質問主意書

第178回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一七号

核エネルギーの機微核技術(SNT)等に対する基本的姿勢に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十三年九月十六日

加藤 修一   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   核エネルギーの機微核技術(SNT)等に対する基本的姿勢に関する質問主意書

 日本は、本年三月十一日に東京電力福島第一原子力発電所における核エネルギーの制御不能による空前絶後とも言うべき大事故によって塗炭の苦しみを受けている。実際に当該事業所内については、原子炉や放射性物質障壁が壊滅し、再建不能であり、他方、事業所外については、ヨウ素131等価で数万テラベクレル以上の大量の放射性物質が外部放出した深刻な事故である。大気中への放出は、現在発表されているところでは、七十七京ベクレルであったとされている。このようなことから国際原子力機関(IAEA)は、国際原子力事象評価尺度(INES)に照合して「七」と評価した。これは、最悪のレベルであり、最悪の事態である。この大事故により福島県民をはじめ多くの国民等が被ばくし、六か月を経過したところである。今もって原子力災害対策特別措置法第十五条によって発動された五回の緊急事態宣言は、解除されず未収束のレベルである。依然として、当該原子力発電所の事故は収束していない。政府・東京電力によれば、今もって時間当たり二億ベクレルの放射性物質が放出(八月十八日現在)されている。
 政府においては、原子力政策大綱、エネルギー基本計画等の見直しが検討されているが、各党においても様々の論点について議論を深めている最中である。論点の一つには、機微情報もある。必ずしも機微情報の定義は明確ではないが、核防護(PP)の視点からも幅広く、かつ、深く議論を進めるべきものである。過日、青森県六ヶ所村の再処理工場を訪問した際にも事業者側の説明には、PPが頻繁に出てきた。議論すべき論点であることから以下質問する。

一 核エネルギーに関する機微情報の定義等について

 巷間、機微核技術(SNT)については、軍事的に利用される可能性のある核技術、すなわちウラン濃縮技術、再処理技術、MOX燃料、高速増殖炉、重水技術等を指しているとも言われている。この機微核技術が日本国内において保持され、核保有国以外で保持しているのは日本だけとも言われている。まず、素朴な点から以下質問する。
1 政府は、機微核技術をどのように定義付けているのか。加えて、機微核技術に関する情報と機微情報との違いは、あるのか。あるならば、両者の相違を明確にされたい。
2 日本に機微核技術は存在するのか。
3 この機微核技術を一度手放せば、再取得することはきわめて困難であるとも言われているが、見解を問う。
4 国際原子力機関(IAEA)における「INFCIRC/225/Rev.4」の「4.3.1」には、「The State should take steps to ensure appropriate protection of specific or detailed information the unauthorized disclosure of which could compromise the physical protection of nuclear materials and nuclear facilities.」とある。すなわち「国は不法に開示されると核物質及び核施設の防護を損ねるおそれがある個別のまたは詳細な情報の適切な防護を保障するための措置をとらなければならない」とのことであり、核防護(前記IAEA文書を直訳すると核物質及び核施設等の防護)に関して守秘しなければならない情報と定義している。この定義に関して、我が国は、いかなる内容を具体的に定義しているのか。特に、「不法」とあるように法律に反してということであるから、法律上の具体的かつ厳密な定義付けが、求められている。当該法律とその定義の内容について、政令・省令等を含めて具体的に示されたい。
5 言うまでもなく、核物質及び核施設等の防護に関する秘密事項を、漏洩することは、法律的には処罰される対象となる。すなわち核物質及び核施設等の防護の機微情報の全体的な範囲と比較すると、より狭い範囲を秘密情報と考えることになる。両者を同値と考えると、過度の秘密化により混乱を招くものと考えられることから秘密化部分とそれ以外に範囲が分けられるものと考えられる。
 前記IAEA文書によれば、適切な防護を保障するための措置として核物質及び核施設等の防護に関する情報の一部を秘密にすることとしている。機微核技術等に関する情報が、一般に広く拡散・普及することは、核テロ防止などの点からも最大限防止し、一定の範囲を秘密にし、漏洩しないようにすべきである。言い換えれば、秘密事項に関して、明確で具体的な定義付けが求められていると言える。ここが定まっていないと実行上種々の混乱を招くものと考えられる。秘密の定義の内容(種類や範囲等)に関する政府の見解を問う。
6 前記5の見解を示す際に併せて、前記IAEA文章の解説書である「TECDOC‐967」において、核物質及び核施設等の防護に関する秘密事項とすべき情報が、設計基礎脅威(DBT)など九項目が例示されているが、これらについても、比較対照的かつ具体的に説明されたい。

