質問主意書

第177回国会(常会)

質問主意書


質問第二六五号

核兵器廃絶に向けた我が国の取組に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十三年八月二十二日

加 藤 修 一   


       参議院議長 西 岡 武 夫 殿



   核兵器廃絶に向けた我が国の取組に関する質問主意書

 広島・長崎に原爆を投下された我が国は唯一の被爆国である。原爆(核分裂反応)を経験したばかりか、ビキニ環礁での水爆実験(核融合反応)で発生した死の灰によって被爆した第五福竜丸事件をも経験している。
 我が国はこれらの戦時型核エネルギーによる被爆を直接的に三度も経験しただけでなく、もんじゅのナトリウム漏れ事故、JCO事故、今回の東京電力福島第一原子力発電所事故などの原子力災害も経験しており、こうした核エネルギー等の平和的利用の途上での受難の歴史も、国際社会において稀有のことといえる。
 そこで、以下質問する。

一 唯一の被爆国である我が国の今後の取組について

1 我が国は、特に核兵器の非人間性と残虐性を世界に訴えるとともに、核兵器廃絶に向けたリーダーシップを発揮すべきである。そこで、核兵器の使用は如何なる理由があっても許されない「絶対悪」との思想に基づき、断固たる決意で核兵器の廃絶を推進すべきであると考えるが、政府の見解を問う。
2 我が国は、前文で述べた経験と教訓を踏まえて、国際社会に対する発言力をより一層強化することが重要である。これに関し我が国は、外交上、世界を先導できる「力」があると確信すべきであり、これらを十分に駆使すべきとの見方がある。私も同様の思いであるが、政府の見解を問う。
3 2の「力」の行使に当たっては、戦略的、体系的に「日本の経験と教訓」を世界に知らしめることが効果的であることは言うまでもない。例えばICT(情報通信技術)を駆使して、サイバー空間「広島と長崎の被ばく経験と教訓」を構築し、燃えて尽きる人間の姿などを視覚化することにより、人間が人間に対してかくも残虐になれるかを示すことも時には重要なやり方であると考える。このような手法について、政府の見解を問う。
4 3の視覚化したデータベースを各国に贈呈するプロジェクトも必要ではないか。この「視覚化データベース贈呈プロジェクト」で贈呈するデータベースには、従来のアナログデータも使用するが、爆心地の高温・高圧下での人間の被害状況、放射性物質が人体に与える急性健康被害、晩発性健康被害、子どもへの影響など、種々のシミュレーション分析をCGなどを駆使して視覚化した内容を含むものである。もとより、従来のアナログデータだけで真実は尽きるが、CGなどを駆使したこのような試みは効果的な展開方法の一つであると考える。このような手法について、政府の見解を問う。

二 核兵器廃絶に向けたソフト的アプローチについて

 国際社会において、我が国は唯一の被爆国である。このことが核兵器廃絶を訴える力になっていることは言うまでもない事実である。また、実際に国際社会を動かす一定の力になっていることも事実である。
 しかし、我が国が国際社会において、それをさらに動かす力(リーダーシップ)を発揮するためには、核燃料の再処理技術の確保・維持のようなハード的なものだけではなく、ソフト的アプローチの視点から、いかなる力を創りだし、結集することができるのかについて、その手順等を含めて具体的に検討していくことが重要であると考えるが、政府の見解を問う。

