質問主意書

第177回国会(常会)

質問主意書


質問第二六八号

核拡散防止条約(NPT)再検討会議の日本招致と日本の役割の発揮に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十三年八月二十四日

加 藤 修 一   


       参議院議長 西 岡 武 夫 殿



   核拡散防止条約(NPT)再検討会議の日本招致と日本の役割の発揮に関する質問主意書

 核拡散防止条約(NPT)は、二十五年間の期限付きで導入されたため、発効から二十五年目にあたる一九九五年に同条約の再検討・延長会議が開催され、同条約の無条件、無期限延長が決定された。今般、広島市が被ばく七十周年となる二〇一五年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議の招致を表明したことは、非常に大きな決意であり深い意義をもつものである。
 公明党は二〇一〇年八月、同年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に際して、二〇一五年に広島、長崎で核廃絶世界サミットを開催することを提案したところである。また、広島市議会公明党は二〇一一年六月に、核拡散防止条約(NPT)再検討会議の広島市誘致を市議会で主張し、市当局から誘致方針の答弁を得ている。
 さらに、二〇一一年八月十一日の参議院予算委員会集中審議における、前記の日本招致等に関する質疑に対して、政府を代表する総理の答弁は、「核軍縮に関する国際会議を我が国で開催するということは、唯一の戦争被爆国であります我が国が核兵器使用の惨禍の実態を核兵器廃絶への強い願いとともに国内外に発信する上で極めて有意義だと思っております。せんだっても、六日、九日と広島、長崎の式典にも出てまいりまして、そうした活動の先頭に立つと、これは私個人というよりは我が国の責務だと、このようなことも申し上げてまいりました。広島の皆さんの思いも踏まえ、これまでの会議開催地の実績や開催地決定プロセスにも留意して、政府として何ができるかを検討してまいりたい」とのことであった。
 「極めて有意義だ」、「活動の先頭に立つ」、「我が国の責務だ」、「何ができるかを検討」との総理答弁は一定の評価ができるものの、明確な日本招致の決断に至るものではなかった。
 そこで、今までの経緯も含めて核拡散防止条約(NPT)、核兵器禁止条約(NWC)について、以下質問する。

一 二〇一五年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議の広島招致に向けた外交努力について

 被ばく七十周年となる二〇一五年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議の広島招致は、会議施設数、宿泊施設数など物理的課題も少なくないが、政府は一地方公共団体である被ばく都市・広島市の表明を一層真摯に受け止めて、七十周年の節目にあたる二〇一五年の広島招致に向けて外交力等の総力を結集して招致にあたることを改めて提案するが、政府の見解を問う。
 また、前記総理答弁には、「これまでの会議開催地の実績や開催地決定プロセスにも留意」とあるが、その意味するところはいささか不鮮明である。具体的にいかなる実績の何が開催地を決定することに関わるのか、その留意すべき点とはいかなることか、さらに開催地決定プロセスについて、具体的に何を留意すべきなのか、それぞれについて具体的かつ明快な見解を示されたい。

二 核拡散防止条約(NPT)再検討会議において日本が果たした役割について

 今までの核拡散防止条約(NPT)再検討会議の歴史(経緯)の中で日本が果たした役割について、政府の見解を問う。

三 核拡散防止条約(NPT)再検討会議の現況と今後の課題について

 核拡散防止条約(NPT)再検討会議を主導している国はどこか、核拡散防止条約(NPT)再検討会議の現況と今後の課題についてどのように考えているのか。政府の見解を問う。

四 核拡散防止条約(NPT)から脱退する権利について

 核拡散防止条約(NPT)について、日本は一九七〇年二月に署名し、一九七六年六月に批准したが、署名・批准に至るまでに、政府及び外務省内では中国の核武装に対する日本の核武装を求める動きや、万が一、核拡散防止条約(NPT)に加盟した後に想定されるインドの核武装などの「異常事態」(同条約第十条)が起これば脱退が可能だという論議が起こるなどの紆余曲折が存在したと言われている。
 このことは、二〇一〇年十月十三日放送の「NHKスペシャル 核を求めた日本」において詳細が明らかにされているが、これは事実か。事実であるならば改めて政府の現在の見解を問う。
 また、同条約署名当時の政府声明では、「日本国政府は、条約第十条に、「各締約国は、この条約の対象である事項に関連する異常な事態が自国の至高の利益を危うくしていると認めるときは、その主権の行使として、この条約から脱退する権利を有する。」と規定されていることに留意する」と述べ、署名後の脱退が不可能ではない点について言及したとされているが、これは事実か。事実であるならば改めて政府の現在の見解を問う。

