質問主意書

第176回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一四一号

気候変動にかかる温室効果ガス(GHG)の削減に向けたフロン等の処理及びフロン回収破壊法の見直し等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十二年十一月三十日

加藤 修一   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   気候変動にかかる温室効果ガス(GHG)の削減に向けたフロン等の処理及びフロン回収破壊法の見直し等に関する質問主意書

 京都議定書の温室効果ガス(GHG)である二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素は、全て地球環境と生態系の中で循環するが、言うまでもなく気候変動の問題は、正に炭素、窒素循環系の収支バランス問題に帰着できる。一方、フッ素を起源とするフッ素系ガスは、気体で安定してしまえばCF4のように超長期的な環境汚染になり、一方分解しやすい化学物質にすればフッ素系の未知の中間生成物による環境汚染を避けられない。
 IPCCの温室効果ガス(GHG)リストについて考えてみる。急増するフッ素系ガス、或いは日本国内だけのようなローカルな用途のものはリストに掲載されていない。FO(fluoride Olefine)系、HFO(Hydoro fluoride Olefine)及び日本で最も多く使われている手術用揮発性麻酔薬セボフルラン(Sevoflurane C4H3F7O)も記載されていない。
 言うまでもなく代替フロン等と呼ばれるHFC、PFC、SF6の三ガスは自然界に存在しないものであり、HFCはエアコンや冷蔵庫などの冷媒に使用され、SF6は変電施設などの絶縁材として使用されている。
 政府等の調査によれば法定上のフロン回収率が三十%程度と異常に低いことが分かっている。一部の不心得の事業者によって回収等の過程で安易に大気中へと排出されていることが指摘されている。誠実にコンプライアンスに従って処理・処分対応を進めている事業者にとって大変迷惑なことでもあり、さらに生命・生存にかかわる大きな問題につながるものである。例えば、HFCの地球温暖化係数は、千三百から四千と極めて高いことから地球温暖化に大きな影響を及ぼすものである。
 群馬県には、フロン回収、破壊処理に強い関心を持つNPO関係者、専門家、大学関係者がおり、また、伊勢崎市、前橋市などには、優秀な企業があり、長年フロン回収を含めた環境問題に熱心に取り組んできている。これら群馬県下の企業等に対するヒアリング、一般社団法人日本フロン回収事業協議会(JCFRA)や全国規模のNPO「ストップ・フロン全国連絡会」の活動及び調査等によれば、種々の原因が指摘されているところである。
 以上等を踏まえて、以下質問する。

一 今後の地球温暖化対策に重要なコペンハーゲン合意について

 国連気候変動枠組み条約第一六回締約国会議(COP一六)等がメキシコのカンクンにおいて開催される予定である。
 ところで菅総理大臣は、十月十八日の参議院決算委員会で、地球温暖化対策に関し「単純に京都議定書を延長することには反対だ」と答弁している。京都議定書の国際枠組みでは削減義務がない中国などは、新たな枠組みができない場合に暫定的に議定書の期間を延長するよう要求しているようである。また欧州連合(EU)も、条件付きで暫定的延長を支持しているところである。
 しかし留意すべきことは、COP一五までに積み上げた成果を十分に反映し、答弁すべきである。昨年のCOP一五において、特に重要なことは、世界の主要国、アメリカ、中国、インドなどを含めて八割に及ぶ当該国の指導者がコペンハーゲン合意をとりまとめた事実である。最終的に、COP一五で、首脳級が今後の交渉を前進させるための一つのステップである「コペンハーゲン合意に留意する」と決定したことは誠に重要であり、この採択は大きな成果である。国連史上最多とされる百十九人の首脳が集まって議論し、首脳陣自らが文書を作成したことを踏まえると、「コペンハーゲン合意」は今後のCOPでの交渉に大きな重みをもつものであり、今後の議論で枕詞のように使用されるべきものである。
 その重要性は、まず第一に「気温の上昇を二度以内とすべき」との科学的な考え方を認識して、長期的な協力を強めていくこと。第二に先進国は二〇二〇年までに削減すべき目標、途上国は削減のための行動をそれぞれ決めて、二〇一〇年一月末までに提出し、先進国、途上国それぞれによる目標、行動が記されたリストを作成し、日本は、全ての主要国による公平かつ実効性のある枠組みの構築と意欲的な目標の合意を前提に、二〇二〇年までに一九九〇年比で二十五%の削減を目指すこと。第三に先進国及び途上国のそれぞれの行動に関する測定・報告・検証(MRV)の明記があり、特に、途上国が先進国の支援を受けて行った削減行動は、国際的なMRVの対象にし、先進国の支援が確実に途上国の温暖化防止行動に繋がることの確保を目指していること。第四に、大事なことは、温暖化対策への先進国の支援姿勢であり、途上国の温暖化対策を支援するため、先進国は二〇一二年までに三百億ドルに近づく支援を共同で行い、長期的には二〇二〇年までに年間千億ドルの資金動員目標の約束があることの合意である。
 この下にCOP一六が開催されるわけであり、菅総理大臣は、間違っても国際社会に対して、京都議定書が身動きできなくなるような、あるいは同議定書を殺してしまうような印象を与えることのないように国内に限らず国際社会へと強くアピールすべきである。
 敢えてこの件を質問に取り上げたのは、国際社会は日本の行動に対して大変懐疑的になっており、その懐疑を払拭する必要があると考えるからである。政府の見解を問う。

