質問主意書

第177回国会(常会)

質問主意書


質問第一三七号

建設現場の足場からの墜落事故に関する再質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十三年五月二日

岩城 光英   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   建設現場の足場からの墜落事故に関する再質問主意書

 去る二月四日、「建設現場の足場からの墜落事故に関する質問主意書」(以下単に「質問主意書」という。)に対する答弁書(内閣参質一七七第二一号。以下単に「答弁書」という。)を菅直人内閣総理大臣から受領したところであるが、なお納得できない点があるので、以下のとおり質問する。

一 質問主意書において、「最新の数字によると平成二十二年は百三十九件の足場からの墜落・転落による死亡事故が発生」と指摘したところ、答弁書において、「御指摘の「百三十九」という数値は、足場からの墜落・転落災害による死亡者数ではなく、建設業における墜落・転落災害による死亡者数である」との答弁があった。しかし、「足場からの」という言葉を狭義に捉えるならば、確かに「実際に設置されている足場からの」ということになるが、ここで問題なのは、本来、足場が設置されていなければならないにもかかわらず足場が設置されていない建設現場が存在していることであり、政府の答弁はその認識が欠落していると言わざるを得ない。そのような政府の認識が「高さが二メートル以上の箇所(略)で作業を行なう場合において(略)は、足場を組み立てる等の方法により作業床を設けなければならない」とする労働安全衛生規則(以下「安衛則」という。)第五百十八条の違反を放置することにつながっているのではないか。
 また、平成二十二年に入り死亡災害が急増したことを踏まえ、同年九月六日、厚生労働省労働基準局長から関係団体に対し「死亡災害の増加に対応した労働災害防止対策の徹底について」と題する緊急要請が行われたが、当該緊急要請の中の「建設業における墜落・転落災害の防止対策」では、あえて安衛則第五百十八条の条文を引用し墜落・転落災害防止措置の徹底を要請している。これは明らかに安衛則第五百十八条違反の現場が多く、見逃すことができない状況にあることを物語っているのではないか。
 したがって、建設現場における労働者の実感に基づき、「足場からの」という言葉は広義に捉え、足場からの墜落・転落死亡事故は「百三十九件」と考えるべきであると思うが、政府の見解を示されたい。

二 答弁書によれば、民間工事での手すり先行工法の採用率が低いのは、「民間工事においては、一般に、工法の指定がなされず、施工業者が現場の実態に応じ、工法を選択している」からだという。しかし、ことは人命に関する事柄である。平成二十二年四月に発表された厚生労働省の「建設業における足場からの墜落防止措置の実施状況に係る調査結果」によれば、手すり先行工法の発注者別の採用状況は、わく組足場について、国が八十六パーセントであるのに対し民間はわずか二十パーセントに過ぎない。このまま放置すれば、建設労働者の安全確保についての、公共工事と民間工事との格差を政府自ら是認することにつながりかねない。官民問わず、建設労働者の安全確保は当然の義務であり、採用される工法も安全性の高いものでなければならないと考えるが、政府はどのように考えるのか。

三 厚生労働省の「足場からの墜落防止措置の効果検証・評価検討会」報告書(平成二十三年一月。以下単に「報告書」という。)の中には、安衛則に基づく墜落防止措置だけでは防止できない墜落事故の概要が掲載されている。例えば、以下の事例がそうである。

①不安全行動等はない状態で転倒し、手すり枠の中さん(高さ四十センチメートル)の下から墜落した事例である。床から四十センチメートルの隙間があれば人間の体は容易にすり抜けてしまう。これを防止するためには幅木の設置が不可欠である。
 また、②足場上を小走りで移動した結果、足場板の段差につまずいて墜落した事例である。小走りで移動することは通常あり得る行動であり、これをもって「不安全行動」とするのかという認識の違いはあるが、仮に「不安全行動」であったとしても、つまずいて墜落しないようにしておくべきは当然であり、そのためには幅木の設置が不可欠である。
 こういった事例が現にありながら、安衛則を改正して幅木の設置を義務付ける必要はないとしてこのまま放置するならば、同様の墜落事故が頻発することは必至であり、いたずらに死傷者を増やすだけとなる。それでも政府は、報告書の中の「総括評価」にあるように「直ちにその(安衛則の)強化を図る必要はな」いとの認識に留まるのか。留まるのであれば、その理由を示されたい。

