質問主意書

第176回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一七七号

冷凍機器等の冷媒であるフロン等の不適正処理の実態とフロン回収破壊法の見直しに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十二年十二月二日

加藤 修一   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   冷凍機器等の冷媒であるフロン等の不適正処理の実態とフロン回収破壊法の見直しに関する質問主意書

 我々の住む地球は、太陽系と地球・生物の相互関係の中で四十六億年の長き時間を経て、多様な物質循環を繰り返してきた。そして今日の「生命体」としての緑の惑星・地球が存在する。太陽系と地球・生物の関係性の中で複雑・多様な物質循環があり、例えば半減期が二・四万年の猛毒性物質のプルトニウムが存在したとしても原子核の崩壊により、自然界起源のものは、既に自然界には存在していない物質になっている。今や人の手によるものは別にして太陽系と地球・生物の循環系における物質循環の物質として自然界でつくられる物質ではない。
 周期律表を見るとフッ素という元素がある。この元素は、電気陰性度が強い、即ち最も化学的反応が強く、結合力が非常に強いことから分解・循環することは非常に難しい。長い時間の中で不安定な化合物から安定化合物になり無害な鉱石として存在してきた。反応性が高いため、天然には蛍石や氷晶石などとして存在し単体では存在しない。
 フッ素は、全ての元素と化合物を造ることができ、その化合物からフッ素自身の純物質を物理化学的原理に基づいて引き剥がす単離ができるようになった。フッ素単離の功績から一九〇六年のノーベル化学賞はモアッサンが獲得した。この重大な技術開発によって産業社会に莫大な利益をもたらすことになった。しかし、同時に深刻な悲劇を人類にもたらしてきた。それは今もなくなっている訳ではない。
 以上のような利便性のためにリスクを覚悟し、大量のフッ素化合物を環境に排出してもよいのか、懸念されるところである。
 生物のいない地球誕生期においては、このようなワンスルーな物質変遷はあったかも知れない。また、その過程で生成されたリスクを抱える膨大な種類の中間生成物質の誕生があったかも知れないが、誰も証明することはできない。その時にあり得たから今もあり得て良いということには必ずしもならないのである。
 循環から外れて安定状態にあるものを循環系へ繰り出させることには十分なリスク評価がなされるべきであり、もともとの循環系を崩すことは最大限避けなければならない。従って、人工系化学物質の無秩序な安易な開発に際しては注意を要しなければならない。
 例えば、動植物に猛毒となるモノフルオロ酢酸(C2H3FO2)が知られている。フッ素の水素と置換し、なりすます性質は直接の猛毒のみならず無数の環境ホルモンの生成も容易に想像される。これが実際に検知され、増加しているのが猛毒のトリフルオロ酢酸(C2HF3O2)である。これはフッ素系冷媒由来の中間物質ではないかとの疑いがもたれている。
 次にIPCCの温室効果ガス(GHG)リストについて考えてみる。急増するフッ素系ガス、或いは日本国内だけのようなローカルな用途のものはリストに掲載されていない。FO(fluoride Olefine)系、HFO(Hydoro fluoride Olefine)及び日本で最も多く使われている手術用揮発性麻酔薬セボフルラン(Sevoflurane C4H3F7O)も記載されていない。
 言うまでもなく代替フロン等と呼ばれるHFC、PFC、SF6の三ガスは自然界に存在しないものであり、HFCはエアコンや冷蔵庫などの冷媒に使用され、SF6は変電施設などの絶縁材として使用されている。
 政府等の調査によれば、法定上のフロン回収率が三十%程度と異常に低いことが分かっているが、大きな問題である。種々の原因が考えられるが、(1)使用中の放出、(2)メンテナンス時の放出、(3)排気時の放出等によるものと言われている。
 回収業者は、安価な回収機により安易に回収しようとすることから大気中に排出されることが多く、しかも必ずしも適正な回収ではなく、コンプライアンスに従わない悪質な業者の跋扈により、適正処理を心がけている回収業者、冷凍機器の設置者等が甚大な迷惑を被っていることから、以上の諸点について十分対処しながら進めて行かなければならない。
 群馬県には、フロン回収、破壊処理に強い関心を持つNPO関係者、専門家、大学関係者も多く、また、伊勢崎市、前橋市などには優秀な企業が存在し、長年フロン回収を含めた環境問題に取り組んできたところである。
 これら群馬県下の企業等に対するヒアリング、一般社団法人日本フロン回収事業協議会(JCFRA)や全国規模のNPO「ストップ・フロン全国連絡会」の活動や調査等によれば、種々の原因について的確な指摘がなされているところである。
 以上のこと等を踏まえて、以下質問する。