二 世界のHFC排出量の将来の見通しについて

 米国科学アカデミー紀要(PNAS)の二〇〇九年版にHFC使用量の見通しが掲載された。
 これによると二〇五〇年における途上国の排出は先進国の八倍に増加し、HFCの世界の排出量は、世界のCO2排出量(BAU)と比較して、CO2換算で九~十九%になると推計している。これは、四百五十ppmCO2安定化シナリオにおいて推計されるCO2排出量と比較して、二十八~四十五%に相当するものである。驚くべき占有率であり、政府はこの推計に関してどのような認識を持っているか、見解を問う。

三 フロン等の使用の抑制と政府の責任ある対応について

 IPCCに対応を要求することも一つであるが、二〇一〇年三月に閣議決定された「地球温暖化対策基本法案」は、第一七四回通常国会において審議未了により廃案になった。しかし第一七六回臨時国会に改めて提出され、フロン等の使用の抑制等が規定されている。
 我が国は、「地球温暖化対策基本法」に基づいて対応することが必要ではないか。公明党提出の対案「気候変動対策推進基本法案」の第三十三条、第三十四条においては、規制と規制抜けの「いたちごっこ」に至らないように、温室効果の可能性が高い物質の調査研究と同時に結果に基づいた速やかな指定を求めている。
 「いたちごっこ」のような混乱に至らないように回収等にかかる健全な関係組織、企業の発展等を目指すよう政府の責任ある対応を求めている。
 公明党案レベルの取組が必要と考えるが、政府の見解を求める。

四 小沢前環境大臣試案である二〇五〇年「フロン類の排出をゼロとする」との長期ビジョンについて

 三の「地球温暖化対策基本法」に関連して、地球温暖化効果ガスについて、小沢前環境大臣試案の中長期ロードマップにおいて、ものづくり対策として「脱フロン」が掲げられており、二〇五〇年には、「フロン類の排出をゼロとする」との長期ビジョンが示されている。政府の一定の考え方を示すものとして評価しており、単なる一時的な効果のない発言と受け止めていない。二〇五〇年の地球温暖化効果ガスの八十%削減目標にどのように加えられているのか、また政府はこの長期ビジョンを政府全体の中でどのように共有し、位置づけを行っているのか、見解を問う。

五 NF3、HFE、FO系、HFO系ガスに対する対応について

 IPCCの温室効果ガス(GHG)のインベントリーにおいて、対象となっているものは京都議定書の六ガスだけであり、六ガスの規定後、これを使用しないガスへの規制逃れとなっていて使用量が急増している。
 特に、NF3(一〇〇y GWP一七二〇〇)であり、HFE(Hydoro Fluoro Ether)や前述のFO系、HFO系である。これらのガスの使用について抑制的に対応すべきことに対する政府の見解を問う。

六 冷媒フロン漏洩分と未回収分フロンに対する対策について

 一般社団法人日本フロン回収事業協議会(JCFRA)、NPOの「ストップ・フロン全国連絡会」は、冷媒フロン漏洩分と未回収分の合計で年間二万トン以上、CO2換算で四千万トン以上が大気に放出されていると報告を行っている。また、二〇〇九年の政府の使用時排出量調査によれば多量の冷媒フロンが確認されている。
 この調査によれば、関連団体の試算によるとエアコンを含む冷凍空調機器の市中稼動台数約一億二千万台を仮にHFC冷媒に置き換えて使用時排出量を計算すると、冷媒ストック量約二十五万六千トンの内、約一万二千三百トンが大気中に排出されていることになる。
 これは、二千七百五十万トンCO2換算の温室効果ガスの排出、即ち日本の一九九〇年排出量(十二億六千百三十万トン)と比較すると実に二・二%相当量が、大気中に排出されていることになる。これは憂慮すべき事態であり、この実態に対する今後の対応について、政府の見解を問う。

七 フロン回収破壊法の見直しについて

 様々な提案や自然冷媒の積極的利用を含めたフロン回収破壊法の見直しを行い、一部の不心得の事業者によって関係事業者全体が迷惑を被ることがないように、また、温暖化が進み国民等の生命・生存上のリスク増大にならないような制度の導入を含めた「改正フロン回収破壊法」を一刻も早く国会に提出し、特に国際社会に向けて日本の真摯な行動を示すべきである。見解を問う。

  右質問する。