質問主意書

第174回国会(常会)

質問主意書


質問第二八号

国家公務員のキャリアシステムに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十二年二月二十二日

山下 栄一   


       参議院議長 江田 五月 殿



   国家公務員のキャリアシステムに関する質問主意書

 主権在民の民主主義国家において、公務員の本来の仕事は、主権者としての全国民に共通する社会一般の利益である「公共の利益」(国家公務員法第九十六条第一項)の実現を図ることである。そうであるからこそ、公務員は「全体の奉仕者」であって、「一部の奉仕者」ではなく(日本国憲法第十五条第二項)、公務は「民主的且つ能率的」に運営されなければならないこととされている(国家公務員法第一条第一項)。しかし今日、国家公務員のキャリアシステムのために、民主的で能率的な公務運営の実現は大きく妨げられている。それは、キャリアシステムが「特権的な公務員」を生み出す非民主的人事管理であるため、公務員が「一部の奉仕者」となり、結果として主権在民に反する公務運営を行うことになっているからである。そこで、「主権者としての国民全体に奉仕する公務員により、民主的で能率的な公務運営を実現する」との観点から、キャリアシステムの問題について、以下のように質問する。
 なお、答弁書においては、複数の質問項目を一括し、まとめて回答するのではなく、各質問項目について丁寧に回答するよう求める。

一 人事院の平成十九年度年次報告書では、「Ⅰ種試験による採用は制度上幹部要員たることを意味するものではないが、各府省における人事運用としては、Ⅰ種試験が実質的に幹部要員の採用試験としての機能を果たしていることは否定できない」と指摘している。また、平成二十年六月三日、参議院内閣委員会における国家公務員制度改革基本法案の審議の際に、渡辺喜美行政改革担当大臣は、キャリアシステムについて、「法律に書いてあるわけではございません。しかし、採用試験の段階で事実上幹部候補が固定化され、その後も同期が横並びで昇進していくという人事運用が身分制的であるという批判を受けてきた」と述べている。したがって、キャリアシステムは、幹部要員の選抜で採用試験を著しく重視する法的根拠のない人事慣行であると考えるが、いかがか。

二 キャリアシステムは、堅固な年功序列システムであるため、ピラミッド型の行政組織において職員の早期退職を促す結果、天下りの温床となっていると考えるが、いかがか。

三 キャリアシステムは、各省独立人事の中核として機能することで、いわゆる省庁割拠主義の原因にもなっていると考えるが、いかがか。

四 キャリアシステムに起因する天下りと省庁割拠主義は、行政改革の重要課題の一つである独立行政法人の整理合理化の障害となっていると考えるが、いかがか。

五 キャリアシステムは、二、三及び四で指摘したように民主的で能率的な公務運営の実現を大きく妨げており、主権者としての全国民に奉仕する公務運営を実現するためには、キャリアシステムの廃止が不可欠と考えるが、いかがか。

六 国家公務員法は、「職員が(中略)民主的な方法で、選択され、且つ、指導さるべき」(第一条第一項)、「職員の任用は(中略)能力の実証に基づいて行わなければならない」(第三十三条第一項)と、職員の民主的な任用のために能力実績主義を根本原則としており、採用時の一回限りの試験で幹部要員の選抜を行う人事管理は、元々想定していない。さらに、平成十九年の同法の改正では、「職員の人事管理は採用試験の種類にとらわれてはならない」旨の規定(第二十七条の二)が「人事管理の原則」として加えられている。したがって、キャリアシステムは、現在では明らかに国家公務員法(第一条第一項、第二十七条の二及び第三十三条第一項)に違反する人事慣行であると考えるが、いかがか。

七 国家公務員法は、職員が定年(六十歳)まで勤務することを原則としており(第八十一条の二)、その完全実施のためには、各府省で人事慣行として行われている職員の早期退職勧奨を止める必要があるが、その障害となっているのが、堅固な年功序列により職員の早期退職を促すキャリアシステムであると考えるが、いかがか。

八 日本国憲法第七十三条第一号は、「法律を誠実に執行」することを内閣が行う第一の事務として規定している。しかし、六及び七で指摘したように、国家公務員の人事管理では、キャリアシステムという違法な人事慣行のために、職員の採用から退職までの全過程において、国家公務員法の誠実な執行が著しく妨げられている。その意味で、国家公務員の人事管理は、明らかに日本国憲法(第七十三条第一号)違反の状態にあると考えるが、いかがか。

九 人事院の平成十九年度年次報告書では、キャリアシステムについて、「従来から、「採用時の一回限りの選抜で、生涯にわたる昇進コースまでが決定されるのは不合理である」、「閉鎖的なキャリア・システムが特権的な意識を生じさせている」などの批判がなされてきた」と指摘している。キャリアシステムは、幹部要員の選抜を採用試験に著しく重点を置いて行っているため、人事管理全般におけるキャリア職員とノンキャリア職員の区別につながり、一で指摘した渡辺大臣の説明のように、結果として一種の身分制度のように機能していると考えるが、いかがか。

十 キャリア職員は、任用を通じて「特権的な公務員」となり、さらに天下りを通じて国民の中でも「特権者」となっている。これは、明治憲法下の「天皇の官吏」と思想的に通じるところがあり、日本国憲法が求める「主権者としての国民全体に奉仕する公務員」に反すると考えるが、いかがか。