二 東京電力福島第一原子力発電所の「事故時運転操作手順書」など事故原因究明に必要な書類の提出について

 九月八日、経済産業省原子力安全・保安院は、衆議院科学技術・イノベーション推進特別委員長が、東京電力に対し、福島第一原子力発電所の「事故時運転操作手順書」など事故究明に必要な書類の提出を求める再要請を行ったことを発表した。同委員長は、過去にも原子力安全・保安院を通じて同様の要請をしていたようである。東京電力は、「核物質防護上、公開できない」として手順書の大部分を黒塗りして提出した。報道によれば十二ページ中九ページが黒塗りとのことである。手順書以外の書類については、提出そのものを拒否したとしている。同委員長は「不十分な内容」として資料の再提出を求め、また、福島第一原発一号機と同型の原発がある日本原子力発電にも同じ書類の提出を要請している。このような黒塗り手順書の提出や書類の不提出について、法的合理性があるかどうかは、まさに核物質及び核施設等の防護に関する定義等が、法律上明確になっているかに依存するものである。
 実際に東京電力側は、知的財産や核物質防護上の問題があるとして提出部分について第三者に公開しないよう求めていたようである。ここに論点が二つある。一点目は、秘密事項についていたずらに過度な秘密事項化が生じてはならないことである。二点目は、福島第一原子力発電所の大事故のような事態を想定していない時点において、原子力安全神話がまかり通る中での秘密事項の種類と範囲などの定義設定になっている可能性があることである。すなわち、大事故発生時の事故原因究明への適正な対応(一定の制約下における開示を含む)がなされなければならないにもかかわらず、開示をしない可能性を指摘できることである。これは、東京電力という一事業者の裁量性が秘密事項において入り込む隙間がある場合は、大事故原因等の本質的解明を妨げることにもなりかねないとも言える。特に大事故の原因解明等において、裁量性が入り込まない担保を、どのように確保するかが重要と考え、以下質問する。
1 報道されている一連の出来事について、政府の承知しているところを日時を明確にした上で、その経緯を具体的に明らかにされたい。
2 東京電力が同委員長に対して全資料等の全面的提出ができない具体的な理由、具体的な法的根拠や、抵触する核物質防護に係る具体的な事項などについては、一事業者の裁量等に任されるべきではなく、政府が明確に示すべきである。見解を問う。
3 前記の1及び2に関連して、実用炉規則における核物質防護秘密の保持に関する規定における詳細な事項についても十分な説明をすべきであり、事業者の裁量性に基づくものではないとの明確な見解を示すべきである。すなわち、政府の主導によって、詳細な事項の開示・不開示の具体的な指針を明確にすべきである。見解を問う。

三 機微核情報の適正管理に関する統一的な基準等の明確化について

1 機微核情報の適正管理の統一的な基準の策定について
 行政、特に政府において情報セキュリティの確保を行う場合には、統一的な基準が必要と思われる。その基準に基づいて戦略を策定し、関係行政機関、省庁の縦割りを超えて横断的・統一的に行うことが重要である。
 例えば、我が国において、核物質及び核施設等(核発電を含む、日本では原子力発電)の防護に関係している行政機関として、経済産業省は商用発電炉、研究開発途上の発電炉など、文部科学省は試験研究炉、国土交通省、警察庁、消防庁は緊急時の対応を行い、さらに公安調査庁等がテロ対策を行っているものと考えられるが、これらの異なる行政機関における統一的な基準を明確にすることが重要である。
 仮に統一的な基準がなく、個々の機関での情報管理の在り方が異なる場合、特に秘密事項についての管理判断が行政機関によって異なると、混乱を招く。ある行政機関の関係情報は公開され、同様の関係情報が、別の機関では公開されないことなどは、あってはならないことである。
 もし統一的な基準を策定していない場合、何故、策定していないのか、その理由を明確に示されたい。また、国として統一的な基準を策定して、判断が錯綜しないように厳密な情報管理を行うべきであると強く要請するが、政府の見解を問う。
2 国と地方自治体間における統一的な基準の策定について
 前記1と同様に、国と地方自治体間においても統一的な対応ができなければならない。今回の東京電力福島第一原子力発電所の大事故による放射性物質の対応においても、国は統一的な対応ができず、政府内の混乱ばかりか、地方自治体と連携できなかったことで大きな混乱が生じ、国民等の不安をいたずらに助長する結果となった。
 同様に、機微核技術に関する適正な統一基準についても混乱が生ずることが十分考えられ、国と地方自治体間の統一的な基準の存在を確認する必要がある。もし統一基準がなければ、その理由を明らかにするとともに、その策定を強く求めるものであるが、政府の見解を問う。

  右質問する。