質問主意書

第177回国会(常会)

質問主意書


質問第一七〇号

歪んだ政治主導による「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案」と賦課金負担軽減策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十三年五月三十日

浜田 昌良   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   歪んだ政治主導による「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案」と賦課金負担軽減策に関する質問主意書

 菅政権は、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案」(以下「本法案」という。)の閣議決定を東日本大震災の当日、三月十一日に行った。本法案に対しては、三月九日に開催した公明党経済産業部会において、電力多消費業種である普通電炉業界、特殊鋼業界、鋳造業界及びソーダ業界から、本法律がそれぞれの産業の経営・雇用に及ぼす影響が甚大であることから法律の枠内での負担軽減策を設けることに対する強い要望及び意見が寄せられていたにもかかわらず、本法案はその声を無視した内容となっている。
 また、菅総理大臣は五月二十六日、フランスでの主要国首脳会議(G8サミット)において、再生可能エネルギーによる発電割合を「二〇二〇年代のできるだけ早い時期に、少なくとも二十パーセントを超える水準」にすることを表明したと伝えられている。もとより再生可能エネルギーによる発電比率の引上げ自体は重要であるが、このような目標の変更、さらには、この度の東日本大震災及び原子力発電所事故により予想される電気料金自体の引上げが、本法案により導入を目指す再生可能エネルギーの固定価格買取制度にどのような影響を及ぼすのかが全く明らかにされておらず、国民からは自らの電気料金負担に直結することであるが故に、当該制度導入の前提条件の明示を求める声がある。加えて、枝野官房長官が東京電力の「送発電分離」に唐突に言及している。
 このような本法案の審議の前提条件に大きく影響を与えることを次々に公表・言及しながらも、その詳細を全く明らかにしないまま、本法案の審議に入ろうとする民主党・菅政権の現状は国民には「歪んだ政治主導」と受け止められている。
 そこで、以下質問する。

一 ドイツの再生可能エネルギーによる電気の固定価格買取制度においては、電気使用原単位が高く、電気使用量がきわめて大きな事業者に対しては、電力料金の賦課金に対し、八十八パーセントから九十八パーセントの負担軽減措置が行われている。ドイツでの軽減措置の基準である、①総付加価値中の電力コスト十五パーセント以上及び②年間電力消費量十ギガワット時以上を我が国企業に当てはめた場合の該当企業数及びその業種構成(少なくとも、電炉業、鋳造業、苛性ソーダ業、その他製造業、鉄道業、その他産業等に区分されたい)はどのようになると推計されるか。算定の根拠とともに示されたい。このような軽減措置は従来から要望されていたにもかかわらず、もし推計できないというのであれば、なぜ今まで推計してこなかったのかについてその理由を明らかにされたい。

二 一で推計した企業に対し、ドイツと同様に、賦課金の八十八パーセントから九十八パーセントの負担軽減措置を実施した場合、制度導入十年後のピーク時においてどの程度の軽減額になると推計されるか。総額及び一の業種区分ごとに明らかにされたい。また、これらの軽減額は賦課金総額に対し、どの程度の構成比になると推計されるか、一の業種区分ごとに明らかにされたい。なお、推計に当たっては、経済産業省が昨年七月二十三日に発表した中間とりまとめベースのオプション四の系統安定対策を含まないベース及び含むベースでそれぞれ計算されたい。このような軽減措置は従来から要望されていたにもかかわらず、もし推計できないというのであれば、なぜ今まで推計してこなかったのかについてその理由を明らかにされたい。

三 二の軽減額を他の電力需要家に上乗せした場合、制度導入十年後のピーク時の賦課金額〇・五〇円/キロワット時がどの程度上昇し、一般家庭の負担がどの程度増加すると推計されるか。計算根拠とともに明らかにされたい。

四 二の軽減額を毎年度、エネルギー特別会計から、本法案に規定する「費用負担調整機関」に対して予算措置を講じ、当該「費用負担調整機関」から電気事業者がその軽減した賦課金に相当する金額を受領することにした場合、法制上どのような問題点があるのか。

五 デンマークにおいても再生可能エネルギーによる電気の固定価格買取制度において電気使用量のきわめて大きな事業者に対する負担軽減措置を導入していると聞くが、その制度の概要(対象業種、対象企業数、全体に占める軽減額の比率など)について政府の把握しているところを明らかにされたい。

六 三月九日の公明党経済産業部会において、細野資源エネルギー庁長官から、「一部の業種・企業に軽減策を実施すると収拾がつかなくなるので実施できない。」との説明があったが、何故、ドイツやデンマークでは軽減策が実施できて、我が国では「収拾がつかなくなる」のか。どのような者からどのような意見が出てきて収拾がつかなくなるのか、具体的に明らかにされたい。

七 産業界の強い要望がありながらも四のとおりの負担軽減方式を検討しなかった理由として、経済産業省は、「民主党の方針として、再生可能エネルギーの振興に予算を投入しないことを原則としている」ことをあげている。このような一片の原則で産業界の要望及び意見を無視することは、歪んだ政治主導であり、結果として、我が国の産業競争力を大きく損ない、「雇用が第一」を標榜する菅政権の方針と大きく矛盾すると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

八 そもそも、制度導入後十年から二十年にわたる電気料金の賦課制度を根本とする再生可能エネルギーの固定価格買取制度の検討に当たっての前提条件が、東日本大震災及び原子力発電所事故により、大きく変容していると国民は感じている。今回の震災及び事故により、今後中期的な電気料金の見通し等の前提条件はどのように変わったのか。本法案を審議する前提として当然試算されているべきものであり、国民にわかる形で明らかにされたい。

九 菅総理大臣が五月二十六日にフランスで発表した再生可能エネルギーによる発電割合の将来目標について、太陽光、風力、地熱、小水力、バイオマスなど、再生可能エネルギー源別に明らかにされたい。また、当該目標の変更により、経済産業省が今まで国民に説明してきた「制度導入十年後のピーク時の賦課金額〇・五〇円/キロワット時」、「住宅用太陽電池からの電気は全量買取ではなく余剰買取とする」及び「多額な系統安定対策は行わない範囲とする」といった前提条件はどのように変わるのか。本法案を審議する前提として当然試算・検討されているべきものであり、国民にわかる形で明らかにされたい。

十 枝野官房長官が東京電力の「送発電分離」に言及しているが、再生可能エネルギーの固定価格買取制度は、制度導入後十年から二十年にわたる電気料金の賦課制度を根本とするものであり、電気事業者の「送発電の分離」は大きく影響を与える問題である。政府が「送発電分離」を東京電力に限って検討するのか、それとも他の電気事業者を含めて検討するのかを含め、本法案を審議する前提として、その基本的考え方及び再生可能エネルギーの固定価格買取制度に与える影響については当然明示されるべきものであり、国民にわかる形で明らかにされたい。

  右質問する。