質問主意書

第177回国会(常会)

質問主意書


質問第四〇号

公的年金給付と児童扶養手当の併給調整についての検討の後退に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十三年二月三日

浜田 昌良   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   公的年金給付と児童扶養手当の併給調整についての検討の後退に関する質問主意書

 第百七十四回国会において、「児童扶養手当法の一部を改正する法律」が成立し、児童扶養手当(児童一人の場合、全部支給で月額四万千七百二十円)について父子家庭の父を支給対象とする措置を講ずることとなった。その審議の過程において、父母の死亡等により祖父母が保護者として孫を養育する場合の公的年金給付と児童扶養手当の併給調整の制限の見直しについて議論が行われた。
 当時の長妻厚生労働大臣は「引き続きその問題については検討を進めてまいりたいと思います。」と答弁している。また、この問題について、参議院厚生労働委員会の「児童扶養手当法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」(平成二十二年五月二十五日)は、「公的年金と児童扶養手当それぞれの趣旨を踏まえつつ、その在り方について検討すること」を政府に求めている。
 国民年金法第一条は「国民年金制度は(略)老齢(略)によって国民生活の安定がそこなわれることを(略)防止し、もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする。」と明記し、公的年金給付が所得保障施策であることを明らかにしている。一方、児童扶養手当法第一条は「児童の福祉の増進を図ることを目的とする。」と明記し、児童扶養手当が児童の福祉増進のための施策であることが示されている。両法律の目的は、それぞれ所得保障と児童の福祉増進であり、明らかに制度目的が異なっている。
 そこで以下、公的年金給付と児童扶養手当の併給調整について質問する。

一 総務省行政評価局長から厚生労働省雇用均等・児童家庭局長に対する「児童扶養手当における公的年金との併給制限の見直し等(あっせん)」(総評相第八十四号平成十三年八月三日)において、総務省は「児童扶養手当も老齢年金等も所得の保障という性格を有する点で同一であるとしても、同手当は児童を養育する世帯の所得能力の低下又は喪失に対して支給されるのに対し、老齢年金等は加入者の老齢による所得能力の低下又は喪失に対して支給されるもので、支給の趣旨・目的は異なるものである。」との見解を示している。
 総務省が厚生労働省に出した当該あっせんは、老齢年金等の公的年金給付と児童扶養手当の支給の趣旨・目的が異なるものであるとの考え方に基づくものと理解されるが、政府としての見解如何。

二 昭和六十年五月二十八日の参議院社会労働委員会において、厚生省児童家庭局長は児童扶養手当について「母子家庭に対する金銭給付ではあるが、これは母子家庭の自立を促進する、それを通して児童福祉の増進を図ってまいりたい。」と答弁し、昭和六十年の児童扶養手当法改正で「それらの趣旨をより明確にいたしました。」と述べている。当該改正によって、児童扶養手当の目的が公的年金給付の目的と異なることがより明確に示されたと理解するが、これに対する政府の見解如何。

三 厚生省児童家庭局長 翁久次郎著「児童扶養手当法・特別児童扶養手当等の支給に関する法律の解釈と運用」(昭和四十九年)の十二ページの十四行から十七行目にかけて「児童扶養手当は(略)児童に対して所得を保障する給付である。(略)この法律は、児童を中心に構成され、手当は、あくまで児童について支給されることになっており(略)生計主宰者の実質的不在に着目している。」と明記されている。一方、老齢年金等の公的年金は、高齢者に対して所得を保障する給付である。
 所得保障という「同一の性格」を有するとしても、児童扶養手当法を所管する担当部局の責任者が、その著書において、児童扶養手当の支給は児童のために行われるものであるとの認識を示していることから、児童扶養手当と公的年金給付は支給の対象者が異なり、「所得保障の二重給付」には該当しないと考えるが、政府の見解如何。

四 平成二十二年四月二十六日の参議院行政監視委員会において、厚生労働省雇用均等・児童家庭局長は公的年金給付と児童扶養手当が「所得保障という同一の性格を有する給付」であるとの認識を示している。当該認識と前記一から三までに記した従来の政府答弁・解釈とは明らかに相違していると考えられるが、従来の認識を変更したのか。変更したのであれば、それは併給調整の検討の後退を意味すると考えられるが、変更の理由は何か。また、両者を「同一の性格」というのであれば祖父母が保護者として孫を養育する場合、公的年金においても児童の福祉増進のために給付額を増額する仕組みが必要と考えるが、政府の見解如何。

五 参議院厚生労働委員会の附帯決議(平成二十二年五月二十五日)の「公的年金と児童扶養手当それぞれの趣旨」とは、公的年金は所得保障のための施策であり、児童扶養手当は児童の福祉増進のための施策であることを示していると考えるが、同附帯決議の「それぞれの趣旨」についての政府の見解如何。

六 我が国の総世帯数は四千九百五十六万六千三百五世帯(「平成十七年国勢調査」)、児童のいる世帯は約二十六%(「平成十九年国民生活基礎調査」第一巻第九十六表より)となっている。また、児童の保護者が祖父母である場合は全体の〇・一%との調査(「平成十六年度全国家庭児童調査」)もあることから、児童がいる世帯であって、祖父母が保護者となっている世帯は約一万二千世帯と推計される。このうち、祖父母が公的年金給付を受けていることによって、児童扶養手当の支給が行われない世帯、つまり併給調整を受けている世帯はどの程度あるのか。また、老齢福祉年金の受給者は、併せて児童扶養手当の支給を受けることができる。老齢福祉年金の受給により併給調整を受けていない世帯はどの程度あるのか。

七 老齢福祉年金と児童扶養手当の併給調整を行わない理由として、厚生労働省は、①低所得者のみを対象としていること(扶養親族がない場合の所得限度額百五十九・五万円)、②年金の水準自体が低いこと(月額約三・四万円)等を挙げている。老齢年金の受給者の中には、その受給額が、老齢福祉年金の受給者の受給額よりも低い者であって、所得が百五十九・五万円以下の者がいると考えられるが、その人数及び全体に占める比率を示されたい。
 老齢福祉年金受給者よりも所得も受給年金額も少ない老齢年金受給者には、併給調整が行われて児童扶養手当の支給を受けることができない。こうした現行制度は、年金受給額に着目した場合の整合性がとれていないと考えるが、政府の見解如何。

八 公的年金給付と児童扶養手当の併給調整の制限の見直しについて、参議院厚生労働委員会の附帯決議(平成二十二年五月二十五日)も「検討すること」を求めている。厚生労働省による恣意的な法解釈に委ねるのではなく、菅内閣として政治主導により、どのように検討していくのか。政府の今後の検討の進め方を国民が納得する形で明確にされたい。

  右質問する。