十一 キャリアシステムは、職員の新規採用の段階から一貫して公務のジェネラリストを養成しようとする仕組みであり、特定分野の専門家であるスペシャリストを養成するものではない。したがって、キャリアシステムを中心とする人事管理では、航空管制官や国税専門官等のスペシャリストの職員が、各府省の局長級以上にまで昇進することは困難であり、実際にもそういう任用がなされてこなかったと考えるが、いかがか。

十二 今日の公務はどの分野でも専門性が非常に高くなっており、各府省の局長級の幹部職員といえども、担当分野では高度な専門知識が求められる状況となっている。そのような状況下で、スペシャリストの重視と専門職の正当な評価は、民主的で能率的な公務運営の実現のために不可欠であると考えるが、いかがか。

十三 公務における政策の企画立案は、常に実現すべき「公共の利益」が何であるかを現実的・具体的に考えながら行わなければならず、実務と離れた机上の勉強では真の能力は身に付かないと考えるが、いかがか。

十四 公務における業務管理能力については、採用試験の段階では判定できないと考えるが、いかがか。

十五 特に幹部職員は、「主権者としての国民全体に奉仕する公務員」であることの強い意識を持っていなければならず、それをチェックするための面接重視の試験を任用のあらゆる段階で徹底して行う必要があると考えるが、いかがか。

十六 十三、十四及び十五で指摘したように、中央省庁の幹部職員に求められる能力は、公務員採用試験の受験の能力とは本質的に異なるものであり、実際の職務遂行を通じてしか身に付かず、適正な判断もできないはずである。したがって、採用試験に著しく重点を置いて幹部要員を選抜するキャリアシステムは、本質的に間違った人事管理の方法と言わなければならないと考えるが、いかがか。

十七 人事管理上、採用試験を考慮するのであれば、成績上位者に給与面で期間を限定した処遇をすることで十分であり、それ以上に採用試験を重視することは妥当でないと考えるが、いかがか。

十八 平成二十年六月三日の参議院内閣委員会で、渡辺喜美行政改革担当大臣は、キャリアシステムの廃止について、次のように明言している。
 「昨年の国家公務員法改正による能力・実績主義の導入と併せてこれらの改革を実施していくことによって、まさに採用試験の種類にとらわれず、能力ある多様な人材が能力と実績の評価に基づいて幹部候補として育成され幹部へと登用されていくようになり、現行のキャリアシステムは廃止され、根本的に異なる仕組みができ上がるものと考えております。」
 キャリアシステムを廃止する方針を現政権が踏襲するのは当然と考えるが、いかがか。

十九 国家公務員制度改革基本法は、キャリアシステムの廃止を主要な目的として立案されたはずである。しかし、同法は、採用試験を「総合職試験・一般職試験・専門職試験」等に分け(第六条第一項)、「総合職試験」を「政策の企画立案に係る高い能力を有するかどうかを重視して行う試験」と位置付け(同条同項第一号イ)、さらに「幹部候補育成課程」では、「管理職員に求められる政策の企画立案及び業務の管理に係る能力の育成を目的とした研修を行うものとすること」としている(同条第三項)。したがって、「総合職試験」と「幹部候補育成課程」を直結する人事運用が行われる場合には、逆にキャリアシステムを維持強化することになると考えるが、いかがか。

二十 キャリアシステムの維持強化にならないためには、大学卒業者の採用試験で「総合職試験」と「一般職試験」の区別をしてはならないと考えるが、いかがか。

二十一 国家公務員制度改革基本法によれば、「総合職試験」の採用者と比較して、「専門職試験」の採用者は、幹部候補になる可能性が低く、専門職を軽視する非常識な人事管理が続くことになる可能性が高いと思われるが、いかがか。

二十二 政策の企画立案は、常に特定の行政分野について行われることから、その能力も、特定の行政分野に係る専門的知識と無関係に判定することはできないはずであり、幹部要員の選抜は、「専門職試験」の採用者についても、「総合職試験」の採用者と同じ条件とすることが合理的と考えるが、いかがか。

二十三 国家公務員制度改革で重要なことは、特権的意識とは異なる職業公務員としての高いプライドを持った優秀な幹部職員を育成することであり、そのためには、「主権者としての国民全体に奉仕する公務員」という意識を徹底させる必要があると考えるが、いかがか。

二十四 平成二十年六月五日、参議院内閣委員会において可決された「国家公務員制度改革基本法案に対する附帯決議」においては、幹部候補育成課程について、「公務員が憲法第十五条第二項に規定する全体の奉仕者であることを踏まえ、課程対象者に特権的意識を持たせるものとならないよう研修等において十分配慮しなければならない」とされている。この附帯決議は、全会一致をもって可決されたものであり、現政権がこれを尊重するのは当然と考えるが、いかがか。

二十五 二十四の附帯決議を実現するためには、幹部候補育成課程において、日本国憲法が依拠する民主主義思想や、「全体の奉仕者」、「公共の利益」の意味等について深く考える哲学的な研修を徹底して行う必要があると考えるが、いかがか。

  右質問する。