質問主意書

第176回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一六六号

ゲフィチニブ(商品名「イレッサ」)の再承認申請に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十二年十二月二日

田村 智子   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   ゲフィチニブ(商品名「イレッサ」)の再承認申請に関する質問主意書

 肺がんに対する抗がん剤ゲフィチニブ(商品名「イレッサ」。以下「イレッサ」という。)は異例の短期間の審査で世界に先駆けて二〇〇二年に承認され、その直後から他の抗がん剤と比較しても短期間に異常な数の間質性肺炎など副作用被害が相次ぎ、本年九月までで八百十九名もの副作用死が報告されている。さらに、承認条件として実施されたドセタキセルと比較する国内第Ⅲ相臨床試験においても、ドセタキセルに対する延命効果を証明できなかった。また、その他の第Ⅲ相臨床試験において日本人に対する延命効果を証明したものはない。
 市販後臨床試験はソリブジン薬害事件を契機に薬の安全対策の強化のため導入された経緯がある。承認条件として行われた国内第Ⅲ相臨床試験の結果によって延命効果が証明されないのに直ちにイレッサの承認の見直しが行われていないことは安全対策の軽視と言われても仕方がない。
 イレッサは定期の再承認申請の時期が到来しており、本年九月に再承認申請が製薬企業から行われ、現在、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」という。)で審査が行われている状況である。
 そこで以下、質問する。

一 イレッサの再承認申請に対する審査の見通しについて明らかにされたい。具体的にはPMDAにおける審査と審査報告書が完成する時期の見通し、その報告書が薬事・食品衛生審議会の部会に報告され審議される時期の見通しについて明らかにされたい。

二 再承認申請の審査にあたって承認条件として行われた国内第Ⅲ相臨床試験について再承認申請にあたっての単なる一資料として扱うべきではない。二〇〇二年のイレッサの承認にあたって付された承認条件が満たされているかどうかについて、再申請の審査とは別に厳格に審査されるべきだと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

三 日米欧医薬品規制調和国際会議(以下「ICH」という。)で薬事行政の規制レベルをそろえている他の規制当局のイレッサに対する対応について

1 二〇〇三年にイレッサを承認したアメリカはISEL試験などの結果をうけて二〇〇五年六月に新規患者への投与を原則禁止する措置をとっているが、政府はその経過と措置について承知しているか。また、承知しているならアメリカがとった措置についての見解を明らかにされたい。
2 製薬企業はEUに対して二〇〇三年に行った承認申請を二〇〇五年五月に取り下げた。その後行われた再申請に対してIPASS試験などの結果をうけ、EUは成人のEGFR遺伝子変異陽性の局所進行・転移を有する非小細胞肺がんに適応を限り承認をしているが、政府はその経過と日本と比較して適応が限定され承認されたことについて承知しているか。また、承知しているならイレッサの適応をEGFR遺伝子変異陽性の患者に限定してEUが承認したことについての見解を明らかにされたい。
3 ICHを構成する他の二極の規制当局は、日本が承認した二〇〇二年以降に行われた臨床試験をうけてイレッサに対して新規投与を禁止する措置や適応を限定した承認を行っている。これに対して、承認直後から多数の副作用死が報告され、その後承認条件として行われた国内第Ⅲ相臨床試験によって延命効果が証明されていないのに、必要に応じて行われる再評価という仕組みもあるにもかかわらず、承認の見直しが全く行われていないのは異常なことだと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
4 再承認申請の審査においてはICHの他の二極がとった規制措置や限定された適応で承認されたことについては当然、考慮されるべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

四 二〇〇二年以降に承認された抗がん剤について抗がん剤ごとに①一般名及び商品名、②承認条件として全症例調査が義務づけられているか否か、③承認後一年経過時点、二年経過時点の累積投与者数(実数を把握していないときは推定でもよい)、④承認後一年経過時点、二年経過時点の副作用報告のうち死亡症例数を明らかにされたい。

五 厚生労働省は「承認直後の短期間の死亡例数が例を見ない多さだったという指摘については、承認後二年以内の死亡報告の頻度が他の抗がん剤で三%を超えるものがあるということに対してイレッサは一%前後であり、特別に高いという認識は持っておりません。」(二〇一〇年十一月十六日、参議院厚生労働委員会、岡本充功厚生労働大臣政務官)と答弁している。イレッサと比較して言及されている「他の抗がん剤」は、厚生労働省に問い合わせたところネクサバール(一般名「ソラフェニブトシル酸塩」。以下同じ)とのことである。

1 ネクサバールはイレッサと違って全症例調査の承認条件を付されており副作用症例が集まりやすい状況にある。全症例調査が行われていないイレッサと数だけの比較をすることに意味があるのか。
2 ネクサバールの承認後二年経過時点での副作用報告のうち死亡症例について器官別大分類毎、副作用毎の数を明らかにされたい。

六 イレッサについてゲフィチニブ検討会において「ゲフィチニブの使用と副作用に関して、メーカーがきちんと掌握していない。副作用についても同様ですが、これは大きな問題だと考えます。したがって、企業に対して、当面の間は全症例追跡調査を義務づけることが必要だと思います」(二〇〇五年三月二十四日、「第四回ゲフィチニブ検討会議事録」)という提案があったにもかかわらず、イレッサの審査にも審査センター審査第一部長(当時)として直接かかわった安全対策課長(当時)がこの提案を否定し、現在に至るまで全症例把握がなされていない。
 多数の副作用死が発生した経緯や、イレッサと同じく非小細胞肺がんのみに対する適応をもつ上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害剤であるタルセバ(一般名「エルロチニブ塩酸塩」)が全症例調査という承認条件が付されていることを見れば、イレッサについても今後、全症例調査を義務づけるべきではないか。政府の見解を明らかにされたい。

七 抗がん剤など人体毒性の強い新薬の承認にあたって副作用被害の早期把握のためにも原則全症例調査を義務づけるべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。