子力発電所におけるシビアアクシデントへの対応に関する措置の実施について」(六月七日)が指示された。その後これらの実施状況の報告を受け、了解している。しかし、これらの指示・報告は高レベル廃液の危険性を把握し、最悪の事態を想定した危機管理対策になっておらず、国民の不安を払拭する内容ではないと思われるが、政府の見解を問う。また、この報告書の評価審査は、いつ、どこで誰が行ったのか、その責任者は誰か、審議はどのような内容であったのかを示されたい。

二 リスク管理について

1 菅前内閣総理大臣は「福島第一原発事故直後、最悪時のケースでは首都圏の三千万人が避難対象になる」との評価結果を得ていたと報道されている。両再処理工場の過酷な事故により、高レベル廃液が一般環境に漏洩した場合について、その及ぼす影響について国は評価を行っているのならば、その結果を示されたい。また、同評価を実施していないのならば、その理由を明らかにされたい。
2 故高木仁三郎氏の著書「核燃料サイクル施設批判」(七つ森書館)の二百二十七頁~二百三十一頁に、高レベル廃液百立方メートルを含むタンクが破壊され、その内蔵放射能のうち一パーセントが外部に放出された場合を仮定した事故評価例が記載されている。雨天時の等線量圏図によると青森県全域は避難範囲になる。また、警戒領域は名古屋あたりまで達すると指摘されている。この推定は正しいのか誤りなのか、政府の見解を問う。内容が間違いである場合は、政府の放射性物質による汚染範囲の想定を示されたい。
3 東京電力福島第一原子力発電所事故では、大地震などによって事故が同時多発的に発生し、制御不能になることを全く想定していなかった。対策が後手に回った大きな原因はここにあると考える。両再処理工場では、大地震などにより、火災、配管破断による放射性物質の漏洩、地盤の不等沈下、建物の破壊、電源喪失などが同時多発的に数十分単位のうちに発生することが想定される。また、同時に中央制御室での制御不能、建物のゆがみや道路変形による通行不能、断線による通信不通などの事態の発生も考えられる。さらに、遠隔操作不能により高レベル放射線下での作業も発生することが想定されるが、同時多発事故への対応は万全か、政府の見解を問う。
4 東洋大学の渡辺教授等は、六ヶ所再処理工場直下に活断層があり大陸棚外縁断層と連動すると、最大マグニチュード八クラスの地震の発生がありうるとしている。三月十一日に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故以来、活断層以外の断層も調査されている中で、渡辺教授等の指摘を基に再度、再処理計画の是非を見直す考えはないか、政府の見解を問う。
5 事故時における国民や従業員を放射能から守るために必要となる被ばく線量の上限値や、避難限度線量値があれば示されたい。
6 六ヶ所再処理工場の貯蔵高レベル廃液は、セシウム137換算で東京電力福島第一原子力発電所事故における放出量の約五十七倍と推定される。高レベル廃液に潜在する危険性を考える際に、国民の安全・国家安泰のため、廃液を早期に固化し、再処理事業から撤退すべきと考えるが、政府の見解を問う。

  右質問する。