一 フロン回収率の低迷と大気への放出について

 フロン回収率の数値目標は、一九九四年当時の二十%から一九九六年には五十%程度とされていたが、達成されず目標を破棄した。また一九九八年には自主行動計画を立ててHFC回収率を八十%以上にとの目標であったが、これも未達成である。
 これらの残念な経験から二〇〇一年には「フロン回収破壊法」が成立し、さらに二〇〇六年に改正され、フロン回収率の向上が大きく期待され成立後約九年が経過した。
 しかし、二〇〇八年度のフロン回収破壊法に基づく業務用冷凍空調機器からの全国廃棄時回収量は二千二百七十六トンであり、同年の廃棄時残存冷媒量は八千百五十四トンと推計されているので、回収率は二十八%程度であった。これは約五千八百七十トンが大気中に放出されたことになり、CO2換算温室効果ガスにして約千百七十四万トンに相当する厳しい実態が浮かび上がってきた。この現実を政府はどのように捉えているのか、見解を問う。

二 フロン回収破壊法の実効ある取組について

 二〇〇七年の冷媒用フロンの出荷量は、約三万二千九百トンであり、二〇〇八年のフロン破壊量は、三千九百四十トンである。単純に出荷量、破壊量を横ばいと考えるならば破壊量は、出荷量の一割程度である。フロン回収破壊法に基づく効果的かつ責任ある行動が取られているとは言えない状況である。
 政府は、このような現実をどのように捉えているのか。また、どのように積極的な回収方法を検討しているのか、見解を問う。

三 フロン回収破壊法の内容と実態について

 前記のように、将来に深刻な事態を引き起こす可能性があるのはフッ素系ガスである。これらに関する規制法の一つがフロン回収破壊法であるが、この法律は第一に冷媒用途に限定されていること、第二にガス種はフッ素系ガス全体を除くのではなく、PFC、HFE、HFO、SF6についてのみであることから、多くの問題が明らかになっているにもかかわらず対応がとれていないのが実態である。
 政府はこれらの法律内容と実態をどのように捉えているのか、見解を問う。

四 漏えい規制及び管理基準の創設について

 機器の設置を行う時の技術者の技術不足により使用時に一部が放出されてしまうことが指摘されている。
 フロン漏れの検知は、冷凍機器などの稼動時に石鹸水などをかけて泡の発生の有無により容易に分かるが、多くの機器がこのような状態にあるとも聞く。
 二〇〇九年三月の経済産業省の調査によると、業務用冷凍空調機器の使用時の漏えいが多いことが指摘されている。即ち冷凍冷蔵ユニットが一・一%から十七%に増加し、別置型冷凍ショーケースも〇・七%から十六%に増加している現状において、設置時の不具合が生じないように技術力の向上等が進むような対策を考えるべきである。見解如何。
 また、機器の漏えい規制を設けることや管理基準を創設することについて、政府の見解を問う。

五 フロン漏えいに対する規制措置等について

 最近のフロン回収装置のほとんどは「液回収」もできるが、古い回収装置を使用しているためか、メンテナンス時や回収時に、液体状態のフロンを回収できないまま回収を終えてしまうため、フロンの大気中への放出につながってしまうと指摘する専門家、学者等もいる。
 そこで、最新の回収機器へと代替が容易に進むような支援策、促進策を考えるとともに、使用時の漏えいに関してインセンティブとなる規制措置の法制化を行うべきであると思うが、政府の見解を問う。

六 フロン系ガス等に対する維持管理制度について

 フロン系ガス等に対する全体的な維持管理制度が未整備である。即ち多くの専門家、学者等も指摘しているように、業界団体による申告値の客観的な検証の遅れとともに、稼動時漏えいを放置してきたのが実態である。また、保有量、充填量などを把握する制度が不備という現実がある。
 以上の不備について十分対応できる新しい制度の導入や、強力な経済的インセンティブの導入、漏えい点検の義務化、充填量について充填毎の保有量の登録や情報公開を義務付ける制度等を創設すべきであると考えるが、政府の見解を問う。

七 フロン使用機器の実数把握について

 回収破壊義務を課せられた機器所有者、或いは解体元請業者が意図的に数量減で発注する虚偽申告の横行もあると聞く。古い冷凍機器が事業所の解体時に一緒につぶされることになると、同時にフロン等が大気中に瞬時に排出されてしまう。
 アンモニア冷媒の使用が主流であった時は許可及び届出制があったが、最新のフロン系は適用除外になっており、届出もないことから回収対象機器の実数が把握できない状況にある。冷凍機器等設備の分母に相当する台数が未登録であることが、実態解明を遅らせている原因の一つである。
 そこで、使用機器の実数が確定できる仕組みに見直すことや、登録台数が明確になるような措置を講ずべきと考えるが、政府の見解如何。

