質問主意書

第174回国会(常会)

質問主意書


質問第五三号

風力発電に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十二年四月八日

紙 智子   


       参議院議長 江田 五月 殿



   風力発電に関する質問主意書

 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」という。)によると、国内にある出力十キロワット以上の風力発電施設は二〇〇八年度末時点で千五百十七基、総設備容量は百八十五万四千キロワットとなっており、政府は二〇一〇年度末までに三百万キロワットとする目標をかかげている。
 再生可能エネルギーは発展が期待される分野であり、風力発電もその一つとして活用がすすむ一方、風力発電施設の周辺住民から健康被害の訴えが出されている。他にも施設建設による大規模な森林伐採や自然破壊、希少猛禽類のバードストライクなどが指摘されるとともに、事業者の住民・関係者に対する情報公開や事前説明の不備・不足、不十分な環境影響調査も多々見受けられ、早急な対応がもとめられる。
 政府がこれらに適切に対応せずに事業を拡大すれば、結果的に風力発電による健康被害を増大させ、再生可能エネルギー事業に対する国民の不信感をも増幅させることになる。
 そこで政府の現状把握と対応について、以下、質問する。

一 風力発電事業の現状について

1 風力発電施設の二〇〇九年度末時点の設置基数及び設備容量並びに過去三年間の年間発電量実績(キロワットアワー)を示されたい。
2 政府は「二〇一〇年度末までに三百万キロワット」という目標の達成にどのような見通しを持っているか、所見を示されたい。
 また、目標達成が困難となっている要因について、所見を示されたい。
3 政府がこれまでに風力発電事業及び民間の風力発電事業者に対して交付した補助金総額を示されたい。

二 風力発電施設をめぐる全国の問題事例の把握について

 風力発電施設の周辺住民が健康被害を訴えた事例としては、環境省が二〇〇九年度に調査した愛知県豊橋市・田原市、愛媛県伊方町の他、静岡県東伊豆町や長崎県宇久島の人体と家畜(肉牛)の事例など、各地で報道がある。
 これらの他、台風など自然条件による施設の故障を理由とした撤去も相次いでいる。
1 これまでに全国で建設された風力発電施設の全基数及び設備容量、そのうち稼動中止又は撤去となった基数及び設備容量を中止又は撤去の理由別にそれぞれ示されたい。
2 朝日新聞社の調査(二〇〇九年十二月十七日掲載)によると、稼働中の風力発電施設のうち三十か所(十八道県三十一市町、三百四十二基)で住民が騒音被害による体調不良、環境破壊などを訴えており、その約九割は不眠、頭痛、めまい、耳鳴りなどを訴えているとしている。
 政府は、稼働中の施設に対して住民・関係者から反対、苦情等が出ている箇所を把握しているか。該当する地域の市町村名について、健康被害、景観等の理由別、把握した年次別に示されたい。
3 前記朝日新聞社調査によると、計画段階の施設建設に対する反対の動きは、四十二か所にのぼっている。政府は、計画段階での反対や懸念、不安などを承知しているか。該当する市町村名を示されたい。
 また、福島県川内村では建設計画の段階で、首長の判断により中止となったが、このように建設以前に計画中止となった事例について、当該市町村名と中止理由を示されたい。

三 風力発電等による低周波・超低周波領域の影響調査について

 環境省は二〇一〇年三月二十九日、「風力発電施設から発生する騒音・低周波音の調査結果」(以下「〇九年度調査結果」という。)を公表し、風力発電施設からの騒音、低周波音が三地域四軒のうち一部の被害者宅に届いていることを明らかにした。より詳細な調査・解析は二〇一〇年度から四年間行うとしている。
1 健康被害の原因については、風力発電施設から発生する周波数がより低い空気振動(超低周波空気振動)にあるとする指摘や、低周波音や回転する風車の影などが総合的に影響するという指摘などがある。
 政府は、これらの指摘を承知しているか。〇九年度調査結果では、超低周波空気振動、低周波音、回転する影などの健康被害への影響の有無は明確になったか。
2 周辺住民による健康被害の訴えは全国的に起きていることから、二〇一〇年度以降の調査は、被害を訴えているすべての地域・被害者を対象に行うべきではないか。また、被害者の意向に応じて、被害者宅の超低周波空気振動の精密な測定を行う他、低周波音、風車の影の影響など総合的に調査すべきではないか。その上で、風力発電施設からの安全距離を科学的に明らかにすべきではないか。
3 低周波・超低周波による健康被害の症状には、激しい頭痛、吐き気、肩こり、胃痛、鼻血、口内出血、視力減退、手足のしびれ等々があり、それらは風力発電施設が稼動すると生じるため、発電施設に近い自宅からの避難を余儀なくされている人もいる。
 環境省は、調査を最長四年間目途としているが、その結果が出される四年後まで、こうした甚大な被害を受忍させるべきではない。健康被害の訴えが出されている風力発電施設については暫定的に稼動を中止するなどの対策をとるべきではないか。
4 NEDO「風力発電のための環境影響評価マニュアル」(以下「NEDOマニュアル」という。)では、「低周波音に係る環境影響を受けるおそれがある地域」について、「一般的には、対象事業実施区域及びその周辺、半径五百メートル前後の範囲内」としているが、豊橋市では一・三キロメートル離れた住民が健康被害を受けたと報道されている。健康被害は、地形の影響や個人差もあることから、NEDOマニュアルの「五百メートル」は運用上広範囲にとらえるよう、ただちに見直すべきではないか。
5 〇九年度調査が夏期には風力が得られず冬期に行われた事実をみれば、被害地域がそもそも風力発電適地かという疑問が生じる。政府は、健康被害、生態系保全、風況(年間発電可能量)などさまざまな角度から風力発電適地を公的に調査する体制を作るべきではないか。その上で、適地のゾーニングマップを作成すべきではないか。

