質問主意書

第174回国会(常会)

質問主意書


質問第一一五号

社会保険病院、厚生年金病院、船員保険病院の存続に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十二年六月十六日

小池 晃   


       参議院議長 江田 五月 殿



   社会保険病院、厚生年金病院、船員保険病院の存続に関する質問主意書

 社会保険病院、厚生年金病院、船員保険病院については、昨年の臨時国会で公的存続を可能とする独立行政法人地域医療機能推進機構法案(以下「同法案」という。)が国会に提出されている。同法案が成立すると、各病院の職員は独立行政法人地域医療機能推進機構(以下「新機構」という。)に雇用されることになり、その規模は合計で二万八千人を超えると言われる。しかし、これほど大規模な職員の移行・移籍に関して、同法案では労働条件や雇用のあり方などの基準について触れられておらず、職員からは賃金をはじめ自分たちの働き方がどうなっていくのか、との不安が寄せられている。また、新機構に移行するまでの病院施設の拡充に関する要望も寄せられている。そうした事態を踏まえ、以下の点について質問する。

一 同法案の趣旨でもある地域医療機能の推進は、病院のための土地や建物が確保されるだけでは達成できず、その施設で地域医療推進のために意欲的に働く職員によって達成されるものである。その労働条件は、職員のモチベーションに大きく関わるとともに、とりわけ深刻な医師・看護師の定員の確保にとっても極めて大きな影響を与える。
 事実、RFO(年金・健康保険福祉施設整理機構)に出資されてどこの病院でも売却される可能性があるとの風評が起こってからは、多くの職員が展望を失い退職し、その補充のために看護師等の募集をしても、その職員の確保すら困難で、現在でも定員に満たない病院が多数存在する。
 この新機構の発足に当たっては、国家公務員OB(いわゆる天下り)は別にして、少なくとも、正規職員やパート職員などの非正規職員を含むすべての職員を移行の対象とすることに間違いないか。

二 同法案の成立により新設される新機構の職員の労働条件について、厚生労働省は統一した給与規定や就業規則を作るという。現在の独立行政法人全体の平均給与は、国家公務員の給与に対してどれだけの比率になっているか。

三 新機構の職員となった場合の退職金の扱いについては、どのようにするのか。

四 社会保険病院の厚生年金基金についてはどのように扱うことになるのか。
 社会保険病院の厚生年金基金は、福祉施設を一切作らず、保険給付に特化してきたように、健全な基金運営を行ってきた。基金は職員の退職手当も財源の一部にして運営されており、六十歳から支給される社会保険病院の厚生年金基金は職員の確保や老後の生活についても重要なもので、存続させるべきだと考える。政府の考え方を示されたい。

五 健康保険法第百六十一条では、事業主と被保険者の健康保険料負担は折半と定めているが、同法第百六十二条(健康保険組合の保険料の負担割合の特例)では、事業主の保険料負担を増額できることになっている。
 社会保険病院の健保組合では、福祉施設を一切持たず、保険給付に特化し、健全財政に努めてきた結果として、保険料の負担割合は、事業主五十七・八対被保険者四十二・二となっている。これは労使間の協議により築かれてきたものであり、今後も尊重すべきではないか。

六 同法案の附則第四条に、業務の委託の特例として、「平成二十五年三月三十一日までの間に限り」とある。来年四月一日から新機構が発足するが、なぜ、このときから新機構が運営することができないのか。
 多くの社会保険病院、厚生年金病院、船員保険病院が抱える問題の解決には、保有と経営が分離していることが障害となってきた経過を踏まえ、一刻も早い対応が必要だと考える。
 とりわけ、新機構の職員として雇用が確定するまで委託経営が継続することから、新規職員の募集に大きく影響することになる。東京・新宿区の社会保険中央総合病院では、RFO移管前は看護師の応募が多数あったが、売却の不安が広がると、医師とともに多くの看護師が職場を去り応募も激減した。そのために全体四百床のうち、看護師不足のために一病棟五十床が、二〇〇八年末から閉鎖されたままとなっている。加えて、国家公務員OB(いわゆる天下り)の高額報酬も二年間続くことになる。業務委託期間を長くする必要性はなく、きちんと職員の労働条件などを担保し、二年を待たず、出来る限り早急に直接運営するようにすべきではないか。

七 今日の地域医療の現状は極めて厳しく、対象病院の地域や利用者からは、新機構ができ直接運営するまでの間にも、必要な施設整備・拡充を求める声があがっている。特に産科・小児科は、厚生労働省調査でも、産科診療所が三年間で半減、小児科も減少するなど、民間ベースでは維持そのものが困難で、撤退が相次ぎ、公的病院がその役割を果たすことが、今求められている。
 東京・大田区の社会保険蒲田総合病院では、大田区内の年間出産数約五千五百人のうち、一割の五百五十人の出産が行われていたが、二〇〇八年十月から休止したままとなっている。RFОのもとで、長期にわたる譲渡・廃止という風評から、医師や看護師・職員が展望を持てず退職し、その減員分を募集しても集まらない事態が続き産科が休止に追い込まれている。今日、蒲田総合病院の産科再開は、同地域にとっても緊急の課題となっており、蒲田総合病院を守る地域連絡会からは「産科を再開すれば病院経営に好転をもたらすことになる。移行前に産科の復活をすべきだ」と切実な要望が寄せられている。こうした要望に応え、国としての支援策を検討すべきではないか。

八 現在、全国社会保険協会連合会以外が委託運営をする病院においても、求められる地域医療の水準からみれば、一刻も早い施設整備・拡充が求められている。
 例えば、東京北社会保険病院は、地域医療振興協会が委託運営しているが、もともとは国立王子病院が出発点で、一九八六年に「行政改革」の名で廃止が決められ、地元住民による十年にも及ぶ存続運動で一九九四年、廃止の後医療として「社会保険病院」建設が約束され、二〇〇五年四月ようやくフルオープンに漕ぎつけたものの、その後も売却の風評にさらされて今日に至っている。
 現在、東京・北区を含む「区部西北部医療圏」は東京都の基準病床数よりも三百三十床(本年三月時点)も不足し、北区の消防署の話では、救急車の四割がすぐに搬送できず待機せざるを得ないような事態が起こっている。正に命に関わる地域医療体制整備の遅れが東京で起こっている。北区議会も、全会一致で同病院の存続を求め、医師会とも百床増床の合意がなされ、具体的には周産期母子医療センターとして産科、小児科を中心にした増床を検討しているという。都内でも基準に達しない地域医療にとって貴重な動きと言える。
 本来なら、国立病院廃止の「後医療」として作られた経過から見ても、特別に国の責任が重く、国として必要な手だてが打たれるべき病院である。少なくとも、今後、委託運営を前提に委託先が自ら施設拡充を行う場合、早急に工事に着手できるよう、国として迅速に必要な手続き等が進められるようにすべきではないか。

  右質問する。