質問主意書

第174回国会(常会)

答弁書


答弁書第三八号

内閣参質一七四第三八号
  平成二十二年三月十六日
内閣総理大臣 鳩山 由紀夫   


       参議院議長 江田 五月 殿

参議院議員加納時男君提出地球温暖化対策及び原子力政策に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員加納時男君提出地球温暖化対策及び原子力政策に関する質問に対する答弁書

一について

 地球温暖化問題は、人類の生存にかかわる脅威であり、正面からこの課題に向き合うことが我々の世代の責任であるとともに、少しでも早く本格的な対策を講ずることにより解決に向けた道筋を切り開くことができる。このため、あらゆる政策を総動員し、千九百九十年比で、二千二十年までに二十五パーセントの温室効果ガスの排出削減を目指すとの中期目標(以下「中期目標」という。)を、すべての主要国による公平かつ実効性ある国際的枠組みの構築と意欲的な目標の合意を前提として掲げるとともに、二千五十年までに八十パーセントの温室効果ガスの排出削減を目指すとの長期目標(以下「長期目標」という。)を掲げ、二千五十年までに世界全体の温室効果ガスの排出量を少なくとも半減するとの目標をすべての国と共有するよう努めることとし、我が国における地球温暖化対策について、その基本的な方向性を定めた地球温暖化対策基本法案(以下「法案」という。)を今国会に提出したところである。

二について

 我が国が、すべての主要国による公平かつ実効性ある国際的枠組みの構築と意欲的な目標の合意を前提に中期目標を表明したのに続き、米国、中国、インド等多くの国が相次いで二千二十年に向けた目標を発表したことにかんがみれば、国連気候変動枠組条約第十五回締約国会議に向けた国際的な気運の醸成に我が国が貢献したものと考えている。我が国としては、引き続き、前提条件を付けた中期目標を掲げ、主要国の背中を押して、積極的な取組を促し、我が国が前提とするところの実現に向けて最大限の努力を傾けてまいりたい。
 各国の目標が意欲的なものであるかどうかについては、今後、交渉の推移を踏まえつつ適切な時点で、総合的な観点から判断すべきものと考える。
 なお、中期目標の達成を目指す際の海外での排出削減を国内での削減量として計上できるクレジットの活用については、国際交渉の状況も踏まえながら検討してまいりたい。

三について

 中期目標は、我が国のみが高い削減目標を掲げても、気候変動を止めることはできないため、すべての主要国による公平かつ実効性ある国際的枠組みの構築と意欲的な目標の合意を前提として表明したものである。
 また、中期目標の達成に向けた規制等の施策については、経済の成長、雇用の安定及びエネルギーの安定的な供給の確保を図りつつ地球温暖化対策を推進し、地球環境の保全に貢献するとともに現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するものとなるよう、検討を進めてまいりたい。

四について

 法案第三条において、地球温暖化対策は、国際的協調の下に積極的に推進されなければならないこと、エネルギーに関する施策との連携を図りつつ、エネルギーの安定的な供給の確保が図られるよう行われなければならないこと、経済活動及び国民生活に及ぼす効果及び影響について事業者及び国民の理解を得つつ行われなければならないこと等を規定したところである。

五及び六について

 法案の策定に当たっては、広く事業者、国民等の理解と協力を得つつ推進することが重要と認識しており、昨年十二月、意見募集を実施するとともに、本年二月二十三日に開催された地球温暖化問題に関する閣僚委員会副大臣級検討チーム(以下「副大臣級検討チーム」という。)の会合において、事業者、労働者及びNGOの代表者からヒアリングを実施した。
 昨年十二月の意見募集では、中期目標や国内排出量取引制度等について賛否両論の様々な意見が寄せられた。また、副大臣級検討チームの会合では、事業者、労働者及びNGOの代表者からは、法案化に当たっての情報開示と国民との対話の必要性、雇用対策との一体的な推進、中期目標等に関して様々な意見が述べられた。
 意見の内容は、各者それぞれの立場により大きく異なるが、可能な限り本法案へ反映させる観点から、法案第十条第二項において中期目標の前提条件について、法案第三条第四項において雇用の安定について、法案第三十三条において政策形成への民意の反映等について等を規定したところである。今後も広く国民等の御意見を伺い、理解と協力を得つつ、地球温暖化対策を推進していく考えである。