四 政府の補助金交付の現状と事業の透明性確保について

 風力発電事業への政府補助金は、二〇〇九年度分から経済産業省資源エネルギー庁が当該補助金の交付に関する補助事業者を公募した上で、「外部委託補助金」として一般社団法人新エネルギー導入促進協議会(以下「NEPC」という。)に一括交付されるようになった。個々の事業者等はNEPCに補助金申請を行い、NEPCの外部有識者による採択審査委員会が交付先・金額を決定する仕組みとなっている。二〇〇九年度当初予算額は民間事業者を対象とする新エネルギー等事業者支援対策費補助金(以下「事業者支援対策費」という。)は約三百億円で、自治体出資法人や非営利民間団体等を対象とする地域新エネルギー等導入促進対策費補助金(以下「地域促進対策費」という。)は約六十三億円である。
1 これら二種の補助金は太陽光発電、風力発電、太陽熱利用、バイオマス発電、バイオマス熱利用、水力発電等々の事業に交付するものだが、NEPCは個別、設備別ともに、その申請件数及び補助金額を公表していない。
 事業者支援対策費と地域促進対策費のそれぞれについて、二〇〇九年度の申請件数、採択件数及び交付実績を太陽光発電、風力発電、バイオマスなど設備別に示されたい。
 また、同年度の補正予算額約百六十一億円についても同様に示されたい。
2 新エネルギー導入促進に関する補助金交付事業については、二〇〇八年度までは経済産業省とNEDOが民間事業者を介することなく行っていたものである。このように国や独立行政法人が補助金を交付決定する仕組みを、あえて民間事業者に仲介・交付させる仕組みに変えたのはなぜか。
 また、交付決定をNEPCに委託したことで、事業者が補助金申請に添付した環境調査結果、住民自治会への説明会議事録などの関係書類が経済産業省に提出されなくなり、「情報公開法」の適用範囲外として国会議員にも提出されない。多額の国費が補助金として民間事業者に投入され、かつ健康被害が訴えられている事業でありながら、情報の透明性が著しく後退しているのは問題ではないか。
 政府は環境影響評価法の対象事業に風力発電所を追加するべく同法の改正案を今国会に提出しており、規制強化を前にした駆け込み建設を後押しするような不透明な補助金交付は問題であり、二〇一〇年度以降の補助金交付に際しては、事業者に対し、補助金申請の関係資料はすべて公開するよう義務づけるべきではないか。
3 補助金交付決定にあたり、申請件数が何件で、誰が決定したのか等について、バイオマス発電、水力発電など風力発電以外の交付決定を行っていたNEDOは、申請件数及び審査委員全員の名簿を公表していた。一方、風力発電の交付決定を行っていた経済産業省は、審査委員名簿は公表していなかった。
 このように風力発電は以前から交付決定過程の透明性が低かったが、二〇〇九年度からのNEPC委託により、すべての新エネルギー導入促進に関する補助金について、申請件数及び審査委員全員の名簿が公表されなくなった(現在は委員長のみ公表)。交付決定が民間事業者に委託されたことで、情報公開が後退していることは問題ではないか。
 また、後述するように、関係住民への説明責任を果たさない事業者が見受けられることから、事業採択を行った審査委員名簿及び個別事業者への補助金額も公表し、税金の使われ方、交付決定の妥当性を国民が判断できるよう情報公開を広げるべきではないか。
4 NEPCという社団法人は、二〇〇八年十二月、社団法人日本電機工業会、社団法人日本機械工業連合会、電気事業連合会などの事業者団体が新エネルギー導入普及をかかげて結成したとされているが、前述の二種の補助金の交付に関する補助事業者の二〇〇九年度・二〇一〇年度の公募に対する応募はNEPC一社で随意契約であったことをみても、実質的には経済産業省の外部委託補助金の受け皿団体ではないか。
 このように補助金配分を事業者団体主体の受け皿団体に仲介させ、かつ補助金交付決定過程が不透明な現在の方法は不適切ではないか。
 今後は間接補助事業を止めて、国・NEDOが直接行うように戻すべきではないか。

