質問主意書

第177回国会(常会)

質問主意書


質問第一六九号

東京電力福島第一原子力発電所の原子力災害に関する再質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十三年五月三十日

礒崎 陽輔   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   東京電力福島第一原子力発電所の原子力災害に関する再質問主意書

 「東京電力福島第一原子力発電所の原子力災害に関する質問主意書」(平成二十三年五月十日提出、質問第一四七号。以下単に「質問主意書」という。)に対し、政府から答弁書(平成二十三年五月二十四日内閣参質一七七第一四七号。以下単に「答弁書」という。)の提出があったところであるが、答弁漏れその他追加してただすことが必要な点があるので、以下のとおり再質問する。

一 三月十一日における初動対応について

1 答弁書「一について」においては、政府の対応について、原子力災害対策関係の組織の設置や住民の避難に関する措置しか言及されていない。質問主意書一の1で質問した当該期間及びそれに近接する期間における原子炉に関する措置について、政府は全く指示や調整を行っていなかったと理解していいか。そうでないのであれば、当該質問の趣旨に添って、きちんと再回答してほしい。
2 質問主意書一の2については、全くの答弁漏れであると考える。東京電力は電源車の派遣等を行っていたはずであり、きちんと再回答してほしい。

二 三月十二日におけるベントの実施について

1 答弁書「二の5について」によれば、三月十二日一時三十分頃のベントについての菅内閣総理大臣の了承から同日十時十七分のベントの実施まで九時間近く経過しているが、その理由の説明としては、不十分である。菅総理の了承から実施まで九時間近くも要した理由をもう少し具体的かつ時系列的に、丁寧に回答してほしい。
2 答弁書「二の5について」において、東京電力から「放射線量の高い区域で作業をせざるを得なかったため、一定の時間がかかった」と聞いていると記述されているが、原子力安全・保安院の職員から、高い放射線量の存在は空気操作弁に関する操作に着手した時点で覚知したものと聞いている。それは、何時何分頃のことか。また、高い放射線量の存在は空気操作弁に関する操作に着手した時点で覚知したのであれば、答弁書の記述は当該時刻までの対応の遅れの理由にならないと考えるが、どうか。
3 答弁書「二の6について」に関し、空気操作弁を作動させるための圧縮空気を確保するために要した時間はどれくらいだったのか。確保のための活動に着手した時刻(何時何分頃)及び現地に圧縮空気が到着した時刻(何時何分頃)を明確に示してほしい。
4 九時十五分にもベントの操作を行ったという報道があるが、当該時刻にはどの弁に対してどのような操作をしたのか。また、同時刻前には、ベントの操作は、全く行っていないと理解していいか。もし、何らかの操作を行っているのであれば、具体的に明らかにしてほしい。
5 答弁書「二の7について」に関し、細野内閣総理大臣補佐官は、四月二十五日の夕刻、統合対策本部の記者会見で、「政府としては、『東京電力は腹を決めてベントをやるつもりだ』という共通認識に立っていた。ただ、なかなかベントが行われないということで、朝方六時五十分に命令に切り替えた。」と述べた上で、「東京電力という会社自体は、非常に電力を供給するというルーティーンワークに非常に慣れた会社であって、何か大きな判断をするということが、若干やりにくい社風だったのかなぁ。」と東京電力を批判している。この「東京電力は、大きな判断をすることがやりにくい。」という文脈で細野補佐官が言いたかったことを明確に説明してほしい。

