質問主意書

第177回国会(常会)

質問主意書


質問第一三五号

平成二十三年度税制改正案に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十三年四月二十七日

長谷川 岳   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   平成二十三年度税制改正案に関する質問主意書

一 税制改正案全般について

 すべての税制改正は、経済成長戦略が確立され、今後三年間、五年間の経済成長を前提とした上で、財政再建と社会福祉改革をセットにして行うべきだと考える。しかしながら、今回の税制改正案については、成長戦略なき税源あさりの場当たり策と言わざるを得ない。例えば、民主党政権は「国民の生活が第一」といいながら、相続税の課税強化、成年扶養控除の縮減などによって、国民の生活に深刻な打撃を与えるような政策を講じようとしている。このような理念なき税源あさりによって、さらに内需が縮小することになり、そうなれば、特に中小企業は、設備投資も雇用も先送りしてしまいかねない。このような状況で、法人税を下げたとしても、経済活性化にはつながらないと思われるが、政府の見解を示されたい。

二 法人税減税について

 中小企業庁によれば、現在、いわゆる中小企業は全国で二百六十万社あるということだが、このうち利益計上法人はわずか二十八・三パーセントにとどまるという。すなわち、法人税を三パーセント減税するとしても、この恩恵を受ける中小企業は四社に一社に過ぎない。また、私が住んでいる札幌市では、九割以上が中小企業という産業構造である。つまり、私の地元では、法人税減税によって恩恵を受ける企業はほとんどないということになる。それどころか、政府は減税の財源として、減価償却費の大幅圧縮を講じるなどとしており、実質的には増税になる恐れがある。こんな税制改正案では、経済の活性化どころか、地方の中小企業はますます経営が苦しくなると考えるが、政府は、中小企業を苦しめるためにこのような税制改正を行おうとしているのか、見解を示されたい。

三 雇用促進税制について

 政府は、一定の条件を満たす法人に対して、法人税額の二十パーセントを限度として当期中に増加した雇用保険の一般被保険者一人当たり二十万円の税額控除ができる雇用促進税制を創設しようとしているが、雇用促進が期待できると本当に考えているのか。
 企業が設備投資をしたり、従業員を増やしたりするのは、その後の経済成長が見込まれる時点で決定するのであって、たまたま増員がすでに決まっている企業がこの制度を利用するに過ぎず、この制度を目当てに増員するとは到底考えられないが、政府の見解を示されたい。

四 現場経理担当者の負担増加について

 法人税減税の一方、減価償却費の定率法の償却率をわずか二年ほどで圧縮したり、中小企業の主宰役員給与の損金不算入制度を廃止すると同時に、給与所得控除の千五百万円上限制度の導入や消費税免税事業要件を見直したりするなど、中小企業会計担当者の事務負担の増加に全く配慮がされていない。このような中小企業の現場の悲鳴について、政府の見解を示されたい。

五 社会保険料負担の軽減について

 中小企業がパートや派遣社員に頼る理由の一つに、正社員には給与のほかに社会保険料の企業負担がかかり、負担が重いということがある。現在、給与支給額の十二パーセントから十三パーセントの社会保険料の企業負担があるが、これが正社員を雇用しない大きな理由である。したがって、減税をするよりも、むしろ企業が負担する社会保険料負担の軽減を図る必要があると考える。菅首相は雇用の増大を第一に考えると明言しているが、雇用の増大に資するためには、法人税の減税よりも、社会保険料負担の軽減策を考えるべきだと思われる。政府の見解を示されたい。

六 地域活性化について

 現在、地価が減損し、中小企業では多額の含み損失を内包している。しかし、固定資産税は全く下がらず、固定資産税負担の軽減を図る必要がある。また、建物評価についても再調達価格を前提として課税され、中小企業にとって重い税負担となっている。地域の活性化のためには、中小企業の固定資産税や、いわゆる償却資産税の負担の軽減を図る必要がある。菅内閣による税制改正案では、地域活性化に資することはないと考える。地域活性化のために、真に必要な税制とは何か、政府の見解を示されたい。

七 ペイアズユーゴー原則について

 財政健全化を目指す上で、重要な考え方の一つに、ペイアズユーゴー原則がある。すなわち、歳出増又は歳入減を伴う施策の新たな導入・拡充を行う際は、原則として、恒久的な歳出削減又は恒久的な歳入確保措置により、それに見合う安定的な財源を確保することを求めるものである。これは、菅内閣が昨年六月二十二日に閣議決定した「財政運営戦略」に明記されている。
 それにもかかわらず、閣議決定からたった半年後の本年一月二十一日の「平成二十三年度における財政運営戦略の進捗状況の検証」において、法人税減税に関し、「「ペイアズユーゴー原則」との関係では今回の税制改正による財源の確保は十分ではありません」と書かれている。閣議決定された原則を、たった半年でころころ変えてもいいのか、政府の見解を示されたい。

八 子ども手当の財源としての増税措置について

 昨年度、子ども手当の捻出のために十六歳未満の扶養控除が廃止された。この点につき、国民に全く理解されていない。政府による周知が不十分で、本年一月からの源泉徴収額の変更により初めて知った人が多いと聞くがこんなことが許されるのか、政府の見解を示されたい。
 バラマキ政策を講じた結果、その財源確保のために、国民に十分な周知をすることなく増税措置を講じることは、民主主義を軽視するものであり、不当と考える。その上、今年になってから、さらに成年扶養控除まで縮減しようとしている。国民生活に悪影響を及ぼす政策はただちに廃止し、本当に必要な政策は何かを真剣に議論する必要があると考えるが、その点につき政府の見解を示されたい。

九 理念なき税制改正について

 今後数年間の経済成長率を何パーセントと見込んで、税収がどの程度となるのかや、また税収不足、税収オーバーをどのように見込み、税収が見込みをオーバーした場合にその使途についてどのような歯止めをかけておくか等、今後の基本的な税体系やその考え方が全く見えない。理念の全く見えない税制は、国民の信頼を得ることができない。国民の信頼が得られない税金など、徴収する権利はないと考えるが、政府の見解を示されたい。なお、我々自民党は、このような税制改正案に断固として反対である。

十 現場の声に耳を傾ける必要性について

 私の地元では、中小企業の指導を行う事業などが活発に行われている。例えば、経済産業省による「創業塾」は、これまで長年の間、商工会議所や商工会、北海道等で開催され、かなりの受講者がいる。しかし、この事業にかかる予算が、行政事業レビューで廃止された。これによって、今後この事業は、期間をこれまでの十日間から六日間に短縮し、受講料を三倍にするなどして対応するという。やる気のある若者を指導するために設けられたこの事業は、現在も非常にニーズが高いものであり、これを廃止することは不当と考える。政府は、事業仕分けの前に、現場の声にもっと耳を傾けるべきだと考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。