質問主意書

第175回国会(臨時会)

質問主意書


質問第二二号

北見道路事業とオジロワシ保護に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十二年八月六日

紙 智子   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   北見道路事業とオジロワシ保護に関する質問主意書

 一般国道三十九号線に並行する自動車専用「北見道路」(延長十・三キロメートル)の建設について、これまで二〇〇六年四月二十四日の参議院行政監視委員会や、二〇〇七年六月二十七日提出の質問主意書(第一六六回国会質問第五三号)等で、その必要性、緊急性の低さを指摘するとともに、事業実施による自然環境、絶滅危惧種への重大な影響を指摘してきた。これに対し、政府は有識者の意見を聞き環境に配慮しながら事業をすすめる旨の答弁をしていたが、二〇〇四年春から道路予定地周辺に営巣し毎年繁殖しているオジロワシが、二〇〇七年春の繁殖期には、四月まで抱卵していたが孵化しない事態が起きていた。これは二〇〇七年の繁殖期に、営巣地に一番近い工事箇所で騒音、振動をともなう工事を行ったことが原因と推察される。
 そこで、これについて北海道開発局(以下「開発局」という。)の対応をただすとともに、国土交通省、環境省などによる「オジロワシ保護増殖事業計画」(二〇〇五年十二月)及び「オオワシ・オジロワシ保護増殖分科会」(二〇〇六年三月設置。以下「オジロワシ分科会」という。)について、以下質問する。

一 北見道路事業にともなう二〇〇七年のオジロワシ繁殖失敗について

1 開発局が、二〇〇七年春に起きた北見道路事業周辺に営巣するオジロワシの繁殖失敗を把握したのはいつか。また、この件について専門家の意見を得たのはいつか。その専門家の氏名も併せて示されたい。
2 同年十一月二十日にオジロワシ分科会が開催され、開発局は道内各事業のオジロワシ対策と現状を報告しているが、ここで北見道路事業にともなう繁殖失敗を報告しなかったのはなぜか。事業に関連した異常事態であり、早急に報告すべきだったのではないか。
3 開発局がオジロワシ分科会に提出した道内各事業のオジロワシ対策をみると、北見道路以外の事業では、すべてオジロワシの繁殖期の事業実施を避ける措置をとっている。
 例えば、「北海道横断自動車道(本別-阿寒)-オジロワシの繁殖ステージにおいて、比較的影響が少ない九月から十二月にかけて施工を行う」、「一般国道三三四号線-オジロワシが営巣しているため、育雛・巣立時期を避けて、八月以降に工事を実施」などである。
 なぜ北見道路は繁殖期の工事回避の措置をとらなかったのか。
 北見道路事業を早急に行う必要があったのか。
4 開発局が二〇〇八年十二月のオジロワシ分科会に提出した報告書では、北見道路周辺のオジロワシのつがいについて「今年度の繁殖では孵化には至らなかったものの、四月まで順調に抱卵が確認されており、また、営巣放棄等の異常な行動もみられなかったことから、工事による影響はほとんどなかったと推察される」としている。この見解の科学的根拠は何か。また、見解を示した専門家の氏名も併せて示されたい。
5 「北見道路整備における環境保全対策を考える懇談会」では、委員からの主な意見として「生活上重要な場である止まり木及び採餌場は、工事箇所のもっとも近いトンネル坑口から最も近いところで約四百メートル離れている。四百メートル離れていれば工事で繁殖活動を阻害することはない」としている。国土交通省もこの認識をもとに答弁し、営巣地にもっとも近い箇所で工事を行ったが、結果的に同年の繁殖が失敗した事実をみれば、オジロワシへの影響の認識や工事実施の判断は適切ではなかったのではないか。
6 開発局は北見道路の必要性の一つに、「地域医療に対する支援、救急搬送のため」をあげている。しかし、北見市の救急指定病院は市街中心部にあり、北見道路を使用するとむしろ十分以上遅くなる。こうした点も踏まえ、北見医師会は北見道路に賛成する意見書を二〇〇六年十月に取り下げている。国土交通省は地域医療の最前線を担う現場がこうした判断をしていることをどう認識しているか。

二 オジロワシ分科会について

1 オジロワシ保護増殖事業計画(二〇〇五年十二月)によると、この事業はオジロワシの生息状況、生息環境、繁殖状況及び繁殖環境等を把握し、生息及び繁殖を圧迫する要因の軽減、除去等を行うことにより、自然状態で安定的に存続できる状態とすることを目標としているが、生息や繁殖に影響を及ぼすおそれのある土地の利用及び開発の実施については、事業の実施主体により「配慮がなされるよう努める」という脆弱な対策にとどまっている。
 そのため、国土交通省などの事業者がとった対策については報告を受けるのみで、その方法や結果を評価する仕組みはない。
 保護増殖事業の目標をより具現化するために、オジロワシ分科会において、事業者の対策や事業者が委嘱した専門家の知見が妥当であるか、評価する仕組みをつくるべきではないか。
2 環境省レッドデータブック(二〇〇〇年)によると、絶滅危惧ⅠB類のオジロワシの存続を脅かしている原因は、「森林伐採による営巣地消失、河川開発、湖沼開発、海岸開発による餌資源の減少。カメラマンなど営巣木周辺への人の立ち入りや工事などによる営巣阻害。PCBなど有機塩素化合物の体内蓄積。銃猟エゾシカ死体を採餌し、鉛弾破片を飲み込むことによる鉛中毒の発生」などであると指摘している。
 毎年度のオジロワシ分科会は、死因をデータとしてまとめており、交通事故、列車衝突、風車衝突、鉛中毒、死因不明などは記載されているが、開発行為については言及がない。
 前記レッドデータブックは、開発行為や工事を生息を脅かす原因にあげており、これにともなう営巣、繁殖の失敗、異なる兆候などは、オジロワシ生息に関する重要な情報として、分科会とりまとめの概要・同資料に明確に示すべきではないか。
3 北海道においては、北海道庁が事業主体の工事も各所で行われていることから、北海道庁にも工事実施や保護対策の報告をもとめるべきではないか。
4 前記レッドデータブックによると、冬期に北海道と本州北部で越冬するオジロワシは五百五十から八百五十羽であり、また環境省によると北海道での留鳥はわずか数羽である。北見道路事業周辺のオジロワシは、そのわずかなつがいとみられ、二〇〇七年の繁殖失敗は貴重な機会の一つが失われた可能性がある。
 開発行為や工事における保護対策を事業者まかせにすることは、十分な保護増殖対策をはかれない懸念がある。環境省は保護増殖事業の充実と目標実現に向け、事業者に対する回避措置や工事中止勧告などを含めた、事業者への監督権限を強めるべきではないか。

  右質問する。