三 三月十二日における海水注入の実施について

1 答弁書「三の1について」において、「水素爆発」を海水注入が遅れた原因と指摘しているが、淡水注入は三月十二日十四時五十三分に停止しており、それに引き続いて海水注入を行うことはできなかったのか、具体的な状況を明らかにしてほしい。
2 答弁書「三の2について」に関し、五月二日の参議院予算委員会では、海江田経済産業大臣が、「そうしますと、この真水での注入が終わってまいりますとまさにもう水で冷却をする手法がなくなりますから、そこで一刻も早くこれは真水が駄目なら海水で注入をしなければいけないということを、まさにこの十四時五十三分が終わってからずっともう議論、そして度重なる指示をやっておりまして、そして最後に、先ほどお話をしたように十八時に、総理からの指示もあり、私が保安院に対して指示文書の準備をするよう指示をしたところであります。そうしましたところ、十九時〇四分に、これは私どもの資料でございますが、一旦東京電力が福島第一原子力発電所の一号機の海水注入試験です、試験の注入をこれを開始をして、そしてこれが十九時二十五分に停止をしました。ですから、二十分間ぐらい試験をやりましたけど、停止をしました。そして、時刻は刻一刻と過ぎていきますので、再度重ねて総理からの本格的な注水をやれということで、そこで私が、先ほど答弁をしましたように二十時〇五分、これで原子炉等規制法の第六十四条三項の規定に基づいて、福島第一原子力発電所の一号機の原子炉容器の健全性を確保することをこれは命令したと。」と答弁している。
(1) 質問主意書三の2の「菅総理が、淡水注入の停止を知ったのは、何時何分頃か。」という質問に対しては、明らかな答弁漏れであるので、きちんと再回答してほしい。
(2) 報道(五月二十五日付け産経新聞朝刊一面等)によると、東京電力は、十五時二十分頃海水注入の実施をファクスで原子力安全・保安院に報告したとされているが、事実を確認してほしい。それが事実であり、原子力災害対策本部長である菅総理にそのことの連絡がなかったとすれば、官邸の危機管理態勢が完全にまひしていたと考えるがどうか。
(3) 海江田大臣は、淡水注入の停止及び海水の「試験注入」の実施について、前記委員会答弁から知っていたことが窺われるが、報告を受けていたと考えていいか。報告を受けていたのならば、海江田大臣が知っていることを、なぜ菅総理は知らなかったのか。
(4) 菅総理は、五月二十三日の衆議院東日本大震災復興特別委員会で、「十八時に総理大臣の指示と書いてあるのは、海水注入はすべきだと、それに当たってですね、必要なことについて検討してほしいと指示した。」と答弁しているが、前記の海江田大臣の委員会答弁では「十八時に、総理からの指示もあり、私が保安院に対して指示文書の準備をするよう指示をしたところであります。」となっている。「指示文書」とは当然海水注入の指示文書のことであり、矛盾していると考えるが、両答弁の関係を説明してほしい。
(5) 菅総理は、五月二十三日の衆議院東日本大震災復興特別委員会で、「海水注入については、あの当時、私なり、官房長官、副長官のところには報告が上がっておりませんでしたので、当然ながら報告が上がっていないものをやめろとか、やめるなとか言うはずもありません。」と答弁しているが、前記の海江田大臣の委員会答弁では「時刻は刻一刻と過ぎていきますので、再度重ねて総理からの本格的な注水をやれということで」となっている。海水注入を聞いていないのに「本格的な注水をやれ」と言うのは矛盾していると考えるが、両答弁の関係を説明してほしい。
(6) 海江田大臣は、十九時四分からの海水注入について、「試験注入」と言っているが、何を「試験」したのか。「試験」をした結果何が分かったのか。「試験」をした結果問題がないのであれば、なぜ海水注入の中断を黙認したのか。「試験注入」という言葉は、誰が最初に用いたのか。「試験注入」というのは、後から考えた作り事ではないのか。
(7) 五月二十六日の東京電力の記者会見によると、十八時五分に政府から指示があり、十九時四分に海水注入を開始したということであるが、この政府の指示は誰がしたのか。
(8) 報道(同前)によると、東京電力は五月二十一日に「官邸が『海水を注入すると再臨界の危険がある』としたので政府の判断を待った」と説明していたとあるが、これは、菅総理の指示があったかなかったかは別にして、東京電力本社の判断としてこのようなことがあったのか、事実を確認してほしい。
(9) 報道(時事通信社)によると、海水注入の開始二十分後、武黒一郎東電フェロー側から「首相の了解が得られていない。」と東京電力本社や福島第一原子力発電所に連絡があり、東京電力は、「最終的な責任を負う首相が了解していない状況で、注水を継続すべきではない。」と判断して海水注入の中止を決定したとあるが、東京電力本社の判断としてこのようなことがあったのか、事実を確認してほしい。
(10) 報道(同前)によると、福島第一原子力発電所の吉田昌郎所長が、(9)の本社の決定にもかかわらず、自分の判断で海水注入を続けたとされているが、事実を確認してほしい。事実であれば、前記の海江田大臣の委員会答弁は、虚偽であったことになるが、そうした答弁をした経緯を説明してほしい。また、事実を把握していなかったことについて、担当大臣としてどのように責任を感じているか。
(11) 菅総理が、十九時四分からの海水注入について知ったのは、何時何分頃か。その時に、菅総理が聞いていないと「不快感を示した」というのは、事実ではないのか。
(12) 答弁書「三の2について」によれば、東京電力から連絡がなく、淡水注入の停止時刻を菅総理は知らなかったようであるが、淡水停止後直ちに海水注入をしなかったことにより十五時三十分過ぎの水素爆発につながったのではないか。このことについての政府の責任をどのように考えているのか。

四 福島第一原子力発電所二号機及び三号機への対処について

1 東京電力清水正孝代表取締役社長は、五月二日の参議院予算委員会で、「隔離時冷却系が起動しており、それが停止するまではその機能を維持し、その機能が停止してから淡水を入れ始め、海水に切り替えた。」という趣旨の答弁をしているが、隔離時冷却系(三号機にあっては、五月二十三日に東京電力が原子力安全・保安院に提出した資料では、高圧注水系)が起動しているうちに、ベントを行い、淡水又は海水を注入すべきであったと考えるが、政府の考えはどうか。また、その遅れが、二号機の格納容器の破損や三号機の水素爆発につながったものと考えるが、どうか。
2 五月二十三日に東京電力が原子力安全・保安院に提出した資料では、二号機において、隔離時冷却系が三日近く起動していたことになっている。バッテリー容量を考えるとあり得ないと考えるが、どうか。原子炉の冷却状況の判断について、東京電力に混乱があったとは、考えられないか。

五 政府の責任について

 三月十一日十九時過ぎに、原子力災害対策特別措置法(平成十一年法律第百五十六号)に基づき、原子力緊急事態宣言を行い、政府に原子力災害対策本部を設置して以降は、当該災害に係る原子炉に関する措置については、一次的には東京電力が責任を負うものの、同法第四条の規定の趣旨に鑑み、全て政府が最終的な責任を負うものと考えるが、政府の見解はどうか。

  右質問する。