質問主意書

第174回国会(常会)

質問主意書


質問第三六号

稀少な水資源にかかる水源林など国土資源保全のための戦略的取り組みに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十二年三月一日

加藤 修一   


       参議院議長 江田 五月 殿



   稀少な水資源にかかる水源林など国土資源保全のための戦略的取り組みに関する質問主意書

 我が国の国土の六七%を占める森林は、生物多様性の宝庫であり、貴重な水源であると同時に、災害防備など様々な公益的機能を持ち、生命の維持に不可欠な国土資源(基本インフラ)である。
 しかし、我が国の森林の約六割を占める私有林においては、木材価格の長期低迷により林業経営が圧迫される一方、森林や水資源を求める様々な資本の参入が密かに進んでいると指摘されている。その背景には、世界の投資マネーがウォーターファンドとして水資源事業への投資を加速させており、それが世界の潮流になりつつあると指摘する識者もいる。
 このような投資が加速することにより、既に土地の利用や資源の占有についてグローバルな環境にさらされている我が国にとって、日本国民の人間の安全保障及び領土(国土)保全の視点から大きな影響を受けるのではないかと危惧するものである。
 以上のような事態に対し、国土利用計画法では都市計画区域外の一ヘクタール以上の土地売買について、都道府県知事に対する事後の届出を義務付けているものの、当該届出書は不動産登記の際の「登記要件」となっていないため、国・地方自治体は売買の正確な実態が掴みきれていないというのが現状である。
 そこで、「国土利用計画法」において「事前届出」制度を導入するとともに、当該届出を「不動産登記法」上の「登記要件」にするなどの法改正が必要であると考える。また、一ヘクタール未満の土地売買であっても水源地や地下水取水口については届出制にして採水量の報告を義務付けるなどの制度の検討も求められる。
 更に、地図混乱地域問題や地籍調査の遅れなども実態把握の障害になっているものと思われる。
 そこで、以下の質問をする。

一 資源戦略と安全保障について

 二年前のトウモロコシ、大豆等の穀物市場の高騰による世界食糧危機を契機に、世界各国は食糧不足に備えるための戦略的な資源囲い込みの動きを急加速させており、今や、世界農地争奪戦(ランド・ラッシュ)の展開が世界の潮流となっている。
 例えば、インド、中国や産油国はアフリカにおいて、また、韓国は国内需要の四分の一を国外の自国大規模農場で賄うためにロシア・ウクライナ地方等において、それぞれの国家戦略として農地を確保し、大規模農場を建設しているのが実態であり、先述した水資源事業への投資もその潮流の中にあると思われる。
 今や、食料の六割を輸入に依存している我が国は、世界食糧危機の際に価格高騰など甚大な影響を被ったことは記憶に新しい。「食の安全保障」の観点から食料自給率の向上を目指すことは勿論であるが、国家戦略として国外で自国向け農産物を生産しようとしている諸国とそれに遅れをとる日本の実状、気候変動による影響等をファクターとした、新たな「食料等の安全保障戦略」を描く必要があると考えるが、政府の見解を示されたい。また、食料安全保障について、いわゆる「総合安全保障」には如何なる対応が示されているのか、政府の見解を明らかにされたい。

二 地籍調査事業の加速化について

 地籍調査については、ドイツ、フランス、オランダ、韓国では完了し、地籍が一〇〇%確定しているという。一方、我が国では五二%が調査未了で、特に山林に至っては約六割が手つかずの状態にあり、このことが森林資源の保全や林業の展開(森林施業)、生物多様性の保全に大きな障害となっている。現実には毎年一%程度しか調査が進んでおらず、このままのペースで進めると調査完了までに五〇年近くかかることになる。
 そこで、国土交通省が簡易版として実施している山村境界保全事業と併せて、「森林区画整理事業」の様な位置付けで調査を実施することが望まれる。勿論、合理的な優先順位を付け調査を行うことも重要であるが、問題はその進捗率である。各省連携して本格的な地籍調査事業を加速化させ、少なくとも年間二~三%の進捗率になるようにすべきと思うが、政府の見解を示されたい。

三 林地取引の透明化について

 閉鎖的な相対取引で行われていた林地売買の透明化を図るため、森林関係者や地元金融機関、資産管理会社などが参画するオープンな林地市場を創設するとともに、同市場設立に対する支援措置や、同市場での取引を促進するためのインセンティブを働かせるために山林譲渡にかかる所得税、法人税の軽減措置を導入することが必要であると考えるが、政府の見解を示されたい。
 また、林地取引価格の適正化を図るため、地価公示制度のように「林地価格公示制度」や、「林地鑑定士」制度を検討してはどうかと思うが、併せて政府の見解を示されたい。