五 核拡散防止条約(NPT)再検討会議の日本開催の阻害要因や課題について

1 核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、スタートしてから僅かであるが、なぜ、開催地は五年ごとにジュネーブ、ニューヨークのみなのか。日本など他の国で開催すべしとの声は少なくないと考えている。実際に招致を表明しているジュネーブ、ニューヨーク以外の都市もある。政府の見解を問う。
2 核拡散防止条約(NPT)再検討会議の日本招致は、今までの歴史的背景、あるいは物理的な対応から仮に無理であったとしても、本会議の関係会議や本会議の支援会議などの日本招致は可能ではないか。日本における本会議の関係会議や本会議の支援会議などの過去の開催実績を列挙されたい。また、過去の開催実績が仮にないとしても日本での開催は可能と考えるが、政府の見解を問う。
3 核拡散防止条約(NPT)再検討会議の日本開催の阻害要因や課題、可能性について、政府の見解を問う。
4 核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、現在のところ二〇一五年、二〇二〇年、二〇二五年、と五年ごとに続くことが想定できる。日本は、この長期的な展開の中で戦略的・計画的に日本招致についてのビジョン、そのビジョン達成のための具体的なロードマップ等の策定を行うべきではないか。それが被爆者への政府の大きな役割の一つと考えるが、政府の見解を問う。

六 広島・長崎の被爆実態の発信と広島招致への取組について

 広島・長崎の被爆実態を内外の政治家等の政策決定者に正確に認識させるべきであるとの国際的な意見は少なからずあると確信している。その点を政府は、合理的、効果的に駆使して核拡散防止条約(NPT)再検討会議の広島招致にこぎつけることに最大限の努力を傾注すべきではないかと考えるが、政府の見解を問う。

七 二〇一〇年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議と核兵器禁止条約(NWC)について

 二〇一〇年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議において核兵器禁止条約(NWC)に言及した最終文書が全会一致で採択された背景は何か。アメリカのオバマ大統領の宣言が影響していると思われるが、政府はどのように認識・判断しているのか、改めて見解を問う。
 また、同会議の議長総括では「核兵器なき世界の実現に向けた政府や市民社会の新しい提案に留意する」ことに言及している。特に「市民社会の新しい提案に留意」については、私なりに理解するならば、同会議のカバクテュラン議長がNGO等に寄せたメッセージの中にある「人々が声を上げ団結していくならば、指導者も従うことになる」と重なり合う内容である。ここでいう指導者とは、ごく一般的な意味というよりも一国の政治的指導者と解すべきである。二十一世紀において、このような市民社会の動き、役割については積極的に歓迎すべきものである。政府としていかなる見解か。

八 核拡散防止と使用済み核燃料の再処理技術について

 核拡散防止を進めるにあたり、国際社会において国際原子力機関(IAEA)のプレゼンスは大きい。日本が使用済み核燃料の再処理技術を保持していることは、核拡散防止を進展させる上で一定の力、発言力の維持に繋がっているとの専門家等の指摘があるが、政府の見解を示されたい。

九 核兵器廃絶に向けたソフト的アプローチについて

 二〇一一年八月二十二日に私が提出した「核兵器廃絶に向けた我が国の取組に関する質問主意書」(第百七十七回国会質問第二六五号)の二については、以下のような趣旨であるので、これを踏まえて改めて質問する。
 国際社会において、我が国は唯一の被爆国である。このことが核兵器廃絶を訴える力になっていることは言うまでもない事実である。また、実際に国際社会を動かす一定の力になっていることも事実である。
 しかし、我が国が国際社会において、それをさらに動かす力(リーダーシップ)を発揮するためには、政府は使用済み核燃料の再処理技術の確保・維持のようなハード的なものを深く考えているようであるが、被爆国であることの「経験と教訓」を深く認識した上でのソフト的アプローチの視点から、いかなる力を創りだし、結集することができるのかについて、その手順等を含めて具体的に検討していくことが重要であると考えるが、政府の見解を問う。

  右質問する。