五 北海道小樽市銭函の風力発電施設建設計画について

 日本風力開発株式会社(以下「同社」という。)は、石狩湾に沿って豊かな自然の海岸線がひろがる銭函海岸(小樽市銭函四丁目・五丁目)に、高さ百十八・六メートル、ローター直径八十三・三メートル、出力二千キロワットの巨大風力発電施設を二十基建設する計画を進めており、二〇〇九年度は計画・設計段階として同年七月三十一日、NEPCから六億七千万円の補助金交付決定を受けている。
1 同社への補助金が六億七千万円であれば、補助率三分の一の事業であるから、全体では二十億一千万円規模の事業ということになる。同社の予定する事業規模と同程度の事業の場合、どのような内容の計画・設計を行うのか。また、必要とされる計画・設計のそれぞれについて、補助金の積算単価はどのように設定しているのか。
2 同社は、二〇〇九年度の補助金申請にあたり、同年三月二十五日に「地元自治会説明会」を実施したとのことであるが、実際には建設予定地は工場群であり居住者はないことから、銭函四丁目・五丁目の工業団地の事業者に対して住民説明会を開き、「NEDOマニュアルによれば半径五百メートル内に住む人を地域住民と考えるので工業団地の事業者に向けて説明会を行った」としている。これはNEDOマニュアルに沿う「住民説明会」、「住民自治会への説明」とみなされるのか。また、風力発電施設から「半径五百メートル前後」の事業所等に勤務する労働者がいることから、事業者のみならず事業所・工場等の衛生委員会にも説明する責務が生じるのではないか。以上について、政府の見解を示されたい。
3 建設予定地にもっとも近い住民は札幌市手稲区山口団地の住民であり、「住民説明会」というのなら、これらの住民への説明会を必須とすべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。
4 同社は二〇〇九年十一月頃から何度も地元自然保護団体に「皆様とよく話し合いを詰めないうちに一方的な建設への手続きを進めるようなことはしませんのでご安心ください」と説明しており、自然保護団体が同社にボーリング調査の中止を要求していたにもかかわらず、同年十二月七日にはボーリング作業の現場が確認された。また、同じ頃、同社は自然保護団体に銭函の環境調査の中間報告を行う旨を説明し、自然保護団体も同年十二月中旬から数度にわたり中間報告書を要求したが、今日に至るまで提出されていない。
 こうした同社の対応について経済産業省は指導責任があると考えるが、政府の見解を示されたい。
5 当議員事務所としても、経済産業省及びNEPCを通じて同社に対し、二〇〇九年度の補助金申請の際に添付されていた住民説明会の議事録と環境調査結果を要求したが、経済産業省の指導をもってしても同社は提出していない。同社は国会議員が要求した資料をただちに提出すべきではないか。こうした同社の対応について、補助金を交付する政府は適切と考えているのか。同社は二〇〇九年度の補助金六億七千万円をすでに交付されたのか。
6 同社に対しては、四年分計三十八億円の補助金交付がすでに予定されており、六億七千万円はその初年度分と言われているが、これは事実か。
 これらの補助金について、同社は二〇一〇年度以降、補助金申請をすることなく受け取る見込みなのか。もしくは、補助金申請を毎年行う必要があるのか。
7 同社は健康被害の訴えが出されている長崎県宇久島の風力発電施設の事業者でもある。
 同社取締役の一人には元経済産業省職員が再就職しているが、現在も在籍しているか。
8 建設予定地の銭函海岸は百九十万都市札幌に近接していながら、汀線-砂浜-砂丘地帯-後背湿地-後背自然林がきれいな成帯構造を残しているきわめて貴重な自然海岸であり、とりわけ後背林のカシワ林は日本一と評価されている。環境省もこの貴重な海岸の「植生自然度」を最高ランクの自然草原・自然林としている。また、世界最大のスーパーコロニーとして国際自然保護連合(ICUN)レッドデータブックに記載されているエゾアカヤマアリの生息地であり、天然記念物オジロワシが飛来する地域でもある。
 政府は「生物多様性国家戦略二〇一〇」を閣議決定しており、生物多様性の見地からみて豊かな自然環境が残された地域に風力発電施設を建設することは、不可逆的な自然破壊、生態系破壊を引き起こすことになり、建設すべきではないのではないか。

  右質問する。