四 安衛則第五百六十四条第一項第四号は足場の最上層で足場の組立・解体等の作業を行うときに講ずべき措置として安全帯の使用を義務付けているが、そもそも安全帯の使用に当たっては、「「安全帯の正しい使い方」パンフレット」(平成十八年十一月二十一日付け厚生労働省労働基準局安全衛生部主任中央産業安全専門官事務連絡にて都道府県労働局労働基準部安全主務課長に参考送付)に基づき、安全帯のフックはベルトより高い位置に取り付けるべきである。ところが、足場の最上層には、当然ながらその位置に安全帯のフックを取り付けるべき物は何もない。つまり、最上層での足場の組立・解体等の作業は墜落・転落と隣り合わせである。こうした観点に立って報告書を見たとき、組立・解体時における足場の最上層からの墜落・転落災害件数九十件中、安全帯の使用等安衛則第五百六十四条第一項第四号に基づく措置を実施していたものは僅か六件であるのに対し、墜落防止措置を全く実施していなかったものは八十一・一パーセント、七十三件にも上っている。この事実は、安全帯に代わるべき措置が必要であり、そういう措置として「足場等からの墜落等に係る労働災害防止対策の徹底について」(平成二十一年四月二十四日付け厚生労働省労働基準局安全衛生部長通達)にいう手すり先行工法を実施していれば墜落・転落災害は起きなかったものと考えるが、政府はどのように評価するのか。
 また、報告書は、二で指摘した厚生労働省の調査結果として、手すり先行工法の採用率が三十一パーセントであった旨を引用しているが、わざわざ手すり先行工法に言及しながら、足場からの墜落・転落災害総件数四百四件について、もし手すり先行工法が実施されていれば、墜落・転落事故の何件かは未然に防げたのではないかという分析視点が全く欠けていると言わざるを得ない。政府はこの点を、どのように考えているのか。

五 平成二十三年一月七日現在の速報値によれば、平成二十二年の建設業の墜落・転落死亡事故は百五十五件となっており、前年同期に比べ二十五件も増加しているにもかかわらず、答弁書では、報告書の結論を踏まえ、「まずは、規則の遵守徹底を図ることが重要であると考えており、現時点において、御指摘の手すり先行工法の義務化や罰則の強化を行う必要はないと考えている」とされているが、この方針を急増した平成二十二年の墜落事故にそのまま適用することには、納得できない。
 一方、報告書では、手すり先行工法について、「「手すり据置き方式」や「手すり先行専用方式」の場合、結果として、安衛則第五百六十三条第一項第三号に基づく措置をも兼ねることとなるため、組立・解体時における最上層からの墜落・転落のみならず、通常作業時等における墜落・転落災害の防止にも効果が高いものであると考えられる」とされ、高く評価されている。また、同工法が極めて高い墜落防止効果を有していることは、平成二十二年十月十二日の衆議院予算委員会における、同工法を義務化している国土交通省の「今年に入ってから、国土交通省が発注した工事において、先生御指摘の手すり先行工法等に関するガイドラインに基づいて足場を設置する工事での墜落死亡事故は発生しておりません」との答弁からも明らかである。
 以上から、「足場からの墜落事故防止の決め手」は手すり先行工法であると考えるが、政府はどのように評価しているのか示されたい。また、手すり先行工法を早急に省令化すべきと考えるが、改めて政府の見解を示されたい。

  右質問する。