八 フロン回収機の性能基準等の見直しについて

 回収に適さない廉価で回収能力の低い回収機(不良品とも言える)を持っていれば、回収業に参画することも可能であるというのが現在の実態である。
 これらの回収機はJIS規格によるものであるが、規格は業界の専門家などによって議論し策定される場合が多く、必ずしも回収に適切ではなく性能基準が不明確であるとの指摘もある。即ち、不十分な規格の機器使用によって回収率が低迷しているとも言われているが、冷凍機業界及び関連産業の一部で使用されているこのような不良とも言える回収機の使用を規制するためにも、回収機のJIS規格の補強など性能基準を含めた見直しを直ちに行うべきであると考えるが、政府の見解を問う。

九 フロン回収業者に対する許認可制などの管理強化について

 回収業者は、約三万社と言われているが、業界団体の指導外の業者も多く登録されており、設備業界の自主的管理体制だけでは、登録業者全体を把握できない状態にある。
 結果、コンプライアンスに従って誠実に回収・処分処理に取り組んでいる回収事業者が、悪貨が良貨を駆逐するかのような不利益な事態になることを最大限避けなければならないこと、また、自治体の行政監視機能も不全状態にあり、監視が行き届かない現状があることから、許認可制などの管理強化を行うべきであると考えるが、政府の見解を問う。

十 冷凍空調機器の所有者、使用者に対する「フロン」回収の普及啓発について

 冷凍空調機器の所有者、使用者は国民全員であり国民的啓発が必要である。特に機器の所有者・廃棄者の認識、理解がないことが、回収が促進されない要因でもある。特に最近は、ヒートポンプが普及拡大しつつあり、ヒートポンプがいかなる冷媒を使用しているかなど、リスクコミュニケーションが必要である。さらに、「フロン」回収について国民的関心を高めるための施策が必要である。見解を問う。

十一 ハイテク関係業界におけるフロン系使用量等の実態調査について

 半導体関係業界におけるフッ素系化学物質に関しては、依然として全体像が不明である。ハイテク関係業界の実態は、どうなっているのか。
 例えば、PFC一一六の除害装置が、PFC一一六からPFC一四を生成しているとの可能性が指摘されているが、これなどは大きな問題である。
 政府は詳細な実態調査がされていない場合は、ハイテク関係業界のCSRの視点から積極的な情報開示の協力を得て調査を行うべきである。
 また、ハイテク関係業界は自ら進んで関係フロン系使用量など現場の状況について公表すべきであり、政府は直ちに都道府県別に、除害装置数、PFC一一六などの購入量、使用量などの実態について公表を要請すべきであると考えるが、政府の見解を問う。

十二 ノンフロン化へのシフトとフロン使用禁止措置について

 フロン漏えいを止め、回収を完全に行うことには技術的限界がある。既に大量の冷凍空調機器が出回っており、これらの機器は設置から数年から数十年にわたり長期的に使用されている。また、機器が廃棄されるまで大気中への排出を完全に止めることはできないものと思われる。
 中長期的には脱フロン、二〇五〇年には、フロンゼロビジョンの達成にむけた取組がある。そのためには早期にノンフロン製品にコンバートすることが何よりも重要である。
 別置型冷蔵ショーケースがコンビニなどにおいて百四十万台が稼動しており、この排出量が全体の五十%を占めている。
 従って取替え時には、ノンフロン機器への取替えが進展するように、また、価格上不利にならないように、例えばフロン税等を導入するなどの工夫を行い、コンバートが円滑に進むようにすることが第一点。
 さらに、現在、自然冷媒等の技術が確立し「ノンフロン製品」ができているが、例えば家庭用冷蔵庫等は大部分がノンフロンである。ノンフロン化が可能な機器から順次フロン使用禁止を実施することが第二点。
 以上の二点について実行すべきであると考えるが、政府の見解を問う。

十三 フロン回収を促進させるためのインセンティブについて

 フロン回収を促進させるには、今のような関係者の善意に頼るようなシステムでは無理があり、それぞれ関係者にインセンティブを与えるシステム(例えば、フロンを買い取るシステムなど)の構築が必要である。経済的なインセンティブが働けば回収が促進されるとの視点からフロン税が議論されているが、デポジット・リファンド制度についての検討も併せて必要ではないかと考える。
 デポジット・リファンド制度とは、製品購入時に製品本来の価格に一定額を預り金(デポジット)として上乗せして販売し、使用後に使用済みの製品を所定の場所に返却すれば、購入時に徴収した預り金の全部もしくは一部を返却者に払い戻す(リファンド)するという制度である。このような制度の導入も一つの方法であると思うが、政府の見解を問う。

十四 フロン回収破壊法の見直しについて

 様々な提案や自然冷媒の積極的利用を含めたフロン回収破壊法の見直しを行い、一刻も早く「改正フロン回収破壊法」を国会に提出すべきであると考えるが、政府の見解を問う。

  右質問する。