三 核兵器廃絶に向けた環境醸成のための多面的アプローチについて

1 国際社会における諸国間の状況は、誠に厳しいものがある。紛争やテロ、暴力の連鎖が絶えず、さらに、不安定な世界の安全保障、地球環境の悪化、世界経済の低迷など、難題が山積している。
 貧困、抑圧、差別、飢饉などの経済的・社会的に不正常な状態は「構造的暴力」と言われるが、これを提唱したのは、ノルウェーのヨハン・ガルトゥング博士である。
 彼は、平和=戦争のない状態と捉える「消極的平和」の考え方に加えて、貧困、抑圧、差別などの「構造的暴力」がない「積極的平和」を提起し、平和の理解に画期的な転換をもたらした。一九五九年に、オスロ国際平和研究所(PRIO)を創設し、ヨーロッパの平和研究を主導してきた。
 今や彼の主張する「構造的暴力」が、世界に蔓延しており、これこそが、紛争や戦争を引き起こす要因である。であるならば、この「構造的暴力」から人間を解放する「人間の安全保障」への貢献こそが我が国の進むべき一つの方向であると考える。
 我が国は、「人間の安全保障」に特別の思いで取り組んできたところであり、公明党は党の理念に則り、これを大きく推進してきたところである。「人間の安全保障」への貢献について、政府の見解を問う。
2 「構造的暴力」が不信を増幅し、反目を再生産している。不信を信頼に、反目を理解に変えるためには、地道な取組が必要である。そのために、国際社会における①「対話」、②「文化交流」、③「青少年交流」の拡大に力を注ぐべきである。
 このような指摘をする人は少なくないと思われるが、我が国は、多面的に多くの努力を傾注してきているものと思う。
 ①、②、③に関して政府は、如何なる具体的な行動、予算措置等を行っているか。最近、五年程度の政府の取組について明らかにされたい。
 また、特に未来世代の役割を考えると③の「青少年交流」の拡大は、大きな重みを持つものであると考えるが、政府の見解を問う。
3 ③の「青少年交流」は、極めて重要な交流である。この点については、日本の教育制度を抜本的に改革する必要がある。例えば、大学生活の四年間のうち、一年間は海外で生活することを必須化することや、高校においても交換留学を推進することが必要である。また、「構造的暴力」の撲滅や持続可能な開発に向けて、毎年十万人の学生や企業の従業員を最低一年間海外に送り出す国家プロジェクトを策定することも必要である。このことは二十年先、三十年先において有力な人材を輩出することになると考える。政府の見解如何。
4 ソフト的アプローチの一つの方法として、①「対話」、②「文化交流」、③「青少年交流」の拡大などを進める一方、一般の生活における知恵や中小・ベンチャー企業が有する平和的技術やノウハウなどについて、途上国等への移転を進めることが重要である。
 例えば、IRENA(国際再生可能エネルギー機関)等諸機関への関与の強化・拡充を進めることにより、途上国に対する再生可能エネルギーの技術移転を進めることは、森林伐採などを押しとどめ、環境劣化などからもたらされる負の循環を細くすることに繋がる。
 さらに、貧困等の拡大を未然に防ぐことにもなる。貧困撲滅等に貢献することは、一定の「構造的暴力」を減少させることであり、結果として我が国の信頼を勝ち取ることになる。従って、それが外交力の強化・拡充にも繋がり、国際社会における発信力を増すことになる。
 これらを結集することが、核拡散防止条約再検討会議の日本開催への一定の貢献になりうると考えるが、政府の見解を問う。

四 核兵器廃絶宣言都市への支援について

 核兵器廃絶などを宣言している市町村の数はどの程度あるのか、また、その数は現在定常状態なのか、政府の把握しているところを明らかにされたい。核兵器廃絶などを宣言する市町村が増加することも核兵器廃絶の推進にとって重要であり、核兵器廃絶などを宣言する市町村に対して、政府から何らかの支援措置があってしかるべきである。このような支援措置を含め、核兵器廃絶の推進に向けた様々な環境を醸成していくことが必要であると考えるが、政府の見解を問う。

五 核兵器廃絶に向けた署名運動について

 非核三原則の徹底、核兵器廃絶に向けた学校教育の推進、国民との対話の中で、核兵器廃絶に向けた一大国民署名運動を推進すること、場合によっては他国にも呼びかけて国際社会に署名運動を拡大することも重要なアプローチであり、検討に値するものと考える。このような署名運動の推進・拡大について、政府の見解を問う。

  右質問する。