質問主意書

第176回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一七九号

汚水処理の推進に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十二年十二月二日

加藤 修一   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   汚水処理の推進に関する質問主意書

 平成二十三年度予算概算要求を見送った「地域再生基盤強化交付金」に替わって、新成長戦略の目玉政策として新たに創設した「総合特区制度」調整費についても、先の行政刷新会議による事業仕分けで「積算根拠がはっきりしない」として「予算計上見送り」の判定が下されたことに対し、汚水処理事業などを進める全国の地方自治体に混乱が広がっている。
 そこで、以下質問する。

一 認定地域再生計画の継続事業に対する代替措置と総合特区制度の基本方針について

 政府答弁書によれば、平成二十二年度までに認定された地域再生計画における平成二十三年度以降の残事業は、事業費ベースで三千六百五十億円、交付金ベースで千七百八十五億円(いずれも再生計画ベース)と試算されているが、この残事業にかかわる代替措置については「今後、予算編成過程で調整する」と答弁するのみで、具体的な代替措置が明示されていない。
 しかも、地域主権戦略大綱における配分に際し、「客観的指標」について明確にされていないことは、「自由度」という理念だけが先行し、都市と地方との格差の拡大や地方の切り捨てに繋がるのではないかと大変懸念している。
 そもそも、「道路」、「港湾」、「汚水処理」事業を効率的に行うための「地域再生基盤強化交付金」(平成二十二年度予算千三十四億円)が「総合特区制度」(平成二十三年度概算要求八百二十三億円)に減額して衣替えされることが理解できない。
 果たして八百億円程度で、国際戦略としてのハブ港整備やハブ空港化等を進めた上で、地方の「道路」、「港湾」、「汚水処理」等が進められるのか甚だ疑問である。
 また、地方自治体においても、平成二十三年度に向けた計画策定が差し迫っており、大変困惑しているのが現状である。
 平成二十三年度以降、地域再生基盤強化交付金を活用して「新規事業」を実施するために地域再生計画を策定していた市町村に対しては、どのような対応策を講ずる考えなのか見解如何。
 さらに、「総合特区制度」の内容及び継続事業に対する代替案を含め、基本指針を明らかにされたい。

二 下水道負債三十兆円と地方財政の健全化について

 平成二十一年度末のわが国の汚水処理人口普及率は八十五・七%であり、このうち、下水道だけで七十三・七%になる。
 また、全国の市町村など地方公営企業の平成二十一年度の企業債発行額の三兆十六億円のうち、下水道(三千六百三十三事業)が一兆六千七百二十四億円(五十五・七%)を占めるという。
 総務省の発表によれば、下水道債残高は旧国鉄債務に匹敵する三十一兆二千六百五十六億円に上り、報道によれば、平成二十一年度分を集計すると、原則どおりに経費を住民の使用料だけで賄えている市町村は一割しかないという(平成二十二年十月二十日付け毎日新聞)。
 下水道事業は人口減少と高齢化社会を迎える中で、計画時の予想より料金収入が伸び悩んだまま、経営難が深刻化しつつあり、今後、自治体財政をさらに圧迫することが想定される。
 例えば、長野県伊那市や和歌山市の下水道事業の場合、多額の累積赤字と企業債残高を抱え、使用料収入で完済するには五十年近くかかり、下水道料金の値上げや住民サービス低下の元凶になりつつあるとの報道もある。
 三十一兆二千六百五十六億円もの巨額の下水道債残高を抱え、九割近くが料金収入だけでは経費を賄えない地方公営企業の現状について、政府の認識と地方財政の健全化のあり方についての見解如何。

三 汚水処理のあり方と費用対効果について

 地域再生計画の中では、汚水処理施設の整備について総事業費、事業期間、処理人口等が定められることとなっている。内閣総理大臣がこれまで認定した地域再生計画の費用対効果の傾向をみるために、認定地域再生計画の計画段階でのデータを基に、下水道事業、農業集落排水事業及び浄化槽事業の各々の処理人口一人当たりの費用を明らかにされたい。
 なお、実際に事業を行う場合には、事業費が若干変動することが考えられるが、認定事業の性格上、大幅に変動することは考えにくいので、平成十七年度から二十二年度の間に認定された地域再生計画で、人口三万人以下、三万人から十万人、十万人以上の三つの市町村のサンプリングで示されたい。

四 人口減少社会における今後の汚水処理のあり方について

 人口集中地域から汚水処理施設整備が進められ、今や、生活排水処理施設の全国の水洗化率は人口普及率で八十五%を超えるまでになった。しかし未だ十五%の汚水未処理地域が存在する。
 即ちわが国には、中山間地域など人口散在地域を中心に二千万人弱(千九百三十四万人)の汚水未処理人口が存在し、一世帯三人で計算すると約六百五十万世帯がその恩恵に浴していない現実がある。
 しかし、日本の人口は二〇〇五年をピークに急激な人口減少社会へと向かっており、三十兆円にも上る多額の下水道負債や累積赤字を抱える一方、本来なら返済に充てるべき使用料収入は減少し、さらに、経年とともに多額の維持管理費用が増加するという板挟みの現実を迎えることになる。
 しかし、ほとんどの下水道計画は、人口が増加することを前提に作成されており、人口減少期を迎え、遠からず計画を大幅に下回る下水道が急増することが予測され、さらに、下水道負債や累積赤字が大幅に増加する事態が想定される。そのような事業に国民の血税を限りなく入れてよいものか。
 そこで、人口散在地域の汚水処理施設整備を進める場合、配管距離の長距離化、高齢化・人口減少による使用料収入の減少、経年による維持管理費用の増加など費用対効果の面から計画を進めることが重要であり、速やかな整備が可能である点からも、費用が安い点からも浄化槽や農業集落排水施設を整備することが望ましいと考える。
 生活排水を適正に処理できていない未整備地域を下水道で整備すれば約三十六兆円かかるが、浄化槽で整備すれば、その六分の一の六兆円の費用で、早期に水環境の保全を図ることができるとの試算もある。
 従って、四十年、五十年後には更新期に入る下水道事業を含む汚水処理事業にあっては、人口減を考慮した抜本的な整備計画を作成すべきであり、憲法に謳う「すべての国民の健康で文化的な生活の実現」のために、政治主導で取り組むことが必要である。
 そこで、人口減少社会における汚水処理のあり方についての見解如何。

  右質問する。