質問主意書

第174回国会(常会)

質問主意書


質問第三一号

植林放棄地問題と稀少な水資源にかかる水源林や生態系機能の喪失及び地下水保全に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十二年二月二十四日

加藤 修一   


       参議院議長 江田 五月 殿



   植林放棄地問題と稀少な水資源にかかる水源林や生態系機能の喪失及び地下水保全に関する質問主意書

 日本に牧場を所有する外国資本企業の関係者によれば、日本の魅力は、「外国人でも土地が所有できる」ことだという。
 北海道には香港資本やオーストラリア資本、長野県白馬村にはオーストラリア資本が入り、千葉県内の一四八のゴルフ場のうち約二割強を外資が買収し、その保有面積は山手線の内側の約八割(四五〇〇ヘクタール)になるという。その他、沖縄県の主だったホテルのほとんどや、青森県、福島県、群馬県、山梨県、鳥取県、福岡県、大分県、宮崎県などのスキー場、ゴルフ場、温泉施設にも韓国資本や欧米系の外資が進出しているという。外国人(法人)による土地保有や所有に対し、公権力による介入を可能としている諸外国に比べ、我が国では、土地所有に対する規制が全くないに等しい実態にあり、しかもその土地所有権は、東京外環道が何年たっても東名高速に接続できない事例などが示すように、公権力に対抗できるほど強く、その所有権の範囲は空間及び地下資源にも及ぶのである。言うまでもなく、我が国の国土資源は日本国民共有の資産であり、それを保全する視点から、以下の点について質問する。

一 植林放棄地問題について

 (財)日本不動産研究所によれば、林地価格は十八年連続で下落し、立木価格も、平成十九年の調査で杉立木価格が一時上昇に転じたものの、その後、住宅着工戸数の低迷と経済不況による需要の急激な落ち込みがあり、立木価格全体としては二十五年以上にわたって下がり続けているという。
 そのような中で、安い森林を購入した後、皆伐し、非合法であるが植林を放棄すれば採算が見込めるとして再造林しないといった森林法違反の植林放棄が各地で発生している。林野庁が公表している植林放棄面積は、山手線の内側面積の約二・三倍強に相当する一万四〇〇〇ヘクタール(二〇〇九年)に及ぶが、実際はさらに多いのではないかと言われている。また、国土交通省の衛星画像などの判読によると、無植栽伐採跡地は二万一〇〇〇~一〇万二〇〇〇ヘクタールあると推計されており、九州南部では、四〇〇ヘクタールもの全山が伐採され、裸山になってそのまま放置されているケースも報告されているという。これらは、持続可能な林業経営と言われつつも、実態は本来のあり方とはかけ離れており、ゆゆしき事態が進行していると言える。また、健全な水循環の基本理念にも反するものである。
 普通林の伐採については森林法に届出制が規定されているが、このような事態にもかかわらず違反事例に対する罰金の適用事例は、平成十九年度は全国で〇件である。
 一方、地方分権の中、監視業務に携わる地方自治体の森林専門担当者が絶対的に不足し、市町村の林業行政が機能不全に陥っているという実態もある。
 政府は植林放棄の実態をどの様に捕捉しているのか、また、植林放棄に対して警告を発した件数と罰則を科した件数及び再造林はどの程度なされたのかについて示されたい。更に、植林放棄の実態調査と併せて、水源林や山地崩壊など水源涵養や防災上等の観点から、水源の諸元(名称、由来、湧出量、場所、ミネラル含有量など)に関する全国実態調査を実施すべきと思うが、政府の見解を示されたい。

二 植林放棄地に対する規制の見直しと強化について

 植林放棄は悪質な違反行為であり、言わば違法伐採とも言える。再造林をしないことでコストを抑えた木材製品が流通すれば、比較優位性を持つことから市場を歪めることになる。従って、木材価格等の監視体制と罰則の強化が必要である。これを放置することは、結果的に「悪貨が良貨を駆逐する」ことになり、違法行為がまかり通ることにもなる。
 このような植林放棄の実態に対し、森林法を改正し、普通林における伐採許可制の導入や植林放棄をした者に対する、当該放棄にかかる罰金相当分の林地等の公有林化、伐採時の山林所得減税分の返納及び各種減税措置の適用除外を行うなど、関係法の規制強化と監視体制の強化を図ると同時に、再造林を実行しやすくなるような政策的支援措置が必要であると考えるが、政府の見解を示されたい。

三 持続可能な林業経営について

 以上のような植林放棄の状態が続くことは、水資源の涵養、生物多様性の保全、そして、言うまでもなく持続可能な林業経営の観点などから看過できないことである。その意味でSGECなどの森林認証制度の普及が急がれる。政府は、いち早く同制度の普及拡大に向けて特段の措置をとるべきである。如何なる措置を考えているか政府の見解を示されたい。

四 一ヘクタール未満の水源地の保全について

 海外においては、「地下水の枯渇と地域の生態系攪乱」を懸念する住民と地下水を得たい企業との水争いが惹起されているという。我が国においては企業による事前の地元説明会を義務付けるルールさえないのが実態である。
 国土利用計画法では一ヘクタール未満の土地売買であれば届出さえ必要なく、進出企業は住民が知らないうちに地下水目当ての水源地を手に入れ、大量取水することが可能である。
 また、ファンドを含む外国人(法人)が仲介者やダミー会社を多用して真の投資者を明らかにしない形で、我が国の森林、特に山奥の水源林や経営不振の酒造会社、飲料水メーカーを購入しているとの噂が絶えないと聞く。
 ついては、林地保全や地下水保全のため、採水量規制や情報公開等のルール及び水源地等の取得などに関する法的整備を検討する必要があると考えるが、政府の見解を示されたい。

五 地下水源の保全について

 我が国では、河川、水路、ため池などの地表水については法的位置付けが明確になっているが、地下水や地下水源に関する法的環境は整っていないのが現状である。
 従って、我が国は森や水に恵まれた有数の資源国であるにもかかわらず、森林が下流地域に対して果たしている水源涵養機能や土砂崩壊防備機能、あるいは安全保障にかかわる問題が起きても、現行制度下で「合法的」な行為であれば、国が直ちに規制することは困難である。
 地下水汚染や過剰な取水行為があった場合、これを取り戻すための地下水涵養には気の遠くなるほどの時間を要するが、ドイツ、フランスなどの諸外国においては、水質保全のために、地区指定(ゾーニング)と土地利用規制が行われている。
 我が国においても、地下水源等の資源保全に向けた予防的な措置として、地下水涵養に必要な「保全域」を設定するとともに、上流域の保全を図るために、生物多様性の視点をも含めた総合的な施策の策定と法的整備を検討する必要があると思うが、政府の見解を示されたい。

六 「水基本法」の制定について

 我が国の場合、工業用水法、ビル用水法において、指定区域ごとに用水規制が設けられているが、生活用水と農業用の地下水採取は規制対象から外れており、地下水の涵養や地下水の利用調整を目的とした法律もないのが現状である。
 また、地下水が土地所有者に独占され、揚水量などの情報を非公開とすることも可能であるなど、地下水の利活用の実態把握がほとんど手つかずの状態にある。
 更に温泉についても、近年の温泉ブームによるボーリング数の増加に伴い、既存の温泉湧出量が減少、枯渇したなどの報告もなされている。
 地下水資源がグローバルな水ビジネスの対象となっている昨今、有限な地下水資源について、地下水は「私水」ではなく「公水」であるとの意識の変革とともに、地下水の利活用のルールづくりと法体系の整備が必要であり、基本法である「水基本法」の制定が望ましいと考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。