七について

 中期目標及び長期目標の達成のためには、国内排出量取引制度、地球温暖化対策のための税及び全量固定価格買取制度を含めたあらゆる政策を総動員し、その実現を目指していくことが必要であると考えており、法案第四章において、これらの施策を中期目標及び長期目標の達成に資するために講ずべき基本的施策として位置付けたところである。
 これらの施策に係る具体的な制度の内容については、広く国民等の御意見を伺いながら、鋭意検討を進めてまいりたい。
 また、法案第十条第二項において、同条第一項に規定する中期目標は、すべての主要な国が、公平なかつ実効性が確保された地球温暖化の防止のための国際的な枠組みを構築するとともに、温室効果ガスの排出量に関する意欲的な目標について合意をしたと認められる場合に設定されるものとし、政府は、当該主要な国による国際的な枠組みの構築及び意欲的な目標についての合意が実現するよう努めるものとすると規定したところである。
 さらに、同条第四項において、同条第一項に規定する中期目標及び同条第三項前段に規定する長期目標の達成に資するため、法案第四章に定める基本的施策を総合的、有効適切かつ効率的に講じなければならないと規定するとともに、同条第一項に規定する中期目標が設定されるまでの間においても、同条第三項前段に規定する長期目標の達成に資するよう、同章に定める基本的施策について積極的に講ずるものとすると規定したところである。

八について

 御指摘の千九百九十年比二十五パーセント削減に伴う国民負担について、副大臣級検討チームの下に設置したタスクフォース(以下「タスクフォース」という。)においては、モデル分析を行った結果、いずれの場合においても二千二十年の可処分所得は二千七年と比べて増加するものの、二千二十年に温室効果ガスの排出量の千九百九十年比二十五パーセント削減を達成する場合には、排出量が千九百九十年比四パーセント増加する場合と比べて、可処分所得は減少するものと試算された。
 しかし、各国も高い目標を掲げ世界的に地球温暖化対策が進展する場合、炭素税の税収を単に家計に還付するのではなく地球温暖化対策への財政支出や国債の償還に充てる場合又は海外との排出量取引を活用する場合には、国民負担等の経済影響を緩和できる可能性等が示された。また、従来の分析手法には限界があるとの指摘もあり、これまでのタスクフォースでは、新たな産業や市場の創出、イノベーションの促進等のプラスの効果の評価の仕方も必ずしも十分に検討できていないことから、国民負担について現時点でお答えすることは困難である。
 タスクフォースについての小沢鋭仁環境大臣の発言については、民主党の政策をどの程度モデル分析に取り入れることができるか、という観点で発言したものであって、モデル分析そのものは、客観的、科学的に行うべきものであると考えており、恣意的で公平性を欠くという認識はない。
 タスクフォース会合については、平成二十一年十一月十九日に第五回会合が開催された後、タスクフォースの中間取りまとめが同月二十四日に開催された副大臣級検討チームの会合及び同年十二月十一日に開催された地球温暖化問題に関する閣僚委員会に報告された。その後、タスクフォース会合は開催されていないが、新たな産業や市場の創出、イノベーションの促進等のプラスの効果の評価の仕方等、必ずしも十分に検討できていないものについて、地球温暖化問題に関する閣僚委員会等の場において、引き続き検討を重ねていくこととしている。

九について

 欧州連合(以下「EU」という。)及びその加盟国である二十七か国は、二千二十年に千九百九十年比で温室効果ガスの排出量を二十パーセント削減し、一定の条件を付した上で、これを三十パーセントとする旨を、本年一月二十八日付けで国連気候変動枠組条約事務局に提出している。この目標は、EU加盟国である二十七か国について二千九年に同事務局に提出された目録のうち、千九百九十年及び二千五年の排出量の値につき、土地利用、土地利用変化及び林業を含まないものを用いて計算すると、二千五年比では、それぞれ約十三パーセント及び約二十四パーセントの削減となる。
 我が国の中期目標と比較してEUの目標が意欲的か否かについては、各国が二千二十年の削減目標を達成する手段に関する国際的なルールについての今後の議論、EUが最終的にどのような目標を設定するか、それを達成するための具体的な手法等についても勘案する必要があり、次期枠組み作りに向けた国際交渉が引き続き行われている現時点において述べることは適当でなく、今後、交渉の推移を踏まえつつ適切な時点で、総合的な観点から判断すべきものと考える。

十について

 原子力については、法案第十六条において、国は、温室効果ガスの排出の抑制に資するため、温室効果ガスの排出の量がより少ないエネルギー源への転換を促進するために必要な施策を推進するものとし、特に原子力に係る施策については、安全の確保を旨として、国民の理解と信頼を得て、推進するものとすると規定したところである。