四 国土利用計画法の改正による監視体制の強化について

 森林のうち、特に公益上重要な水源林で保全が強く求められる区域(重要水源林)を指定する制度を創設し、森林売買の「事前届出」を義務付け、国土利用計画法に基づく「監視区域」とみなして「価格」と「利用目的」を都道府県知事がチェックできる制度に改める必要がある。
 勿論、この「重要水源林」に指定された区域については、長期管理計画の策定や遵守義務、売買の許可制が課される一方、立木部分を含め林地の相続・譲渡にかかる非課税等の税制優遇措置やその他の優遇措置を受けられるように配慮すべきである。
 現在、私有林の二割程度が保安林制度の指定を受けているが、地下水の取水や転売に関しての規制はなく、保安林についても同様の制度を適用すべきである。
 また、木材・林地価格の下落による林業経営の破綻などが原因で目的不明の売買が行われることを避けるためにも、私有林のうち、「重要水源林」や公益的機能の高いものについては公有林化する制度を創設するとともに、重要水源林公有化対策費、違法伐採等防止総合対策費などの予算措置と森林環境税的な税源措置とを併せて検討する必要があると考える。これらのことは、生物多様性の視点からも意義がある。
 以上の提言について政府の見解を示されたい。

五 水源林保護のためのガイドラインの策定について

 ドイツ、フランス、イギリスなどのEU諸国では、地下水保全のための法的措置やゾーニング(地区指定)に沿った土地利用規制措置が設けられている。即ち、公共水道の安全保持のため、湧水や地下取水地周辺を法律によって保全(保護)地域に指定し、経済活動を禁止又は規制している。
 我が国においても、地下水公水論の考え方の下、地下水源を守るために水源涵養保安林等のうち重要な森林(重要水源林)をゾーニング(地区区分)するためのガイドラインを国が策定する必要がある。
 同ガイドラインに基づき、水源林や重要水源林の定義を明確化し、「重要水源林」をゾーニングした上で、水源林・重要水源林の区分毎に土地利用の規制を設けるべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

六 林業・木材産業・住宅産業等の連携による再生ときめ細かな施策の実施について

 木材価格の下落と林業従事者の高齢化が進む現状にあって、林業経営には集約化・提案型森林施業の拡大によるコスト低減と効率化が不可欠であり、木材の品質の安定化と大ロットの安定供給には、中核企業を中心とした地域の製材業者等との連携・分担化システムの構築による、川上から川下までの安定供給体制の確立と拡大が急務である。また、森林施業計画書の簡素化と同計画の厳正な実施を図るとともに、林業経営の置かれている状況として、①これからも林地の適正な維持管理を続ける、②林地を手放すつもりはないが森林施業はしていない、③林業経営を維持していけないので林地を森林組合や森林管理会社に長期管理委託する、④適正に管理できる者に林地を売却する、など様々なパターンが考えられることから、集約化などを含む林地流動化の促進や適正な森林管理を実施している者と、そうでない者に対するメリハリのある補助金や予算の配分を行うことが必要である。
 更に、植林放棄地や無関心森林保有者に対する固定資産税等を引き上げるとともに、適正な管理をすることができる者への売買については譲渡税等を引き下げて林地流動化を促進するなどきめ細かな施策が求められると思うが、政府の見解を示されたい。

七 地域材認証制度の普及拡大と林業・木材産業の活性化について

 持続可能な林業・木材産業循環システムの重要なカギを握るのは住宅産業の活性化である。そこで、日本の森林認証制度であるSGEC等とともに地域材認証制度の普及拡大を図り、住宅の新築、改築、リフォームに際し、住宅版エコポイント制度や環境・リフォーム推進事業のように、地域認証材の利活用の割合に応じた減税措置(例えばカーボンストック減税など)や補助金などの助成措置を講ずる制度を創設することが必要であると考える。それにより、地域認証材の利活用を促進し、ひいては、林業・木材産業の活性化、生物多様性の保全を促進させることになると考えるが、政府の見解を示されたい。

八 森林・林業に携わる人材の育成について

 国土資源としての土地・森林・水(地下水を含む)といった自然系インフラは、生物多様性の保全など重要な社会的共通資本としての要素を併せ持っており、多少コストがかかっても国・地方自治体が責任を持つべき社会基盤としての性格を有している。
 限界集落など辺境の再生に向けた取り組みは、里地・里山を再生させるとともに、山村に活力を復活させることになる。辺境の再生に当たっては、辺境部にとって必要な防人的な人材の定住を促進することが重要であると思われる。そのためには、国・地方自治体による、森林に対する監視体制の強化、林業の職業的魅力の向上、生活保障や賃金など労働条件の充実などに関するサポート体制の確立、林業のプロに向けての人材育成・再教育の取り組みの強化など、地域において職業としての林業の社会的評価が高まる様なシステムの構築が求められると考えるが、政府の見解を示されたい。
 また、地方経済の活性化と雇用の維持・拡大のため、作業機械のアタッチメントに対する助成等を行うことにより、建設業における機械と人をフルに有効活用する「林建協働」を加速化することが、路網や作業道を整備する事業の効率化を図ることになる。近年、国の公共事業の大幅な削減により、地方における建築・土木業等の中小零細企業の経営状況は深刻であり、この分野の活性化にもつながる右政策の推進を図ることが求められている。
 更に、ハローワークや「ジョブカフェ」と連携しつつ、「緊急人材育成支援事業」(雇用保険を受給できない方を対象に月一〇万円からの生活費の支給を受けながら職業訓練が受けられる制度)などの雇用対策を推進していく中で、これらを活用し、林業にかかわる人材の確保を図るべきと考えるが、併せて政府の見解を示されたい。

  右質問する。