質問主意書

第176回国会(臨時会)

質問主意書


質問第六九号

猛暑対策の取組の強化に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十二年十一月一日

加藤 修一   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   猛暑対策の取組の強化に関する質問主意書

 二〇一〇年の北半球の夏は、極めて異常高温な夏であった。また同時に、南半球の冬は大寒波となり多数の死亡者が発生した。
 ロシアでは、森林火災の延焼面積が、北海道の二倍の面積に相当し、モスクワでは濃いスモッグ(ヘイズ)の影響で市民の健康が危ぶまれた。ロシアに続き、アマゾン、アフリカ、アジアでも異常気象により森林火災が連続して発生するなど、地球規模で極めて深刻な事態にあることを指摘する。とりわけ深刻なことは、泥炭層、炭化成分の多い土壌での燃焼で、その結果、膨大な二酸化炭素が発生した。
 中国大陸においては、三峡ダムが世紀の大放流をしなければならないほどの豪雨の連続で大水害が発生し、同様の大洪水は、バングラデシュにおいても発生した。
 そして、日本列島においても記録的な猛暑であった。各地で猛暑日の記録更新が相次ぎ、日本の最高気温の記録に頻繁に名前がでてくる館林市のある群馬県は、県下の高崎市、太田市、安中市、沼田市などの一二市を始め、その他町村においても厳しい暑さの連続であった。
 館林市は、四〇日を超える猛暑日になったと言われ、日本列島の猛暑による熱中症の大量発生は、各種統計を確認すると、大災害とも言うべきものである。
 これら猛暑都市を安全・安心な都市にする上で、対処療法的な対応では市民の健康、生命を守ることは困難な状況にある。従って、(1)熱中症への対応はもとより、(2)ヒートアイランド現象への機敏、かつ的確な対応、また、より根本的には(3)気候変動への対応が重要である。これらの三者の一体的、計画的なパッケージ政策が必要である。
 以上の基本的視点を、改めて重視・認識すべきことと同時に、関係府省庁及び関係府省庁連絡検討会が一層強力な暑熱対策を推進することを強く求めるものである。
 以上を踏まえて、質問主意書の本旨に入る。
 今夏の熱中症の大量発生は、今後、その被害等の拡大が予想されるなど、新たな大災害の発生と言っても過言ではない。しかも、熱中症などによる救急搬送者数は年々急増している。特に高齢者や生活困窮世帯ではその傾向が強く、全国で死に至る例が多く発生しており、その対策が急務となっている。
 そこで、以下質問する。

一 単なる対処療法的対応にとどまらない一体的な熱中症対策の必要性について

 熱中症対策として必要なことは、①熱中症そのものへの緊急避難的な対応、②太陽熱、排熱、水、緑、風の道などや生物多様性の視点からまちづくりを捉え直し、「クールで潤いあるまちづくり」、「安全・安心のまちづくり」を推進すること、③地球温暖化対策の二〇二〇年目標に向けた行動計画の策定・実施を進めることの三つであると考える。即ち、熱中症、ヒートアイランド(熱の島)などに対応したまちづくり、地球温暖化対策を組み入れた一体的な対策が必要であると考えるが、政府の見解を問う。

二 消防庁発表の熱中症死亡者数と厚生労働省発表の人口動態統計とのデータの乖離及び正確な実態把握に基づく機敏な啓蒙活動への活用について

 消防庁の熱中症による救急搬送状況速報値によれば、平成二二年は熱中症による救急車の搬送者数が九月一九日現在で五五〇〇〇人を超え、一七一人が死亡し、その内、高齢者が四六・四%に上り、高齢者の多くが室内で亡くなっていると報道されている。しかし、この数字には病院搬送後の死亡者数は反映されていない。
 二〇〇八年には、救急車搬送時の死亡者数四七人に対し、入院後の死亡者数を含めると五六九人(約一二倍)の方が熱中症で亡くなっている。また、二〇〇九年には、一六人に対して、二三六人(約一五倍)の方が死亡している。両者の統計の間には一〇倍以上の開きがあり、このような乖離が二〇一〇年にも起きているとするならば、一〇〇〇人を超える方の死亡が考えられ、これは大災害と言っても過言ではない。
 このような乖離に対し、統計の取り方と公開の仕方に工夫が必要であると考える。正確に熱中症の数を掌握することにより、危機をより正確に認識し、一層強力な啓蒙を行うなど、より適切な熱中症対策を欠かさないことが重要である。即ち、救急車による搬送者について病院到着時の初診時における死亡状況の把握に限らず、常時、例えば一か月ごとに入院後の死亡状況の把握を行い、正確な実態把握に努めることが重要と考えるが、政府の見解を示されたい。
 また、気象庁が継続して測定を行っている地点での二〇一〇年における三〇℃以上の真夏日、三五℃以上の猛暑日は、それぞれ何日間あったのか、当該測定地点の市区町村名と併せて示されたい。
 さらに、温度、湿度等の観測点を拡大し、WBGTを計って熱中症のリスク評価を行い、警戒警報に役立てるべきではないかと考えるが、政府の見解を示されたい。

三 災害医療における災害及び災害医療の定義について

 猛烈な暑熱によって大規模な死亡者が発生する場合の医療は、災害医療と言えるのではないか。災害医療は、大規模災害(地震、火災、津波など)等により、対応する側の医療能力を上回るほど多数の医療対象者が発生した時に行われる医療を言うようであるが、災害医療とは、医療体制及び避難場所の準備、食料支援の確保、PTSDのケア、ボランティアの組織、災害派遣医療チームの連携などのすべてを包括して言われる場合もある。
 アメリカのCDC(疾病予防管理センター)の災害対策ページ(Emergency Preparedness & Response Site)によれば、災害とは、単に天災のみならず、故意(テロリズム)または過失によるCBRNE災害(爆発、化学汚染、放射能汚染、或いは新型感染症)など、傷病者が多数発生し、病院の通常の診療体制では対応できない事案としている。
 であるならば、今夏の熱中症の大量発生は、報道された限りにおいては、必ずしも大混乱をきたしたわけではない。この意味では、暑熱による大規模死亡事案と想定できるものの、災害医療の対象ではないとも言える。但し、死亡者が一〇〇〇人を超えることを想定すると、危機管理上、政府の対応は必ずしも十分ではなく(次から次へと救急搬送されている)、遺憾なことである。
 このような政府の対応は、口蹄疫問題に対する対応(北海道で発生した口蹄疫の終息宣言は一か月弱であったのに対し、今夏の九州の場合は四か月超を要した)と同様の課題をはらんでいるのではないかと指摘せざるを得ない。政府は、災害医療をどのように認識しているのか、見解を示されたい。また、今夏の熱中症のケースは、災害医療の対象になるのか、政府の見解を示されたい。

  右質問する。